第3話 第一王子
アリーは今、第一王子と向かい合うようにして座っていた。
「本日はよろしくお願い致します。殿下」
「ああ、こちらこそ」
断罪された身ではあるが、一通りの王妃教育は受けた来た。今の私なら、殿下に乗せられることは無い。さぁ、殿下。覚悟は出来ておりましてよ、前前世みたいに思い通りにはならせませんわ。
そう思いながら、心の中で"悪女の微笑み"を口に宿す。
「本日はわざわざご足労頂きありがとうございます。王都からさほど遠くないと言えども、少し変わった位置に存在するので、大変でしたでしょう?」
サイレント公爵家邸が位置するのは、四方を山に囲まれていて魔法が使えないと来れない所にあり、魔力は持つが、魔法が使えない平民用に外に連絡網も設置してはあるが、貴族用では無いため、訪問予定の貴族は転移魔法でこちらへと来てもらうことになっている。
「さほど大変ではなかったよ。転移魔法を使ったらすぐに来れる位置にあって助かったな。」
「ふふふ、それは光栄ですわ。」
嫌味の応用を用いた心理戦が繰り広げられる。
アリーは話している中であることを思った。
(前前世の初恋なはずだけど、驚くほどなんも感じない)それは、前前世の記憶があるからなのか、それともまた別の力が働いているのか、それは分からない。今あるのは、矜恃プライドと好戦的な意欲だ。
「そうだ、サイレント嬢。今日はちょっとした手土産を持ってきたんだ。受け取ってくれるかな?」
「まあ、殿下が?ありがたく頂戴致しますわ。」
殿下が渡してきたのは、王都で栄えているルシール商会が手掛けている、食用花を用いた色とりどりのお菓子だった。
渡された時、アリーは直感的にこう感じた。"試されている"と。アリーにとっては舐められず、避けることが最重要課題。となれば、ここでの正解は.....
「このようなものを頂けるとは、お近づきの印と思って大切に食べさせて頂きます。」
アリーがあえて、少し馴れ馴れしい素振りを見せる。殿下はこういう女性はお嫌いだから、適度に嫌われるはず!
この後、お兄様と殿下のお約束もあるでしょうから今日はこれにて、お終いかしらね。次、殿下とお会いする前に公爵家との縁を切らなければ...私が婚約者にされてしまう。
アリーがそう考えていた頃、殿下の護衛騎士らしき人が近づいて、殿下に耳打ちする。
「すまない、サイレント嬢。次の予定が入ってしまっていて、本日はこれにて失礼するよ。」
「承知致しました。次に会う機会を楽しみにしております。」
アリーが殿下に向けてお辞儀をし、この対面は終わった。最後まで気を抜くことが出来なかったアリーは自室に戻り、寝台へとダイブした。
「はぁああ、つ、疲れたわ...」
思いっきり詰まっていた息を吐き出すと、楽になった気がする。高度な心理戦を行っていた中で気休めにと、息を落ち着かせることが出来るはずもなく、詰まりに詰まった息でアリーは苦しんでいた。
対面は終わったが、休んでいる暇はない。公爵家から離れるためには協力者の存在は必須だ。
何せ、サイレント公爵邸が魔法でじゃないと来られない位置にあり、アリーはまだ転移魔法が使えないからである。
「公爵家の人達はNG、となると外か。」
外に出るにしても、お父様の許可が無ければ出られない、今日の夕食の時にでも相談してみましょう。
夕食の時間になるまで、魔法の勉強をしようと本を開く。
この世界、アッドレッドには魔力が存在する。魔力は全ての人間が持っており、体の一部となっているもの。貴族は魔力を用いて、魔法と呼ばれるのを扱うことが出来る。前世の言葉を使うと非科学的なものをアッドレッドでは使える。
魔法は平民には使えない。持っている魔力が少なすぎるためだ。魔法には属性があり、炎、水、風、雷、土、氷、闇、光の8属性だ。
アリーはこの中で、炎属性だと診断されている。
「魔法の他にも、魔術というものがあり、これは限られた者しか使えない.....」
魔術の属性は魔法の属性と同じ8属性の他に、八雲というこの世界で禁忌とされる属性が加わって、9属性存在する。
魔法や、魔術を使うときは詠唱を唱えなければならない。だが魔術を扱える人は、魔法は無詠唱で発現できる。魔法の最上級系魔術は、王国国宝魔術師と呼ばれる称号を手にできる者でなければ無理。
「私はこの体だとまだ大した魔法も使えない.....。前前世だとサイレント公爵家に伝わる、魔術を使えるようになったんだけど...、8歳の私にはまだまだ無理なのよね。トホホ」
アリーが魔法本を読んでいると、使用人達がバタバタと走り回る音が聞こえてきた。
「お父様とお母様が帰ってきたのかしら。」
そろそろ夕食の時間だと推理して、本を閉じる。
協力者を得るために大通りに出かけたいというのを上手く、誤魔化して言わなければいけないわね。大通りには、暗殺者ギルドもあるだろうし、お金の力で何とかなるはずよ。
「お嬢様、御夕食のお時間でございます。」
「分かったわ、カンナ。」
扉の外から声を掛けてくるカンナに返事をしてから、席を立つ。本を棚にしまい、もう冷めてしまった紅茶の残りを飲んでから食堂へと向かう。
「お父様、お母様、お帰りなさいませ」
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