第30話 Around the door
「ん……んん?あれ…僕は…」
頭を抱えたまま、番人の人が起き上がる。
読んでいた本を仕舞い、ニコッと笑顔を向ける。
「お前はっ…!あの、僕を殺しかけた奴の仲間…!」
ベッドから跳ね起き、僕に向かって突撃する。
「見えるんだよ。」
未来視で先を読み、対応する。力のステータス差で押し戻し、続ける。
「お前を殺しかけた奴はもう死んだ!というか…僕は殺されかけた側だろう…?一旦戻ってくれないか?事の顛末を全て話したい。」
「五月蠅い…共謀しただろ…」だが、なかなか引き下がってくれない。執拗いなぁ!
「一つ言おうか。もう、僕は君より強い。」
剣を力を抜いて離し、腕の下を通るように屈む。
そして、走力のパラメーターを全開にし、肋骨のあたりを軽く押す。
突攻撃の演算が行われ、思った以上に遠くに飛んだ。
「がっ…」
「なぁ、もう分かっただろう。自分の方が強いって。」
血を吐いているこいつに向かって蔑む目で見下ろす。僕に協力しない奴は全員敵。先輩が殺されたときに気づいた。なんでこんな簡単なことが分からなかったんだろう。自分に嫌気が差してくる。
蹴りを入れてやろうと足を引いた瞬間、視界端に銀色に光るものが見える。先輩では見えなかったはずの剣の突きも今なら視える。
足をサッと戻し、剣をベッドの上に滑らせる。そして、腕があるであろう位置を全力で踏みつける。
グニュッという感覚がした後、何か硬いものを貫く。骨が折れたと確信した瞬間、振り返り、剣を足で払い除け腕を抑えて悶えている
痛みで涙目になっているようだったが、構わず自分の顔の近くまで近づけ、尋常じゃない声で問いかける。
「なぁ…お前はプレイヤーなのか?」
一番最初に聞きたい、単純な質問だった。NPCだったら直ぐに殴り殺すし、プレイヤーだったら聞きたいことが山ほどある。
「あぁ……そうだ……私は一応運営サイドの人間だ…」
「じゃあ、脱出方法とかは知っているんじゃないのか?」
一拍置き、
「…………知らない…………」
その言葉は耳を貫通し、脳で処理するのに時間が掛かった。そして、処理の答えは憤怒であり、憎悪の言葉が矢継ぎ早に出てくる。
「あぁ!?じゃあ、なんで先輩を殺した?脱出方法も知らないのに。あまりにも無責任じゃないか?僕の……僕の大切な人を亡くしたんだぞ…?」
「………だが、トルをもう死と同義の状態まで追い込んだんだ…研究仲間だったからな……悪いが、そうなっている以上こちらも…」
「回復する手段はあった……」
自分でも聞こえない掠れる声を出す。それにはあちらも聞こえず、聞き返してくる。
「回復する手段はあったんだ!その証拠に、ここに居るトルってやつが動いてるだろ!確かに先輩は口下手で、誤認されることが多い!だけど、自責の念はちゃんとあった…だから、医務室まで行ってまで治そうとしたんだ!なのに!なのに…なのに………貴女が………殺したから………」
意図せず涙が溢れてくる。眼の前に居る奴を今すぐにでも殺してやりたい。だが、それよりも強い悲しさと、虚しさの感情が入り混じり、声を上げて泣く。
涙が枯れる頃には、猛烈な眠気が襲い、抗う術もなく、そのまま地面に吸い込まれるように眠ってしまった。
「……んぅ、んん?……」
香ばしい香りで目が覚める。ほろ苦いような匂い……コーヒーか?
まだ眠たい目を擦り、ゆっくりと体を起こす。コトンという音がし、ティーカップがベッドの横に備え付けてあるテーブルに置かれる。
「………なんのつもりだ?」
「…死んだ人を生き返らせる花がある。近くはないが…遠すぎると言うほどでもない…だが、必ずパーティーを組んでいなければいけないという制限もある。そして、このWW3は、その花を取ることで強制終了できるということも分かった……ただ…」
「そんなのがあるのか!?今すぐ案内してくれ!」
「だ、だが……」
「五月蠅い。早く案内しろ。」
何かを続けようとしていたが、それどころではない。再び殺気の籠った声で呟き、威嚇する。
「はぁ…まぁいいや。あとでこのことは話すよ…じゃあ、名前を教えてくれる?パーティー登録をしたいから。」
「あぁ…そうだな…」
少し、言ってもいいか迷ったが、この仮想現実では関係ないと思い、口にする。
「Around the door…廻戸 快。」
え?自分が魔王?殺人鬼?多分それ、冤罪です… むぅ @mulu0809
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