死んだ猫
ツヨシ
第1話
「久しぶりだな」
帰宅の途中でのことだ。
街中で突然に声をかけられた。
かけてきたのは柳田だ。
懐かしい。
会うのは四年ぶり、いや五年ぶりか。
理由もなくなんとなく疎遠になっていたが、もともと仲の良かった男だ。
会えて嬉しいと思った。
柳田が笑顔で言った。
「覚えてるか。俺のアパート、このすぐ近くなんだ。今から寄っていくか」
柳田の部屋に行くのも久しぶりだ。
寄ることにした。
入ってすぐに気づいた。
気がつかないわけがない。
柳田がお茶を入れている間、部屋をこれでもかと眺める。
隅から隅まで。
じっくりと。
「はい、どうぞ」
二人で話す。
あれやこれや。
五年の空白を埋めるかのように。
でもどうしても気になることがある。
聞いてみた。
「そう言えば猫を飼っていたな。どうした。見当たらないが」
「ああ、もう死んだよ」
「それはいつごろだ」
「確か三年位前かな」
「そうか」
再び世間話。
でもまだ気になることがある。
聞いてみる。
「そういえばおまえ、鼻が悪かったな。治ったのか」
「いや、治ってないよ」
柳田は鼻が悪くて、あらゆる匂いがほとんどわからないと聞いていた。
それは今でも同じなようだ。
それだけ聞いて、俺はおもむろに立ち上がった。
「急用を思い出した。悪いな。帰るわ」
「えっ? ああそうか、しょうがないな。また遊びに来てくれよな」
「ああ、わかった」
部屋を出る。
柳田にはああ言ったが、俺は二度とここに来るつもりはなかった。
なぜなら柳田の部屋は、強烈な猫の臭いで充満していたからだ。
終
死んだ猫 ツヨシ @kunkunkonkon
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