第5話 彩雲
水の精がより綺麗な虹を出せるように工夫し始めたときでした。
風の精たちは水の精がこっそり頑張っていることに気がつきました。
水の精は気づかれていることに気づいていません。
風の精たちは知らないふりをしながらも、水の精のことを心から応援しつつ、お手伝いがしたくなりました。
風の精で集まってこっそり作戦を練りたくても、水の精を運んでいる以上作戦も会話も筒抜けになります。
そこで、風の精たちは役割分担をすることにしました。
水の精を運ぶ係、作戦を練る係、水の精の力になれそうな仲間を探す係、水の精が気づかないように気を配る係。
風の精たちはまず先に運ぶ係を決めました。運ぶ係にならなかった残ったメンバーを、更にそれぞれの係に分け、水の精にはそれらしい嘘……どこか楽しい場所がないかみんなで手分けして探しているのだという嘘をつきました。
この嘘は誰かを傷つけるための嘘ではなく、こっそり頑張っているつもりになっている水の精の「こっそり」を守るための優しい嘘です。
水の精は少し寂しそうな顔をしてから尋ねました。
「みんな、無事で帰ってきてね」
水の精がまだ池にいたときのことです。池を出入りしていた他の小さな水の精は戻ってくる子もいれば戻ってこない子がいました。
水の精は外の世界を知らなかったので、それがたまらなく心配で怖いことでした。
風の精たちも、もしかしたらお別れしたら二度と会えない子がいるかもしれません。
水の精はとても心配症でもあったのです。
風の精たちは明るく笑いながら「またね」と言いました。
水の精は少し嬉しそうにしながら見送り、体が小さくなりすぎないよう、大きくなりすぎないよう、水を集めて減らして調整しながら虹をもっと綺麗に出す練習を続けました。
そのうち、水の精は池にいたときと体が変わっていることに気がつきました。いくら水を集めても、池にいたときのような姿にはなりません。
水は柔軟に姿を変えます。
水の精は自分の新しい姿として雲の形を手にいれました。その事に気がついて初めて、心が躍り、はしゃぎそうになりました。
風の精たちにも他の姿はあるのだろうか?
水の精は疑問に思いましたが口には出しませんでした。そのうち聞こうと思ってそのまま聞くのを忘れたためです。
水の精の傍にいる風の精たちは水の精が自分たちの企みに気づかないよう、水の精を注意深く見守りながら運び続けました。
作戦を練るはずだった風の精たちは、具体的にどう作戦を練るのかわからなくなったので、水の精を運んでいるみんなのところへ帰ることにしました。
水の精の力になれそうな仲間を探しにいった風の精たちは、火山の近くで火の精を見つけました。
他にも、嵐の夜に雷の精を、夜の公園で街頭の下に光の精と影の精を、月も星も何もない真っ暗な人の子の部屋で闇の精と夢の精を見つけました。
また違う場所では、山の中で木の精と土の精を、朝日が上る頃に月の精と日の精を同時に見つけ、たくさんの精を見つけて連れて帰りました。飛べない子でも、風の精と手を繋げばひとっ飛びです。
木の精と土の精はどうやって飛んだかって?
木の精は小さな種のような姿の分身を木の葉にのせて、土の精は砂埃に乗って、風の精に運んでもらいました。
他の精は風の精に運んでもらわずとも飛んでいけますが、行き先がわからないので案内をしてもらいました。
雷の精は空を蛇行し、光の精と影の精は方角だけを聞いて瞬間移動をしました。
闇の精と夢の精は夜になるまでのんびり眠って待つことにしました。果報は寝て待てです。
月の精と日の精はみんなを空から見守っているので場所を聞くだけで十分でした。あとは時間帯だけが問題です。
こうして、仲間探しにいった風の精たちは、たくさんの精をつれて戻ってきました。
水の精はビックリしながらも大はしゃぎです。
水の精が池にいた頃に会ったことがあるのは土の精と雷の精だけでした。月も太陽も見たことはありましたが、精に会うのは初めてです。
水の精は不思議にも思いました。どうして突然風の精たちがこんなにたくさんの精を連れてきたのかがちっともわかりません。
風の精たちはこれからどうするか悩んでいました。作戦もなにも組んでいなかったからです。
水の精は困惑しているし、他の精たちも来たは良いけれど、何をするのか全くわからないままきてくれたのです。
風の精の作戦組は何を考えればいいかわからなくて、そのまま水の精を運んでいるみんなと合流した話をしました。
それを聞いた他の風の精たちは責めもしないで大笑いしました。そうして大笑いし終えてからどうするかを考えました。
風の精たちは、水の精を含んだ他の精たちに正直に打ち明けることにしました。サプライズなんて最初から無理だったのだと割りきり、からっとしたさわやかな風のように潔く話しました。
水の精がもっと綺麗な虹を出すために頑張っているのを見ていると、風の精たちもなにかを頑張りたくなったのだと話し始めました。そして、頑張っている水の精を応援し、力になって支えたくなったのだと他の精たちに打ち明けました。
水の精は照れ臭そうにしましたが、悪い気はしていなさそうです。
他の精たちも大笑いしたり、困惑した顔をしていたり、納得した顔をしていたりと様々でしたが、協力的に話し合いに参加してくれることになりました。
こうして、水の精のいる雲はたくさんの精たちで賑わい、色鮮やかな虹模様を見せていました。
しかし、そのことに気がついているのは、見えているのは、集まっている精たち以外のすべての生き物たちでした。
風と水の物語 木野恵 @lamb_matton0803
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