形ある人間たちへ

夏蒼朱士

第1話

 一馬和利は目を覚めた時、身体に違和感を感じた。

 歳三十五にして身体の支障が出るのは両親、兄たち一回り長く生きた人たちを見て分かっており、歳を取るごとにそれは重く覚悟はしていた。

 だがその感じとは違った。

 まるで逆。鉛が乗っかったように重かった肩が綿毛の如く、泥沼に埋まったように沈んだ足が天を歩けるが如く、年々息苦しかった肺に風船が割れた如く、全てが軽かった。別に気持ちが変わっていたからではない。わずか二時間ほど睡眠で快眠とは言えない気持ちの状態の中、もうすっかり飲み慣れたエネルギードリンクと煙草を腐らせるほど摂取し、自分を叩き起こす。そのまま、まだ暗い始発の電車へと乗っていくことに気持ちは沈むを越えて溶けたい気持ちはそうそう戻る、いや変わるものではない。

 でも今日はそれとは違う。朝日だ。眠りから目覚めた日の出など久しぶりではなかろうか。そんな朝日を涼しい風を部屋に入れながら、眺めた。

 そして気づいた。

「あれ? ここって……」

 一馬は頭を一旦整理するように目を瞬かせた。

 隣のあれは幼なじみが住んでいる場所、左下を見れば子ども頃から変わらないおばちゃんたちの談笑姿に散歩道をてくてくと歩く犬と飼い主の老爺。

 そして何より壁にかかっている時計と何か予感がしたかのように背丈と同じくらいある鏡を恐る恐る見た。

「………、…っ?」

 思わず、二度見をした。

 そして次にカレンダーを探しに壁を見たがなく、スマホでカレンダーを見た。

 表示されたのは2024年、四月。

「……、……、……!」

 これは二度見、いや三度見。

 なんだこれ、とぽろっと本音が溢れた。

 それは戻りたくても戻れない時間、そして人生の選択を誤った時間。

「………戻って、いる、過去に?」

 一馬和利、十六歳。………しかし、体内は三十五歳。

 

 

 

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