第60話 ラストアタックは唐突に

「あはははははは!もっとがんばれ!また捕まえちまうぞ!捕まったら痛いぞぉ!」

「ちくしょう!ここまで化け物だとは聞いてないぞ!」

 楽しい!

 何も含む事の無い殺し合い!目についた奴全部殺していい!しかも殺しても殺しても湧いてくるし煽りも罵倒も織り交ぜて最高だぜ!

 湧き出す魔物の質も上がっているが相変わらずの混雑でギチギチだ、しかしその中でもしっかり動く奴も現れだした。


『ブルクラッシュ!』

『スカイドライブ!』

 天と地で挟み込む必殺の連携攻撃!

「ははははは!小癪小癪!魔物風情が連携スキル何ぞ使いおって!アレキサンダー流・霞二段撃ち!」

 天地同時の攻撃を天地同時に迎え撃って打ち砕く!拳が腹を突き破り、噴水のような返り血を浴びながら四方に迫る雑魚共を旋風脚で切り裂く。殺して殺して、息つく暇も無くまた殺した。


 真紅に輝く竜を殺した、炎の巨人を殺した、氷の女王を殺した、豪奢な戦乙女を殺した、巨大ロボットを殺した、変身を繰り返す泥の塊を殺した、死を振りまく骸骨を殺した、統率された騎士団を殺した、羽の生えた大きな人間を殺した、多様なスキル扱う半人蜘蛛を殺した、出てくる全てを殺し続けた。

 敵はどんどん強くなる。腕がちぎれ、下半身がもげ、首がへし折られ、全ての魔力を使い果たした。それでも殺す、スキル修羅道の効果により勝ち続ける限り永遠に殺し続ける事ができる。

 勇者には目もくれなくなった。どうせあいつは魔物を出し続けるしか無い、そうしなければ俺は容赦なくダンジョンの奥で邪神とやらを殺す。どうやらあいつはそれが大層嫌な様子だ。


 1秒毎に殺す、数秒ごとに命を失いそうになる、そんな遊び。

 笑顔の俺と苦渋に満ちた勇者の遊びの様な戦いは、時を忘れる程続いた。


 ――――――――――


 正真正銘の化け物だ。

 こいつが殺しているのはそれぞれ別の世界を終わらせた化け物達、そこにいる生物を殺し尽くし勝利し続けた化け物達、それが拳の一振りで消し飛ばされている。

 どんどん強くなっている。元から化け物だったが、あそこまでではなかったはずだ。自分で気づいているんだろうか?お前の強さは存在するだけで世界が発狂するほどだ。


 もう戦い続けて1ヶ月になる。途中で休む方法も考えていたっていうのに台無しだ。血を啜り肉を食いちぎるなんて本当にあるんだな。怪我をした事もあったが気づいたら治っている、そして今じゃ怪我すらしない。化け物って言葉でも足らないな。


 俺自身も何度も殺されて復活した。余分に痛めつけられて堪ったもんじゃない。今では近寄らずにアイテムボックスで魔石を回収して地上に吐き出す作業だけを続けている。

 もう少しだ、もう少しで終わる。本当に損な役割だったぜ、でも俺は結局大した事も出来なかったしなー。仕方ない仕方ない、これも勇者の役目だろう。後はきっとアレキサンダーがなんとかしてくれる。


 今になって考えたら俺、イキりすぎて恥ずかしかったよ。イキるのが格好いいみたいに思ってたし、ルーリアに唆されたってのもあったが、それにしても酷かった。

 故郷ではよかったな。俺はみんなを守りたかったし、実際俺の力でみんなを守れたはずだ。その後がなぁ、まぁ全て今更だ。


 さて、時間だな。さようなら。



 ――――――――――



「『勇者の誓い』『ブレイブモード』『真・光明剣』!」

「遅い遅い遅い!アレキサンダー流・弧月陣!」

 欠けた月を描く片手廻し受け!勇者の剣を弾き、カウンターの拳が勇者の腹を貫通する!

