第3話 出会い
■車内
客車が横転させられ、怪我をした乗客もで始めている。
「いてぇ、いてぇよぉ」
「母様ぁ~」
乗客たちの不安や恐れなどの感情が渦巻き、客車を包み込んでいった。
バギィと上にある窓を突き破って、土蜘蛛の巨大な足が落ちてくる。
「このまま中にいてはダメ。皆さん、落ち着いて逃げましょう!」
麗華が声を上げて避難を呼びかけるも、恐怖で足がすくんでいた人々は動くことができなかった。
(どうしよう、どうしたらいいの……私に
そう思っていた麗華の前に、一瞬何かが走り抜ける。
何が起きたのだろうかと、麗華が思っていると客車が切断されたのか、目の前の乗客たちがズズズと動きだしていた。
フワッと風が流れ、緑色の髪をした美少年が切れて空いたところから下りてくる。
「帝国陸軍の対怪異部隊です。皆さんを救助に来ました。風の術で送り出しますのでなるべく固まってください」
人々が集まって固まっていく中、麗華も同じくその集団に混ざった。
帝国陸軍の軍服をキッチリと着こなしている美少年が呪文を唱え、手をかざすと集まっていた麗華達の体が浮かぶ。
上空まで上がったところで下を見ると、土蜘蛛が来たことで、汽車が横転し、客車が襲われているのが見えた。
だが、それを防ぐため異能者達が様々な異能を使って戦っている。
そのまま、他の乗客らが集まっている白く光る結界の中に下ろされる。
「ありがとございます」
「大丈夫ですよ、これが我々の仕事ですから……神谷隊長、乗客の避難は大体終わりました。現在、土蜘蛛への対応を続行中。数分もすれば決着がつくでしょう」
「そうか。ご苦労だ、風見大尉」
「はい! 引き続き、逃げ遅れた人がいないか探ってきます」
麗華がお礼を言ったのもつかの間、再び少年が空を飛んで車両のほうへと戻っていった。
その場には、救助された人の具合を見ている衛生班とそれを眺めている眼鏡をかけた軍人の男——神谷——がいる。
(この後はどうしたらいいのだろう……横濱の商家に遅れる連絡をしなくちゃ……)
ぼーっと、麗華がこれからのことを考えていると、再びゾワッとしたものを感じた。
(まただ、この感じはなんなの……?)
寒気の正体がわからないまま、周囲を見てみると結界のすぐそばから一際大きな蜘蛛の怪異が現れる。
顔は鬼のようになっており、何も知らない麗華でも、強そうということだけはわかった。
「鬼蜘蛛か……この結界じゃ、破られかねない。俺がでる!」
神谷が眼鏡をはずし、鬼蜘蛛の睨むとその瞳が虹色に輝く。
タタタタと駆けだし、結界を破壊しようとしている鬼蜘蛛の足元へと滑り込んだ。
ザッと、足を止めると土煙があがり、携えている刀を抜き放てば一瞬で鬼蜘蛛を斬り裂く。
鬼蜘蛛の血飛沫があがり、血の雨が降った。
「綺麗……」
グロテスクな光景のはずが、なぜか目が離せない。
ゴトリと落ちた鬼の首が麗華のほうを見て、ニヤリと笑った。
「ひぃっ……」
びっくりした麗華は声を漏らしたが、誰にも聞かれることはない。
鬼蜘蛛との闘いを最後に、土蜘蛛も去っていった。
◇ ◇ ◇
事後処理をしている中、身元の確認の処理をしている中で麗華の番が回ってきた。
「向かう先はどちらへ?」
「横濱港の方へ……こちらの商家へご奉公に向かう途中でした。遅れるとの連絡を早めにいれたいのですが……」
「神谷隊長、この住所は……」
「以前から、問題のあった場所だな。外国へ日本人女性を売っているという噂もあったな……」
眼鏡をかけた神谷が、麗華の持ってきた受け入れ先の資料を手に渋い顔を浮かべる。
日本人女性を売っている場所と聞いて、麗華の顔が青くなった。
『汽車の復旧後に皆様を輸送いたしますので、今しばらくお待ちください』
風見と呼ばれた少年が風の術を使って、遠くまで声を伝える。
そうしている間も、麗華は自分の身の振り方に悩んでいた。
「さて、あなたを本来の目的地に届けるのは危険となった。しばらく、身柄を私の方で預からせてもらおう。丁度、女中が一人産休に入って人手が足らなかったところだ」
神谷の言葉に麗華は顔をぱぁっと輝かせて涙を流して喜ぶ。
「ありがとうございます。短い間かもしれませんが、お世話にならせていただきます」
素直に喜ぶ、麗華に対して、神谷はふんと鼻を鳴らして全体の指揮へと戻るのだった。
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