第14話 高田さんは気まぐれな猫に似ている

 高田さんは気まぐれだ。


 そういうところは猫っぽいと思う。


 私に対してむけられる気まぐれが〝お願い〟だ。それは不定期にくるものだけど、週末にくることが多い。でも、もうくることはないだろう。高田さんは告白されたんだ。カレシが欲しいって言っていたし、きっと付き合うだろう。


 だけど……



「安芸、今日時間ある? 放課後デートしようよ」


「いいけど。デートって? いつもみたいに私の部屋でってこと?」


「うぅん。行きたいところあるの。いい?」


 そんなことを言われたので、私は驚きを隠すので精いっぱいだった。


 断る理由も予定もないので承諾する。


 休み時間での会話だ。それはあっという間に終わって、彼女はすぐに田上さんたち友達の輪に戻って行った。



 デート……


 分かっている。それが別段深い考えもなく発せられた言葉だということは。いつもの〝お願い〟だろう。


 でも放課後。行き先がマンガ喫茶だと聞かされたときは、また驚いた。



「どうしてマンガ喫茶なの? 私、普通の喫茶店とかに行くものと思ってた」


「じつは読みたいマンガがあってさ。でもお金ないからこれで済まそうってね」


「宮原さんたちは?」


「恵理子はマンガ興味ないんだよねー」


 そうなんだ。でも、言われてみればそんなイメージかも。



 そういう私も、マンガはほとんど読まない。だからビックリした。初めてこういう場所に来て。


 天井まで届きそうな大きな本棚には、ギッシリとマンガが収まっている。


 それだけじゃなくて、ドリンクもたくさんあるしフードメニューも充実している。


 マンガ喫茶ってこんなすごいんだ。


 高田さん曰く、最近はこういう場所も多いから、すこしでもいいサービスを提供しないと生き残れないんだと思う、とのことだった。



「高田さんはよく来るの? こういう場所」


「うん、たまにね。暇なときとか。恵理子は誘っても来ないし、一人でだけど」


「じゃあ……今日はどうして、私を誘ってくれたの?」


「うーん……これも練習、かな?」


 どうせ付き合うなら趣味の合う人がいい。


 だから、いつかカレシができたとき、いっしょに来るための練習だと彼女は言った。


 お行儀悪く寝っ転がりながらマンガを読んでいるものだから、スカートの中が見えそうだった。


 目を逸らし、誤魔化すように口を開く。



「……高田さん、付き合うの? 一年の子と」


「え?」


「告白されたんでしょ?」


 マンガから顔を上げた高田さんは、とても驚いた顔をしていた。


「告白? え、安芸告白されたの?」


「私じゃなくて、高田さん。一年生から告白されたんでしょ?」


 また、高田さんの顔が驚きに染まる。それから、恥ずかしそうに苦笑した。



「見てたの? もー、人が悪いなぁ」


「ご、ごめん。でも、すぐ見るのやめたから」


 鈴木から聞いた、といまさら言えず、そういうことにしておく。



「告白してきたのって、どんな子?」


「さあ……ほとんど話したことないし、断ったから」


「え……どうして?」


「どうしてって、よく知らない子だし。べつに好きじゃないから」


「でも、カレシ欲しいって言ってたじゃん」


「そうだけど……」


 高田さんは起き上がって、乱れたスカートの裾を直している。



「いまは安芸との時間を優先したいかなって」


 思いがけない言葉に目を見開く。それって、どういう……?


 いや、高田さんのことだ。きっと深い意味がある言葉じゃない。でも……


 心の奥底では、期待してしまっている自分がいた。

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