彼との出会い① side梓

私の毎日はただ過ぎていくだけのものだった。朝起きて学校に行って帰ってきて寝るだけ。それだけの毎日。友達は居ないし別に欲しいとも思わなかった。


別に友達が居なくても寂しくない。私は一人でも平気だった。むしろ一人の方がいいとも思えた。私は高校に入学したての頃、暴漢に襲われそうになったことがある。その時は通りすがりの人が助けてくれた。でも私の心には決して浅くない傷が付いた。その時から男の人が怖い。分かっている。誰もがあんな人じゃないということは。それでも身体が反応してしまう。


そんな私にも趣味と言えるものがあった。それは本を読むこと。私はいかにも教室の隅に居そうな格好をしている。野暮ったい丸眼鏡をかけて口数も少ない。そしてその格好通り私は学校では教室の隅で常に本を読んでいるような生徒だった。


当然そんな私に誰も話しかけたりしようとしない。むしろそっちの方が好都合だった。誰にも話しかけられないから気を使って話すこともない。気を使って話すなんて疲れるだけだ。


だから私は今日も一人でいい。


そんな日がずっと続いていくと思っていた。その日、私は放課後学校の図書室にいた。何か面白い本でもないかと探していた。そんな私の目に一人の男の子が写った。


あれは…篠宮君?


そこにはクラスメイトの篠宮 叶人君がいた。図書室にいるってことは彼も本を読んだりするのかな?


そんなことを思った。でも私は話しかけなかった。何を話せばいいか分からない。向こうも話しかけられたら迷惑だろう。


そう思っていると予想外に彼の方から話しかけてきた。


「あれ?夕暮さん?」


「あ…篠宮君」


「やっぱり夕暮さんも本好きなんだね」


やっぱり?どうして彼が知っているのだろう?


「いつも教室で本読んでるもんね」


どうやら彼に見られていたようだ。私の事なんて誰も興味無いだろうと思っていただけに、彼が私のことを見ていたことに少し驚いてしまう。


「見てたんだ」


「うん。僕も本を読むことが好きだからね」


彼は優しい微笑みでそう言った。何故だろう。誰とも関わらないでいいと思っていたのに。それなのに何故か話しが合う人と会話が出来て嬉しいと思っている。


「それと君が見ていた本の作者、僕も好きなんだ。心情の描写が緻密で登場人物に乗り移ったような気持ちになる」


「あ、わ、私もそこが好きであの作者の本をよく読んでるの」


驚いた。まさかそんな所まで同じだなんて。


「分かる?でも僕が一番好きなのはミステリーなんだ」


「ミステリー?」


推理小説とかだろうか?生憎私はそれ系の本を読んだことがない。


「うん。ミステリーの徐々に真相が明かされていく時の高揚感がなんとも言えないんだ」


…そんなにいいのだろうか?なんだか気になってきてしまった。


「良ければオススメの本、貸そうか?」


「え?いいの?」


咄嗟にそう言ってしまった。今日話したばかりでそんなことを言ってしまうのはいささか図々しいのでは無いか?


そんなことを思っていたが目の前の彼は優しく笑っていた。…優しい人なんだな。


「うん。今ちょうど持ってるから」


そう言って彼は自分のカバンから一冊の本を取り出し、そして私に渡してくる。


「『あの日起こったこと』?」


「うん。その小説は既に迷宮入りとされていた事件がある小さなヒントから紐解かれていくっていう少し変わったミステリー小説なんだ。面白いから是非読んでみてね」


「あ、ありがとう」


彼は私に本を渡すと満足そうな表情で帰って行った。


「…楽しかったな」


それは今まで抱いたことの無い感情だった。ずっと一人で平気だと思っていた。これからもずっとこの日々が変わることなく過ぎていくのだと、そう思っていた。


でも彼と話すのがこんなにも楽しいのなら…彼と仲良くなりたい。



あとがき

しばらく夕暮さん視点のお話が続きます。

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全てに裏切られた僕は感情が壊れてしまった Haru @Haruto0809

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