朝を夢見る
色葉みと
朝を夢見る
ねぇ、朝を知ってる?
太陽が昇って世界を起こす、一日の始まりの時間。眩しくて心地よくて、とっても綺麗なんだって。
僕はそんな朝を夢見てる。
目が覚めたらいつも夜。
なんとなく起きて、なんとなく食べて、なんとなく眠るの繰り返し。
僕はずっと眠いんだ。だから生きるために必要なことをする以外、ずっと眠っている。
一日の大半を睡眠に費やしても、どれだけ心地よい寝床で寝ても、この眠さが改善されることはない。
「──ちょっと、聞いてる?」
「……あ、ごめん。考え事してて聞いてなかった」
この子は僕の唯一のともだち。みんなからはかわりものって呼ばれている。
そういえば、かわりものが他のみんなといる所を見たことがない。
「もう……! せっかく朝の話をしてあげてたのに! そんなだからなまけものって呼ばれるのよ!」
かわりものの言う通り、僕はみんなからなまけものと呼ばれている。
一日の半分くらい起きているみんなからすれば、僕はその通りなまけものだと思う。
「あ、あはは。本当にごめんね。出来たらもう一度その朝の話をしてくれないかな……?」
「……仕方ないわね。あなただから、特別よ? ちゃんと聞きなさいね?」
「うん! ありがとう──」
それから、かわりものは朝について話してくれた。
朝、波を駆け抜ける光の道。潮風を全身に浴びて、海を感じる。
朝、夜と手を繋ぐどこまでも高い空。風と心を一つにして、草原に寝転ぶ。
朝、木々の隙間から見える澄んだ青。緑の匂いを吸いこんで、森を過ごす。
そんな朝をこの目で見てみたい。僕の願いに、君は「いつか見せてあげる」と言った。
だから僕は「その時を楽しみにしてるね」って返したんだ。
***
あれからどれくらいが経っただろうか?
かわりものはいつからか、ぱったりと来なくなった。見かけることすらなくなった。もうかわりものを知っている者は居ないだろう。
君が来なくなったら僕はどうやって朝の話を聞けばいいの? ……まあ、何か事情があるんだろうけどさ。それでも、何も言わずに来なくなるなんて寂しいよ。
……ああ、
そろそろ眠ってしまおうか? 起きていても、やることもなければやりたいこともないから。……そうだね。眠ろう。
——————おやすみ。
「——きて。起きてよ」
懐かしい声がする。その声はもしかして……?
「なまけもの! 起きて!」
「……かわりもの?」
「そうよ。久しぶりね。でも今はそれよりも……ほら、見て」
促されるままに見てみると、そこに光が溢れ出す。
初めて見る光はとても眩しくてあたたかくて、心地よくて、綺麗で、何故だか涙も溢れてきた。
「これが朝よ。やっとあなたに見せられた。……ね、話した通りとっても綺麗でしょ?」
あの約束、覚えていてくれたんだね。
「うん……! とっても綺麗だね!」
君が与えてくれた夢の通り、朝はとっても綺麗だ。
朝を夢見る 色葉みと @mitohano
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