曲間MC

「――はぁ」


 一曲目を走り切って息を吐いたあたしは、この勢いを切らずに本命の二曲目に行こうとマイクをつかんで曲間のMCを始める。


「KANA‐BOON『フルドライブ』でしたぁー! やっぱりあたしたち若者は走ってなんぼだと思って、チョイスさせていただきましたー!」


 そう言って腕をふると、「最高だったー」「アゲアゲー!」なんて声を出して、観客が拍手や腕ふりで応えてくれる。あたしはその中にこちらへ右手を上げるタカ兄と、その横でタカ兄の左手に腕をからめる彼女の姿を認めた。

 長身でさわやかイケメンのタカ兄と、黒髪をすらりと伸ばした清楚美人な彼女。

 はた目にもお似合いの美男美女のカップル。

 見れば見るほど、あたしみたいなバンドで野郎どもと一緒に叫んでるような女とは違うタイプの女性で、その横に自分の姿を並べてみたあたしの胸はトゲトゲしく痛み出す。

 この痛みを誤魔化すために、あたしは大きく声を張り上げる。


「あたしも今日はとっても走りたい気分なんで、いい感じにあったまってます! 皆さんも走れそうですかぁー!?」


 反応よく「おおぉー!」と返ってくる声に、あたしは弱気になった心をふり払う。


「元気でいーぞぉっ!」


 そう叫び返して笑い声も起きる中で、あたしはドラムの足立に合図を送る。


「次の曲!」


 うなずく足立がジャーンとシンバルを一発鳴らし、タムとハイハットからなるリズムを刻み始める。


「これからやる曲は、この日のために作った曲です」


 ポップで軽快なドラムイントロをバックに曲紹介を始める。


「あたしもこう見えて女の子なんで」


 ちょっと自虐も含めたこの曲紹介は、計画通りの曲紹介で、


「ちょっと恥ずかしいですけど、片想いの女の子のラブソングを作ってみました」


 ここではにかんで笑うところも予定通りで、あたしが目をやればベースの磯辺も譜面通りのタイミングでベースを弾き始める。

 ぶっちゃけ、ちょっとどころじゃなくめちゃくちゃ恥ずかしいし、磯辺が言ってた通りもう完全に迷惑な片想いのラブなんだけど、


「聴いてください」


 それでもこの曲はここでらなければ、きっと一生誰にも届かないまま消えてしまう曲だから。

 あたしは瞳のはしっこにタカ兄の姿をとらえる。


「METAL FOOT BEACH『あたしの瞳に映るあなたは』」


 その姿がまだまだまぶしくキラキラに見えているから、あたしの指はギターを鳴らし、


「いつから輝いてたかなんて、もう覚えてなんかいないけど――」


 あたしの喉は想いを歌う。

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