第5話 閑話 動く闇
■????
とある商家の事務室に電話が鳴り響く。
そこにいた、中国の伝統服である
『もしもし、陳さんか?』
「やぁ、その声はヒシカワだね? ボクの方からも連絡をしようと思っていたところだヨ」
『陳さん……貴方の言った通りに女を送っていたけど、今、帝国警察に付きまとわれているんだ。あなたならどうにかできるでしょう?』
震える声で話す菱川の声を聞くも、電話にでている青年の表情は薄く笑うだけである。
そして、青年は少し考えた後で電話口の男へ答えた。
「残念だが横濱に向かう汽車の事故から帝国陸軍が動いていてね、こちらも商家がいくつか潰されたんだヨ。だから、キミを助けることはできないネ」
『帝国陸軍が!? どうして……まさか、その汽車にいたのは……』
「そう、キミが送る予定だった麗華サンだネ。土蜘蛛や鬼蜘蛛に襲われたけど生きてしまったところから、全部ばれてしまったようだヨ」
『そんな……どうして事故なんかが……』
絶望しているのか電話口の声が小さくなっている。
ため息をもらした、青年は菱川に向かって、止めを刺す。
「ボクはね。この二ホンで結構上手に商売していたんだヨ。だからね、こんなケチなことで足元を掬われるなんてゴメンなのサ。わかるよネ?」
電話口からの答えはない。
「
ガチャンと男が電話を切ると、部下の一人が頭を軽く下げて部屋を出ていった。
「さて、麗華サンか。これはもしかしたら当たりかも知れないネ」
先ほどの薄い笑いではなく、嬉しそうな微笑みを浮かべた男——陳龍成——は椅子の上でクルリと回り窓の外を見る。
窓の外に見えるのは横濱港。
大日本帝国が海外との交流を行う場所で、帝都に最も近い港ということで発展している場所だ。
陳は貿易商であって、食料などをやり取りしている……表向きは。
「陳様、”ご希望の商品”が届きました」
「それは良かった、持ってきてくれるカナ?」
日本人の男が下がると箱に入ったそれをゆっくりともってきて陳の座る机の上に置いた。
桐でできた箱、表面には古いお札が貼られている。
「これは期待できそうダヨ」
箱を開けて中を見た陳は閉じていた目を開いた。
その目は普通の人間のものではなく、爬虫類のように瞳が縦に細い。
「確かにこれは【河童の腕】だネ! これは高く売れるヨ。二ホンは怪異の多い国だから、こういう商売がやめられないネ」
ケラケラと笑う陳。
そう、彼の裏の仕事は【怪異】を売買するものだった。
表向きは普通の商家であるが、中華街を根城にしているチャイニーズマフィア【黒龍会】の現ボスが陳龍成その人である。
「さて、二ホンの女性はそれだけで外国人にウケがいいから、身売りもサイドビジネスでやっていたけれど……麗華サンはちょっと特殊なようダネ」
箱をに蓋をして、目を閉じると陳は部下から提出された報告書を改めて見直した。
麗華の乗っていた汽車が襲われ、鬼蜘蛛が麗華を直接狙っていたかのような動きを見せたらしい。
「【異能】を持っていない令嬢と聞いていたから、ヒシカワから取引を受けていたけれど……もしかしたら、もしかするかもネ」
閉じられた目と口元がゆるりと弧を描いた。
子供の様な無邪気な笑みに見えるが、周囲の部下達は恐れ、一歩引いている。
「麗華サンの居場所を詳しく調べて、ボク以外もこの事実を掴んだら厄介だから、早くね。この国ではこういうんだっけ”善は急げ”って」
とても善人には見えない風体の男が動き出した。
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