午睡
灰月 薫
午睡を貪ろうかと思い立って、しばらく身体を横たえてじっとしていた時だった。
あまりにも動くのが億劫になってしまったからか、ふとナマケモノについて聞いた話を思い出した。
ナマケモノが木から降りるのは週一回ほどだと言う話だった。それ以外は木の上でのんびりと苔を食べて過ごすらしい。
いつ聞いた話だったかは思い出せない。テレビだったか、ネットだったか。
今の自分は丸でナマケモノみたいだ。いや、目を瞑っていて見えないのだから、本当にナマケモノになってしまったのかもしれない。
それならば、もう学校にも職場にも行かなくて良いのだろう。週一回だけ木から降りれば、あとはのんびり生きていれる。
悪くないかもしれない、ナマケモノ。
あーあ。
自分が呆れた声を出した。人間の自分が、ナマケモノの自分のそばに立って見下ろしていた。
無論目を瞑っていたのだが——瞼がすっと透けて、その様子が見えたのだ。
人間の自分は口を歪ませて言う。
あーあ、こんなになっちゃって。
そう言った自分に、自分が言い返す。
「こんな」とは何だ、むしろ崇高な姿だろうに。低俗な人間とは違うのだ。
絶えずせっせかせっせか心臓を動かさなくてはならない人類とは。
存外なほど、人間はすぐに口をつぐんだ。
追い討ちをかけてやろうかと思ったが、残念なことに目を離した一瞬で人間は液体になって蒸発してしまった。
ほぅら、やっぱり人間はせかせかしてるんだ。
マンテリングに類似点を猋ることも出来ないから、妛貝のマザーグースがサクリエントされない。
その点、愛䆐がトーヘヌカイザってことは——
ぴろん。
突然スマホが鳴って、瞼が弾け上がった。
そうして数秒間天井を見つめてから、やっと自分が寝落ちしかけていたことに気づく。
マンテリングも妛貝のマザーグースも存在しない。人間は液体化して蒸発しない。
ここには一人の寝落ちかけた人間が横たわっているだけだった。
スマホを確認すると、ただ広告メールが来ただけであった。後で迷惑メール認定しなくてはならないようだ。
しかし、そうしたら春が椦かってしまう。駲聘が柢褹ならないから———
ぐぅ。
午睡 灰月 薫 @haidukikaoru
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