「ぐぼぉぉぉっ!……げぼっ!やっぱつえぇな」


「あぁん?どうした品切れか?もっと出せよ!足りねぇよ!!」

「悪いな、本当に品切れなんだ。おっとまだ殺すなよ、最後なんだ」

 勇者が姿を見せた、そういえばしばらく見ていなかったな。どれくらいの間だ?よく思い出せない。


「無限に出せるんじゃなかったのか、何がしたかったんだ」

「もう分かってるんじゃないのか?ハイになってるのか?邪神が溜め込んだ力は全部出し切った。いつか完全に顕現するため、世界の支配権を確実に奪うため、他勢力を消し飛ばす為の力がお前一人に潰されたんだ。もう邪神のやぼーは終わりだ」


「………」

「俺はこいつの力を吸い出す為のポンプ役でしかなかった。お前の存在を最初から知っていたのか、途中で利用することを思いついたのかは知らない。ただ世界は俺を利用してお前に邪神の力を処理させようとした、そしてそれは今成功したんだ」


「なんでそんな事がわかる」

「母なる世界は寛大だぜ!繋がったら全部教えてくれた、俺は勇者だからな!世界のお気に入りのオモチャさ!俺を餌にして邪神に食いつかせたんだ。食いついたが最後、飲み込もうとしても俺には強力な加護が付いていて逆に引き上げられたというわけだ!俺はオモチャで!餌で!ただのポンプだ!何事もなかったらきっとゲームみたいに活躍して楽しく過ごす物語を見物していたんだろうさ!」


 なんだ、随分スレたなこいつ。頭のイカれた悪ガキだった頃の方がまだ見れたぜ。

 本当に見ちゃいられねぇ。


「なぜ妹鬼、ルーリアや町の人間を殺した」

「あぁ。町の人間は殺したかったわけじゃない、力を得た時に漏れてしまったんだ。だからこれは罪滅ぼしでもある。ルーリアには気をつけろよ、あいつは世界の代行者気取りだ。予言だか神託だかで頭がイカれてるんだろう。俺が殺したがきっと復活してる」



 つまらねぇな、さっきまであんなに楽しかったのに。仕組まれた茶番だと?勇者はただのお仕事をやっていた?滅茶苦茶ムカツクぜ。

「白けたわ。もう帰る、お前はこのまま勝手にくたばれ」

「待ってくれ!頼む!ダンジョンの奥で邪神が復活してる、だが力も意識も無い半端な復活だ。殺してしまえば完全に排除出来る。それが最終目的なんだ」

「あぁ?んなもん知るか」

「ミレイなんだ!俺がちゃんと逃げずに守るように!ミレイが入れ物にされたんだ!既に力も意識も無い、ミレイの体に邪神の魂が移っただけだ、守ってやってくれ!」


 腹に大穴を空けたまま叫びやがるから口端から汚い血が飛んでくる。不快だぜ、なんで俺がそんな事をしなきゃならんのだ。イライラさせやがってクソ勇者が!

「オラァ!!」

「がああああ!な、なぜ・・・」

「頼み事なんて出来る立場かよクソガキ、自分でケリつけろ」

 イラついたのでもう一度顔面を砕いてから大事に取っておいたソーマをぶっかけた。流石巨人製の入れ物だぜ、あの戦いでも割れないとはな。ケチらずいっぱいくれたしよ、巨人サイズの一人分なのかも知れんが。






 勇者も勇者の言葉も無視して帰る。遊びは終わりだ。

 入口がどの辺りだったか分からないので適当に天井をぶち抜いて外に出た。


『あ!アレキサンダーだ!』

『アレキサンダーが帰ってきたのです!』

「なんだお前ら、ずっと待ってたのか」

『凄かったんだよ!ずっとすごい量の魔石が吹き出してたんだ』

『いくら集めても無くならなかったのです。母もとっくに完全回復して魔石のお風呂で泳いでいるのです。勝ちマクリ!って叫んでたのです』

「なんだそりゃ」

 どうも中で倒していた大量の魔物の魔石がこっちに出ていたらしい。再回収しないように勇者が運んでたんだろう。



「勇者も邪神もお前も生きている、なぜだ?」

「!」

 妹鬼だ、突然現れやがった。厄介な能力だな、指輪以外にも色々持っていそうだ。

「オラァ!」

「がはっ」

『えぇぇぇっ!』

 会話など不要!有無を言わずに気絶させて捕まえた!この手に限る!


