第11話 私のなにかへの不可思議な気持ち
みんなでなにかをするっていうのはキライじゃない。
その行為自体よりも、その場の雰囲気というか、空気が好き。
だからこのまえ、恵理子の部屋でやったタコパも結構楽しかった。みんなで材料を持ち寄って、ちょっと闇鍋みたいになったけど、それはお約束だろう。ゲテモノばっかり引いたせいか、恵理子の機嫌は悪くなったけど。でも……
「んーーーーっ! んーーーーーーーーっ!」
本日何度目になるか分からないわさび入りのタコ焼きを引いてしまい、私はイスの上で身もだえた。
定番になりつつある安芸の家での夕食。今日のメニューはタコ焼きだった。
安芸の家にもタコ焼き器があるのは知っていたので、それを使わせてもらうことにして、タコパを提案した。
珍しくいっしょに買い物をした私たち。
タコパをしたことがないらしい安芸は、無難な具材ばかりを選んでいた。だから、私がちょっと冒険しなくちゃ釣り合いが取れなかったわけだけど……
「大丈夫? 高田さん」
辛さに苦しむ私に牛乳を渡してくれた安芸は、でもちょっと笑っていた。
恨めし気な目をむけても、その表情は緩んだまま。私は貰った牛乳を一息でほし、ふぅとため息をつく。
「もう、どうして私ばっかり当たり引くかなぁ」
「さあ……日頃の行いの差とか?」
「ひどっ。それどういう意味? ていうか、安芸は食べてるの?」
「食べてるよ」
本当かな? じつは食べてないとか。だって私ばっかり当たり引いてるし。
「もっと食べなよ。食べさせてあげる」
「……いい」
そっけなく断って、安芸が自分でたこ焼きを一つ食べる。
その顔は、とても涼しげなものだ。とてもわさび入りを食べているとは思えない。
なんか悔しい。ズルい。
「そういえばさ」
ふと思い出したように安芸が言った。
「いまさらだけど、うちでご飯食べたりして平気なの? 家で両親が待ってるんじゃない?」
「それ、本当にいまさら」
突然そんな話題を出すことにちょっと驚いて、いまさら過ぎることにちょっと呆れる。
「平気。うち母子家庭でさ、お母さんは仕事で忙しいみたいで、ほとんど家にいないの。だから気にしないで」
そう言ってから、ふと不安になる。
「ひょっとして、迷惑だったりする?」
遠回しにそう言われているんじゃって心配になったけど、安芸はあっさりと首を横に振った。
「べつに。好きにしていいよ。どうせうちも、平日は両親いないし」
そういえば、まえに聞いたな。
両親の仲はいいけど、お互いに仕事で忙しくて平日はほとんど会ってないって。
だから休日に、イチャイチャできてるのかもって。適度な距離感っていうのは大切なのかも。
うちとは真逆だ……
そう思うと、うらやましいような、どうでもいいような、複雑な感情が浮かんできた。
自分で自分の気持ちが分からないなんて、おかしな話だ。
「って、安芸、なにしてんの?」
気づいたとき、安芸は小皿に取り分けたタコ焼きを二つに割って、中の具材をたしかめていた。
「なにが入ってるのか気になって」
「それじゃタコパの意味がないじゃん!」
ときどきこういうことをするやつだ。気持ちは分かるけど、実際にするやつは初めて見た。
「もう、やっぱり私が食べさせてあげるよ」
私が選んだものなら、安芸にも当たりを食べさせることができるかもしれない。
でも、安芸はぶっきらぼうに「いい」と言ったかと思うと、二つに割ったタコ焼きを食べ始める。
「それ、具なに?」
「ん……コンニャク。味がない……」
微妙そうな顔をしているが、辛さに悶えるよりはましだろう。
ていうか……
なんか普通に話せてるな、私たち。
さっきの映画鑑賞の濡れ場のせいで、微妙な感じになったかと思ったけど。そもそも、気にしてるのは私だけ? 安芸はああいうの大丈夫な人なんだろうか。
少女マンガだと結構過激な表現がある。とはいえ、マンガは一人で読むものだし。そういえば、貸したマンガ読んでるときもとくに動揺した様子はなかったな。あれ、結構ベッドシーン多いんだけど。
そういえば、キスシーンも多かったっけ……
まあ、私ひとり気にしていても仕方ない。もう忘れることにしよう。
気持ちを切り替えて、適当にタコ焼きを食べる。今度は当たらないようにと願いつつ。
願いが通じたのか、はたまたただの偶然か……今度は辛くない。ホッと息を吐く……っ!?
その息が、すぐに詰まった。
熱……っ! なにコレ、チーズ!?
慌てて飲み込むけど、もう遅かったらしい。舌がヒリヒリする……
「だ、大丈夫、高田さんっ?」
驚いた様子の安芸が身を乗り出してくる。
「火傷しちゃったみたい……」
微妙にろれつの回っていない声の私。
ちょっと見せてと言われ、私は素直に口を開いて舌を出す。
そこで、ふと思い出す。さっき安芸に貸した少女マンガ。
そこには、舌を火傷したヒロインに「治療してあげる」と言ってキスをしたシーンがあった。
ま、まさか……安芸の顔がどんどん近づいてくる。触れ合いそうなくらい、近くに……
「待ってて。氷持ってくる」
スッと離れる。まあ、そうだよね。なに変なこと考えてるんだろ、私。
さっきの映画が、なかなか頭から離れないらしい。
なんか、私ばっかりこんな目に合ってるな。やっぱりズルい。不公平だ。
なんだか妙に体が熱い。それもこれも映画のせいだ。あの映画を見なければ、私はこんな気持ちにはならなかった。
胸もちょっとドキドキいってるし、顔も赤くなっている気がする。ああ、どうしてこんな……
貰った氷で舌を冷やす。
この不可思議な気持ちも冷めてくれるだろうか。
そんなことを考えながら。
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