第47話 リーダーの苦悩


「…………クライフ君、今何をやったのかね?」


 蜘蛛を倒し皆の所に戻るとショーンさんが、絞り出すかのような声で質問をしてきた。


「実は自分、精霊使いなんです」


「ふーん精霊使い、要はシャーマンだな」


 ノーマはたいしてリアクションしなかったが、ショーンさんとカイル君が驚きのあまり再び固まっている。


「土の精霊魔法で、足の裏に土を盛る事ができます」


 シークレットブーツをゆっくり発動して、身長を徐々に盛る。

 そして解除したが、まだ二人は固まっている。

 変な沈黙でなんか焦ってしまう。


「えっとさっきは、こうやって移動しました」


 今度は移動する時に瞬間的に短く出して見せ、先程の移動を再現する。


「……クライフ兄ちゃんって、ヒューマンだよね」


「ええ、まぁ」


 やっと声を出したカイル君に、曖昧な返事をしてしまった。

 そう言われると自信がなくなってきた。 

 コレーク様に所属しているのだから、ヒューマンなのだとは思う。

 

 親の記憶がないので、どこかでエルフの血が混ざったのかもしれない。

 今度シショーに確認した方がいいのかな?


「ヒューマンにも精霊使いがいたのか、こりゃあ驚いた」


 ショーンさんは、驚きながらも信じて貰えたようだ。

 普通の精霊使いともできる事が違うので、色々説明しないといけない。


 説明している最中にいくつか質問をショーンさんがしたが、それ以上に何故かカイル君の質問が止まらない。


「どうやって、精霊使いになったの?」 


「魔力はどれくらい使うの?」


「どういう事ができるの?」


「一緒に戦う上での注意点は?」


「詠唱時間が無いって本当?」


「それって、連続使用できるの?」


「アンデットをテイムしたのと関係あるの?」


 カイル君からの様々な質問に何とか回答した。

 シショーの事はうまく誤魔化したが、精霊使いになった後レベッカがどのような経緯で仲間になったのか説明をするのに苦労した。


 予定より自己紹介に時間がかかってしまったが、お互いの力はわかった。


 お互いの力量にあう隊列や、役割分担をどうするか、雑魚モンスター相手にしながら色々試してみた。


 決まった隊列はタンク役ショーンさんが一番前。

 その右後ろにアタッカーのノーマ、そしてノーマの左隣に遊撃&アタッカーの自分が着き、一番後ろにレベッカに着いてもらう。


 ノーマの尻尾問題はノーマが常に他の人の右側に立ち、左周りでしか尻尾を使わない事にし解決した。

 どうやらヒューマンの右利き左ききのように、尻尾にもあるらしくノーマは左回り派らしい。


 自分の位置とレベッカを入れ替える事も検討したが、見事な程息が合わず戦闘中に喧嘩を始めそうになっていた。

 それに居合い斬りを飛ばして遠距離攻撃ができ、かついざ後ろから襲われた時にはタンク役にもアッタカーにもなれるレベッカは、最後列に置くのは最適かもしれない。


 最初はお互いの戦い方の勝手が違うので苦労したが、徐々にお互いの戦い方の癖がわかり、息も合出だし順調に道を進む事ができた。


 お互いの戦い方を把握するのが済むと、徐々に皆口数が減り、黙々と目的地まで進む。 


 久々にパーティーを組んだがこういう時、メンバー同士で話をするものなのか?


 昔組んだパーティーの時は、本当にくだらない事を含めて色々と話をしていたが普通はどうなのだろう。


 別に嫌な沈黙ではないが、ここはリーダ役の自分が喋って親睦を深めるべきなのだろう、しかし一体何を喋ればいいのだろうか。


 誰か喋ってほしいなと思っていたら、何故かカイル君が御者席からみんなに質問してきた。

 生い立ちとか、武器の事とか、好きな食べ物とか、趣味等、みんなに質問をしている。


 この小さな少年に気をつかわせてしまった。


 ショーンさんとレベッカは楽しそうに会話している、自分もきた質問にはできる限り話が盛り上がるように返した。


 ただノーマは答える質問と、何も答えない質問がはっきり分かれていた。


 最初は変な質問をして怒らせてしまったかもと、カイル君がかわいそうにビクビクしていたが、どうやらノーマは答えたくない質問には何も言わないみたいで、特に気にしているわけではなさそうだ。


 モンスターに絡まれながらも順調に進み、日が沈みかけた時に開けちょうどいい場所を見つけたのでキャンプをする事にした。


 爽に周りにモンスターがいないか確認してもらい、安全を確保できたのでキャンプする為の分担作業を行う事にした。


 カイル君が飯の準備を買って出てくれたので、ノーマにカイル君の護衛をお願いし、レベッカがキャンプの設営をし、自分とショーンさんでキャンプの為の枝を集めに森へ入った。


「あのショーンさん、カイル君の事どう思いますか? 

 何か変じゃないですか?」


 枝を集め終わりもどる途中で、自分の中でモヤモヤとしていた気持ちをショーンさんに相談する。


「ほぉ、カイル君ね、どうしてそう思った?」


 立派なひげを触りながら少し考えた後、逆に質問を返されてしまった。


「何が、という訳ではないのです違和感がありまして」


「ふむ、続けて」


「いやその、それだけなんですけど」


 どのように説明すればいいのだろう、感覚的なものなのでうまく言葉にできない。


「別にカイル君に敵意があったり、騙そうとしたりしているとかはないと思うのですよ、ただなんというか」


 もしシショーがいれば鑑定で一発なのだが、またしてもいないスライムを頼ってしまう。


「うむ、実は儂もクライフ君と同じでな、少しだけ引っかかっている所があるが確信はとれん」


「そうですか、素直に聞くわけにもいかないですし、どうしますか?」


「そうじゃのうむ、どうすればいいかのぉ」


「じゃあ、お前らの代わりに調べてやるよ」


 突然現れたノーマが、ショーンさんとの話を割って入ってきた。

 どうやら暇なノーマが、様子を見に来ていた時に話を聞いたようだ。


 ショーンさんと共に驚いている自分達を置いて、カイル君に近づく。


「ノーマさん、どうしました。

 後ちょっとで料理はできあがりますよ」


 見事なスマイルをノーマに向けて放っている。 


 ノーマは表情を一つ変えず、持っている槍を構える。


「え?」


 皆一斉に小さく叫ぶ。 


 ノーマの鋭い槍が料理をしているカイル君に振り下ろされ、キーンと金属と金属ぶつかる高音がした。

 料理用の包丁を持った小さな手でノーマの槍を防いだ。


「今のは危ないですよ。ノーマどういうつもですか?」


 今までの声より低く、大人口調でカイル君が怒りを露わにしている。


「このくそトカゲ、とうとう本性を現したか!」


 レベッカは刀に手を置き、いつでも居合い斬りができる体勢になって大声をあげた。


「やっぱ演技じゃないか、さすがだな、クライフてめぇの言うとおりだ」


 カイルやレベッカの事を一切気にせず、こちらに笑いかけてきた。


「はぁ……クライフ説明してくれますよね」


「え、自分が?」 

 

 何故かいつの間にか首謀者になってしまったようだ。



 ノーマが何故、突然攻撃しているのか、そしてカイルがどうしてそれを包丁で阻止できるのか、むしろこちらに説明して欲しい。

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スライムの弟子になりました。 うをの目 そば太郎 @UonomeSobatarou

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