貴方のための鈍感少女
タノウエ
知らないフリ
私の名前は
高校3年の女…ではある。
言い切れないのにはワケがあって。
何故って?それは…
「杏。可愛い?あたし今日スカートにしたの!」
「お?いいんじゃない?『俺』はもっと短い方が好みだけど」
「えぇ!?男の子はちらりズムが良いとか何とか…」
それは大多数だろうね。
「
「えー!短いの可愛いもん!」
牡丹。私の可愛い幼なじみ。
女の子を体現したような黒髪ロングヘア。
胸のアルファベットは後ろの方だと思われるくらいのスタイル。
言葉遣いも仕草も甘いこの子は男心をくすぐることしかできないだろうね。
現に私はずっと焦がれてる。
想いが届かないのも、世間で認められないのも理解はしてる。
だから悪あがきに男装なんかしてこの子の側にいるんだけど。
「見えたら困るのは牡丹だよ?誘ってるとか言いがかりされても怖いし」
「大丈夫大丈夫!短いのは杏にしか見せないもん!」
「…そ、そっか」
何でこの子はナチュラルに刺してくるんだ。
「杏もカッコいいんだからもっとお洒落してもいいんじゃない?あたしの目の保養になる!」
「俺はいいよ…別に他の子にモテたところで」
牡丹に見られなきゃ意味ないと言いかけたのを停止させた。
…言ってたら?
「え?ところで?」
「いや、何でもない。俺の理想は高いからさ」
「…なにそれぇ!笑っちゃう!」
「ほんとね」
私は牡丹の笑顔が好きだった。
無垢な表情、あどけない声、時折涙ぐむ瞳。
全てが愛おしい。
「あ、今度ね!あたしの家誰もいないから、杏とお泊まりパーティしようと思って!」
「…急じゃない?」
「急だよ?でもほら!こんなに可愛いあたしとお家デートできるのよ?」
得意気になりながら赤くなってるよ。
余裕ないのバレバレ。
私も声が震えるくらいには嬉しくなってるからお互い様か。
「たしかに役得過ぎるお誘いだね。よし、牡丹。夜は覚悟しとけ?」
「…うん」
神妙にならないでよ。拒否してよ。
「じゃ、じゃあ。今度の土曜日行くから」
「待ってる!パジャマパーティもしよ!」
「だね」
無理やりテンション変えてるところも牡丹らしい。
前からそうなんだこの子は。
何かしらテンションの浮き沈みがあると明るく振る舞う癖。
処世術と言えば聞こえはいいのかもしれないけど、時折無理をしてないか不安になる。
「夜更かししたとしても次の日は休みだし問題ないね」
「うん!だから遠慮しないで!」
なにそれ。本気になっちゃうよ。
もちろんあの子は私みたいに邪推してないことを言ったんだろうけど。
楽しい時間はすぐに過ぎる。
学校を行き来する毎日をしていたらあっという間に土曜日になってた。
ーー
あたしの名前は
高校3年の女の子。
ずっと計画を練っていたお泊まりパーティーを決行する日はもう今日。
杏に拒否されないかドキドキだったけど、受け入れてくれて嬉しかった。
なんてね。
杏があたしのことを好きなのはずっと前から気付いてた。
女の子同士なのに変だよって何度あの子を泣かしちゃったことか。
本当に今思うと申し訳なくなる。
だってあたしも今は杏が好きだから。
フったことで杏は男装をし始めてた。
理由は恐らく男の子ならあたしがOKすると思ったからだろう。
女の子モードの杏も男の子モードの杏もどちらも愛おしい。
あたしはあえて女の子らしく振る舞った。
その方が男の子しやすいでしょ?