「ちょっとイライラしててな、意味深な事を言って消えるとかされたらブチキレちまいそうだからよぉ」

『うーん、いいと思うよ!』

『本当に野蛮なのです。女の子にくらいは優しくするのです』

 こいつはふん縛って姉と対話させてからジャスティス尻叩き100連発だな。腫れ上がって垂れ流しながらさっきの雰囲気が出せるのか観物だぜ!




 邪神は消え去った。特に脅威もなく、超常の存在同士の争いの中で敗北した。

 ダンジョンは町と共に消え去り、勇者も姿を消した。

 馬鹿みたいな量の魔石の大部分は国に還元せずに全て大精霊にくれてやった。ダンジョンが無くなった以上、魔石の生成技術でも出来ない限り頼るのはよくないと考えたからだ。

 水の精霊王は巨大な窪地を作り、そこに魔石を流し込んで魔石の湖を作り出した。大量の精霊が集まる楽園となっているようだ。新たな第三勢力とか作るんじゃねぇぞ?


「ルーリア!無事だったか。なぜあんな事をしたのかはゆっくり話せばいい。お前が戻って本当によかった」

「ふん!お前は姉とはいえわた…」

「ナマ言ってんじゃねぇぞオラァ!ジャスティス尻叩き!ジャスティス尻叩き!」

「ぎゃいん!ぎひぃん!ひぃ、ごべんなざいぃ…!」

 やはり暴力!暴力は全てを解決する!

 脅威にもならないクソガキの制裁なんてこれで十分だ。暇な精霊を餌付けして見張りに付け、ルバンカに再教育を命じた。


「ありがとうアレキサンダー!本当にありがとう」

 ふわり、小さな光の玉がルバンカから抜け出して俺の元へ。

「おぉぉぉぉ!久々の!」

 力が溢れてくる!既に十分に強くなったはずなのに、欠けていた何かを取り戻すかのような、俺に必要な物だと確信出来るこの感覚!

「ありがとうルバンカ、もうずっとこの国に居ろ」

「あ、アレキサンダー!!……はい!ずっと一緒にいます!」

 よしよし、これで鬼族の事はこいつに任せていいだろう。



 鬼、魔族、人族、精霊が共に暮らす奇妙な国。竜のフレアに乗って再び訪れた巨人の里では興味を持つ巨人も現れ、数人を国に迎え入れることが出来た。

 ますます発展する我が国。俺に出来ることはあんまり無いんだが、まぁ王様ってそういうもんだろ?国に対して出来ることはないが、俺は独立独歩の真の王としてやらなきゃいけない事がある。



「世界樹よ!お前には興味が無いが、勇者を操った奴らをぶん殴らなきゃならん!道を示せ!」


 ワシャワシャ!ワシャワシャワシャ!

 これまでになく激しく揺れ動く世界樹!何かが落ちてくる!


『よく言ったわ!私と一緒に世界を破壊するわよ!』

「だれだお前!!」



 戦いは続く、俺を舐めているこの世の全てを分からせる日まで。

『アンナと仲良くなったアスナが三人で寝たいって言ってたのです』

 戦いばっかりじゃよくない!みんないい子で!いいおねショタを!






――――――――――

ここまで読んでくださってありがとうございます。

アレキサンダーくんの冒険は続きますが、このお話はここまでです。

お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


新作を始めました。こちらもよろしくお願いたします。

喜びには感謝を ~感謝の為なら飯も炊くし流星も砕く~

https://kakuyomu.jp/works/16818093087381441265



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ゲームっぽい世界に転生したので人間性を捨てて限界まで頑張る ~転生勇者もヒロインズも魔王もまとめてぶちのめす~ 無職無能の素人 @nonenone

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