蛇足
ひと時も、彼女のことは忘れなかった。
何事もなく青い空の色あせること無い鮮やかな夏が過ぎ、秋が来て、冬が来て。
俺は旧校舎の部室に通い、映画を見続けていた。
彼女との約束なのだ。俺が自分に刺さる映画見つけるまでは毎日ここに来る約束。
無言。無音。ひと時も目は離さない。彼女の癖は、すっかり俺に移っていた。
何気ない真冬の一角。それは三百五十二本目だった。
相変わらず、つまらない。面白くもない。
でも―――
――なんで…!
涙があふれでる。刺さるのだ。今まで見てきたどんな映画よりもずっと。この先、この記憶が褪せることはない。
名作でもない。むしろ駄作。とんでもない駄作だ。彼女との出会いがなければ、この映画は何があっても見ることはなかっただろう。そんな作品。だが打ち震えるようなしびれが体を襲った。映画で泣くのは初めてじゃない。だがこの映画は、名作とは少し違う。何に感動するのかは全く分からない。ただただ、ぼろぼろと大粒の雫がこぼれ出るばかりだった。
冷たい空気の中で、熱い息が漏れる。
彼女が言う、映画の価値がようやくわかった。彼女と言う人間が、何を追い求めていたのかも。
それはまさしく――――――「自分に刺さる」映画だったのだ。
白昼夢 笹護翁 @akauri
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