楽しみすぎたのか、回想しながら杏を待っていたらチャイムが鳴る。
来た。にやけちゃうの止めなきゃ。
「はーい!杏!来たね!」
「うん。来たよ」
「何かお泊まりセット持ってると恋人みたい~!」
「…冗談でも止めときなよ?」
冗談で言わないって。
「へへへ!テンション上がるとこうなるのだ!」
「いつも通りで何より」
家に迎え入れると早速写真立てに興味を示す杏。
あちゃー。
「えーと。この彼は…」
「あー…えっと」
よりによってママめ。
置きっぱなしのモノが元彼とのものとは。
うかつだった。
「…カッコいい彼氏じゃないか」
「違う違う!もう別れてるから!」
気の迷いだよ。
杏と付き合えない悲しみを紛らわすために他の男の子に行ったの。
「へぇ。因みにどこまでいったの」
「顔が怖い!杏ってそんな重い系男子だっけ!?」
「いやいや。大切にしてくれそうな人ならまだしも軽い奴だったなら許せないし」
嫉妬してる。嬉しい。可愛い。
「ま、まぁ…思春期だしそれなりには…」
「それなり、ね」
もう聞いてこないみたい。
「まぁいいや。とりあえず部屋入れてよ。荷物置きたい」
「ごめ!案内する!」
期待しかない。あえて元彼の話をしたのは良かったかも。
「あたしの城へようこそ」
「あんまり変わらないね」
そりゃほぼモノ置かないし。
「見慣れた感じでしょ?」
「うん。制服くらいかな?変わってるの」
「かも」
何だろう。だんだん口数が減る。
ねぇ。杏。もういいんじゃない?
ーー
部屋で無言になってしまった。
牡丹には彼氏がいた。
その事実は多分初めて知った。
裏切られたって思ってしまった自分が情けなくて仕方ない。
自由だろ?
なんで私は牡丹一筋なのにそっちは作ってるの?
感情の制御が効かない。
「牡丹。今からすることは明日になったら忘れて。許されないことをするから」
「どうしたの?」
「いや、俺も一応男だし。分かるだろ?」
「…抵抗しとこうかな」
しても止めないから。
「力でやれるならどうぞ」
口を付けた。柔らかい。甘い。
それしか頭に無かった。
目の前には牡丹の顔。
ほら、そっちも目を閉じてされるがまま。
「杏…怖いよ」
「そう思うなら突き飛ばしてよ」
できないくせに。
「…」
何も言わないんだ。
何回も何回も忘れないように牡丹の口をふさぐ。
何度も。
「少し休憩させて?」
止まらなくなってた。
あぁ。ベッドの上に押し倒してる。
記憶がない。
「もう少しで終わるから」
「…ならいいけど」
受け入れるんだね。
ふと元彼とどこまでいったのかの問いが蘇る。
「もう上書きしてるよ。口までだったから」
察して言ってくれるんだね。
ホッとした。この子の初めては私が良い。
脱がしてみて分かった。
これは…私が本当に男なら離さない。
十分に手を洗ってきてるから大丈夫だよね?
それにもう準備はできてるみたい。
「ね、ちょっ…と…杏…」
「なに?」
「だめかも…」
知ってるよ。女の子の身体は自分でも分かる。
何がだめなのかもね。
「…されちゃった」
優越感と独占欲に支配される。
この子は私がもらった。
「もらっちゃった」
今日だけは。今日で諦めるから。
もう牡丹に負担かけないから。
夜までお互いを求めたのは実に至福だった。
ーー
あたしはウエディング姿の杏を見てとても綺麗に思えた。
高校の頃に比べてさらに大人っぽくなってる。
笑ってる。可愛いな。
隣にいる旦那さんも格好いいし、お似合いだやっぱり。
…あたしが立ちたかったけど。
旦那さんに杏の過去を話してもきっと信じてくれないだろう。
言う気もないしね。
さてと。鈍感なフリをしてたのは終わり。
これからは杏に振り向いてもらうためじゃなくて、ありのままでやっていかなきゃ。
もしもの話。
高校時代のあのお泊まりで。
杏からの想いをそのまま受け取ってたらどうなってたんだろう。
もし、女の子同士が恋愛して良い世界だったら?
考えても仕方ないIFがよぎる。
駄目だね。
あたしが気付かないようにしてたから今こうして杏は幸せなんだもん。
ずっと影で見守ってるね。
今ならブレないだろうし、今度飲みの時にはちゃんと好きって伝えたいな。
貴方のための鈍感少女はもういないから。
貴方のための鈍感少女 タノウエ @tanoue4649
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