第10話 私と安芸の好みは合わない

 学校生活は、基本的には楽しい。


 でも楽しくないこともある。テストとか、テストとか、テストとか。


 今回のテストも好きでもない勉強をがんばって、無事に学年十位以内に入ることができた。


 お母さんにもとくになにも言われなかったし、私としては一安心だ。



 割と楽しみにしていた文化祭では、うちのクラスは喫茶店をやった。


 メイド服を着せられて接客したことを除けば、まあまあいい思い出だ。


 それからまたすこし経って、私は安芸の部屋でやっていたゲームをクリアした。


 でも私は、変わらずにこの部屋にいる。



「安芸はどうして接客やんなかったの? 文化祭で」


 放課後。安芸の部屋でふと気になっていたことを訊いてみた。


「私不愛想だし、かわいくもないし。キッチン入ったほうがいいでしょ」


 借りた本から、視線を安芸に移す。



 そうかな。私はそうは思わないけど。


 たしかに、安芸はちょっと地味な見た目ではある。でもまつ毛は結構長いし、肌もそこそこきめ細かく、目もパッチリした二重だ。化粧で整えれば、結構かわいくなるはず。


 とはいえ、それをわざわざ口に出す必要もない。なんか照れるし、からかってると思われるだけだろう。ちょっともったいないとは思うけど。



「ふぅ。やっと読み終わった」


「どうだった?」


 珍しく、安芸は期待を込めた口調で訊いてくる。


「うーん……登場人物が多くてややこしい」


 ようやく読み終えた借りていた推理小説。この間借りたのとはべつのものだ。それを安芸に返しつつ、つぶやくように言う。


 正直なところ、それが私の感想だった。やっぱり小説は苦手だ。文字ばっかりで。



「そっちはどう? 面白い?」


 じつは私も安芸に本を貸した。お気に入りの少女マンガだ。


 結構自信があった。アニメ化もされた人気作だし。映画化もされたらしいけど私は知らない。映画なんてなかった、うん。



「なんかむず痒い」


 そう言って、安芸はすこし体をよじるような仕草をした。


「高田さんて、胸キュン少女マンガなんて読むんだね。ちょっと意外。遊んでる人だと思ってたから」


 ひどい偏見だ。いろいろな意味で。


 私は遊んでないし、そういう人だって少女マンガくらい読むだろう。


 安芸はなんだか微妙な顔をしている。どうやらあまり好みには会わなかったようだ。それでも、安芸は最後まで読んでくれて「面白かったよ」と言ってマンガを返してきた。



 こういう好みは本当に合わないな、私たち。


 そういえば、こうして安芸の部屋に来ることは自然なことになってるけど、最近頼んでないな。恋人がするようなこと。


 部屋にいるなら、部屋デート? そこですることっていえば、例えば……



「安芸、映画見ない?」


「映画?」


 目をパチクリと瞬き私を見てくる。


「恋人同士なら、いっしょに映画見たりするんじゃないかなって思って。ダメ?」


「いいけど。なに見る?」 


「どんなのがあるの? 楽しいのがいいな。しんみりするやつは苦手で」


「えぇと……じゃあ、これなんてどう? このあいだテレビでやってたのを録画したの。コメディ映画」


 お互いの同意が得られたので上映会開始。


 部屋を薄暗くして、二人で画面に集中する。



 こうして恋人の真似を頼むのもひさしぶりだ。


 最近はテストだったり文化祭だったりで、放課後も忙しくて来ていなかったから。


 やらしてもらってたRPGはクリアしたし、またゲーム借りてもよかったけど、映画って言ったのはただの気まぐれだった。とはいえ、私はそれをちょっと後悔してる。



 見ている映画は、なんというか、思いのほか退屈だった。つまらないとまでは言わないけど……これ、そんなに面白い? 話題作らしいんだけどな。


 安芸はどう思ってるんだろう? 隣を見て見る。でも、その横顔はいつもどおり無表情で、なにを考えているのかまるで読めなかった。



「…………っ」


 それでも退屈なほうがよかったかもしれない。


 テレビ画面では、男女が一糸まとわぬ姿で絡みあっていた。うそ、普通に濡れ場じゃんこれ。


 こんなの地上波で流したの? お茶の間ひえっひえでしょ。



 気持ちが通じ合った二人が交わっている。


 私はこんなことしたことがない。そもそもカレシいないし。だから安芸に練習をお願いしているわけで。


 キスだとか、セックスだとか。


 もちろんそんなことをお願いしたことはない。したらヤバいやつだと思われるだろうし。



 私も、いつかこんなことをする日が来るんだろうか? 想像もできない。


 私はそっとため息をついて、ふたたび画面に集中する。


 いつしか濡れ場は終わっていた。映画は相変わらず退屈だった。

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