一曲目

 あたしのギターで始まる曲にシンバルが鳴ると、バスドラムの低音が体育館に疾走感のあるサウンドを響かせる。


「一曲目、KANA‐BOON『フルドライブ』いくよぉーっ!」


 あたしはステージの下に集まった二百人くらいの観客にむかって叫ぶと、ギターとドラムが引っ張るイントロにさらにベースが音を乗せていく。ノリのいい一部の生徒が「まってましたー!」「がんばれー!」と腕をふって声を出してくれる中、あたしはマイクに口を寄せて歌い出す。

 Aメロから走るような勢いのあるカバー曲を一曲目に持ってきたのは、もちろんライブを盛り上げるためなのと同時に、あたしの気持ちに勢いをつけるためだ。

 あたしの視界の端に二人が見える。

 タカ兄とその彼女。

 並んであたしたちのバンドの曲に身体を揺らしている。

 サビへと勢いよく曲が走る。


「フルドライブ、フルドライブ、走れ!」


 そうだ勢いが重要だ。


「フルドライブ、フルドライブ、曲がれ!」


 この二人を前にこのまま歌い続けるには勢いが大事なのだ。


「フルドライブ、フルドライブ、oh oh!」


 次のあの曲をタカ兄の前で歌うためには、このままのフルドライブで行かなきゃいけないのだ。

 二番のメロを歌い切り、再びサビへと曲が走る。


「フルドライブ、フルドライブ、走れ!」


 あたしは力の限りに声を走らせる――。

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