第4話 ミッション
黙々と夕食の時間が過ぎ去っていく中、お父様が、言いにくそうに言葉を発する。
「アリー、殿下とはどうだった?」
お父様が今日の対面について切り出し始める。正直に怖かったとは言えるはずもなく...
「素敵な方でしたわ。また、お会いしてみたいです。」
お父様に殿下の顔を立てる発言をして、今日の対面について思い返す。
全てを見透かされているかのような目と、探るような言葉遣い。どれをとっても、同年代とは思いたくないくらい恐ろしい。
前世のアラサー記憶を持っている私からしてみれば、パートナーより主君として付き合いたい人だと思った。(前前世でよく、あんなに惚れたな...私)
「そうか、ラズリのほうはどうだった?」
ラズリというのは私のお兄様でラズリ・サイレント。簡単に言えばシスコン兄貴だ。
「年下だと思いたくないくらい、達観している方でしたね。」
「そうだろうな。あの方はこれまでに類を見ないくらいの天才だ。」
お兄様の言葉にお父様がそう返す。殿下は、前世の記憶を持つ私を上回るレベルで、大人びているし才能がある。まだ8歳だというのに、様々な功績を残してきた。言うならば、味方なら強力だが、敵なら最凶といった所かな。
沈黙が訪れた頃、お父様が突然、爆弾を投下してきた。
「......実は、第一王子殿下の婚約者候補にアリーの名が上がっているんだ。」
「.....ムグッ!?」
お父様の言葉に食べ物が喉に詰まりかける。そんな私の様子など、お構い無しにお兄様と、お母様が興奮し出す。
「まあ!それは本当なの?あなた」
「本当ですか!?父上」
母と兄の予想よりも婚約を喜ぶ様子をみて、予定より早く婚約が決まりそうなことにアリーは焦っていた。このまま、放っておくと王族に婚約を勧めかねない親と兄の態度に、アリーが話を逸らそうと大通りに行きたいことを話し始める。
「そ、そういえば、お父様!明日、大通りに行きたいのですが...」
「大通り...か。行くのは構わないが、用があるのか?」
言いながらアリーはおもった。言い訳考えんの忘れたわ......と。痛恨のミスを犯し、背中に冷や汗が流れはじめる。外面はニコニコと笑顔だが、内心は超焦っていた頃、救世主が現れた。
「失礼ながら、旦那様...お嬢様はもう8歳です。市井の事が気になり始めてくるお年頃かと......」
「そ、そうなんです!お父様、町が気になりますわ!」
私の事情を何も知らないはずのカンナが、助太刀をしてくれる。アリーがカンナの助太刀に乗っかり、不自然なほど、高速で首を縦に振る。
「ほう、いいだろう。護衛騎士を数人とカンナを連れて行け」
「ありがとうございます!お父様」
一瞬、訝しむような顔をしたかと思ったら、一転、大通り行きを承知する言葉にアリーは歓喜に溢れる。
今日のミッションが終わったアリーは、肩の力が抜け、それからの夕食は穏やかな気持ちで居られたのだった。
「よっしゃあ!今日のミッションは成功ね!これで町へ行けるわ!」
夕食が終わり、自室へと戻ったアリーは、拳を高々と挙げ今日のミッションの成功を祝う。
明日行く大通りは、スチュワート大通りと言って、テレストシーラという町の中心に延びる通りだ。
サイレント公爵領から、遠い所に位置するのだが、一番近い大通りは、ここしかない。(めっちゃ不便)
「そういや、なんでカンナはあの時助けてくれたのかしら.....」
お父様に許可を出して貰ったときのことを、アリーは思い出す。あの時、カンナが助太刀してくれなかったら私は絶体絶命だっただろう。でも、カンナは事情を何も知らないはずなので、どうして助けたのかがアリーには分からなかった。
「まっ、いいか。そういう気分だったんでしょ!」
難しいことを考えたくないという自身の我儘から、考える事を放棄し、明日の予定を立て始めようと椅子に座り、ペンを持つ。
「えっと、明日は...カンナや護衛達の目を盗んで、暗黒ギルドを探す必要があるわね。」
暗黒ギルドというのは、簡単に言うならば何でも屋。暗殺でも、情報収集でも、盗みでも、護衛でも、スパイでもどんな任務も請け負い、その道のスペシャリストがその任務を実行するという、善と悪の狭間に位置するかのような場所だ。
任務を遂行する代わりに、無事遂行したら、多額の給金を求められるところもポイントだ。
しかし、暗黒ギルドは数が少なく、大通りのような人が集まりそうな所にしか存在しない。そして、普段は、よくある店に化けていることが多いと噂で聞いたことがある。
「見つからない可能性もある...でもやらなきゃ!全ては、私の平和な生のために!」
深く決意してから、キャンドルの火を消し眠りにつく。このときのアリーは知らなかった。大通りでの出会いが、自身の運命を大きく変えることになることを.....。
前世と前前世を思い出した悪役令嬢、家出をして平民になる!〜処刑を回避したいご令嬢の奮闘記〜 六角錐 @wakuseiryoku
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