第46話 新チームの実力


 納得はしていないが、リーダーになるのを了承しないと、せっかくできたチームも解散してしまいそうだ。

 渋々リーダーになる事を了承し、ギルドスタッフに報告して冒険者ギルドを出た。


 外に出ると霧も晴れ、見慣れた活気のある街に戻っていた。


 西門の広場に向かうと、たくさんの馬車が並んでいた。

 西門はこの街ヒュータスから王都チェルスタインに向かうのに使われる為、年がら年中馬車が溢れている。


 誰に声をかければいいのか迷っていると、緑のチェック柄がよく似合う可愛らしい少年と目があった。


「お兄さん達試験を受ける冒険者だよね? 

 試験会場に行くなら、僕が乗っけていくよ!」


 髪と同じ茶色い大きな瞳で、こちらを上目遣いで勧誘している。


「なんでテメェみたいなガキに、連れて行かれなきゃいけないだ」


 ノーマはわざわざ腰を折って、自分の半分以下の少年に目線を合わせてメンチを切っている。


「これこれノーマ君、そう子供を怖がらせてはいかんよ」


 笑いながら、ショーンさんがノーマをたしなめている。


 少年も朗らかに笑ってくれて、ほっとした。

 たいした子供だ、普通の少年であれば泣いて逃げ出してもおかしくない。

 ノーマの睨み顔は大人でも、夢に出てきてもおかしくないほど迫力がある。


「はは、ごめんね、本当はおっとうがくる予定だったんだけど、今朝腰をやっちゃったんだ。

 それで代わりに僕がきたんだ」


「腰をか、気の毒じゃの」


 ショーンさんが、何か思い当たる節があるらしく同情している。


「テメェみたいなガキで大丈夫か?」


「大丈夫だよ、馬の扱いはおっとうより上手いよ、僕カイルって言うんだよろしくね! 

 どうする馬車は準備OKだよ、いつでもいけるよ」


 ノーマの迫力ある質問も軽く流し、少年がかわいらしく首をかしげて、皆に質問をする。


 ノーマが皆の意見も聞かずに、馬車に乗ろうとしていた。


「ちょちょ、ちょっと待って」


 慌てノーマの腕を引っ張り引き留めた。


「なんだよ、行くんだろ」


 パーティーを組む際の基本的な事を忘れている。

 ノーマだけでなく、冒険者としての経験の浅いショーンさんもわからない顔をしている。


「お互いの荷物の確認をしよう」


「あん、荷物だ?」


 ノーマが明らかに面倒臭そうな声を出している。


 偉そうな事を言っている自分も、パーティーを組むのが久しぶりすぎて忘れていたが、誰もが講習で習いそして一度はミスをするらしい。


 試験を受けるにあたって、ジュゼットさんにもしチーム戦になった場合必ずやるようにと、きつく言われていたので覚えていた。

 荷物の確認は馬鹿にしがちだが、これが侮れない。


 ジュゼットさん曰く長年組んでいるチームでも、確認を怠り痛い目にあい、それがきっかけでチームを解散する事もあると言っていた。


「成る程そうか、イズラの神殿騎士はほとんど持つ荷物が決まっているから、見落としてしまった」


「でもマスター結局どこにいくかわかんないのに、何を持っていけばいいかわかるんですか?」


「うっ」 


 レベッカから鋭い質問に声がつまる。

 確かにどこにいくか目的地わからない状態で、何を持っていけば良いのだろうか?

 キニーみたいにアイテム持ちのスキルがあれば、気にせず荷物を詰め込めるが、馬車を使うと言っても小型の馬車なので無理はできない。


「カイル君、いくつか質問してもいいかね?」


「うーん、後で怒られたくないから、答えられる範囲ならいいよ」


「目的地について教えてくれるかの?」


 ショーンさんが、情けないリーダの自分の代わりにカイルへ質問をしてくれた。


「えー場所は言っちゃダメ、と言われているんだけど」


「そっか、ではどれくらいで着くのかな?」


「何もなければ三日間くらいかな」


 ショーンさんが、重要な情報を引き出してくれた。

 つまり最低でも野宿をする為のキャンプの道具や、料理をしたりする道具、食材も必要だ。

 まず自分とレベッカの荷物を二人に見せる。

 そしてショーンさんの荷物を確認したところ、ポーションと魔力を回復するマナポーションや予備の武器やキャンプ道具も完璧にある、自分と同じく食材を買えば大丈夫。


 ひどいのはノーマだ。

 ノーマの持ち物は槍一つ身一つというなんとも、大変身軽な格好だった。


「ノーマそれで何かあったらどうするの?」


「何かあったら、その場で何とかすればいいだろ」 


 さも当然の様に、実に頼もしく、そして幸先不安にさせる言葉を放つ。

 無理やり予備の武器と、回復薬と、保存食だけ買ってもらい、なんとか出発できる体勢になった。


「お前のせいで、出発が遅れてしまったじゃないか」


 確かにノーマの言う通り周りを見渡すと、試験を受けにきた冒険者らしき人物は、もう西門の広場にはいない。


「誰のせいで遅れたと、思っているんですか」


 ノーマの文句に素早くレベッカが反応する。


「まぁまぁ、馬車で2日かかる場所じゃから、ここでの2~3時間のロスは、そんな影響なんて気にせんでも別にいいじゃろ」


 すでに何度かレベッカがノーマに対して喧嘩腰になっているが、その度にショーンさんがやんわり仲裁してくれる。

 確かにノーマの言う通り、想定よりも時間がかかってしまった。


 ノーマのサブの武具を買いに行く為、以前刀と鉈を買ったお店に案内した。

 店長が親切に色々な物を見せてくれたのだが、ノーマが重心が悪いとか、刃先が長いとか、色が気に入らない等独自のこだわりを見せ、最後の方では半ば店長と喧嘩しているようにしながら商品を選んでいた。

 まさかサブの武器で、ここまでこだわると思わなかった。


 迷惑をかけた店長に申し訳ないので、自分も以前約束していた予備の鉈を二つ購入した。


 約束した時間よりも大分遅れてしまったが、待っていてくれたカイルに謝罪をして、軽く打ち合わせをする。


馬一頭で引く小型の馬車だった為、今後の事を考えて馬車にはキャンプ道具を中心に重い荷物を入れ、御者であるカイル君以外は歩く事にした。


 てっきり西口の王都の方面にいくのかと思ったが、カイルが向かった先は北門だった。

 港町アザーにつながる東門と、王都につながる西門と比べ、北門の街道沿いは人通りが少ない。

 使う人が少ない理由は国の要所に繋がっていないというのもあるが、この北側の森は紫煙の魔女が住む森だと言われ、皆から気味が悪がられている。


 親しんだゴブリンばかりいる東の森よりも木が小さく平地で、木が細く木と木の間隔も広い為光が入ってくる為見通しも良いが、枯れている木が多い事もあってどこか不気味だ。


 大蜘蛛や蛾等の昆虫系モンスターやが多く、噂ではこの森のどこかにいる紫煙の魔女の願いを叶えると、薬か毒薬のどちらかを貰う事ができると言われている。


 目的地を唯一知っているカイルは多くの人が使う太い街道ではなく、人通りのない細い道ばかり通っている。

 どこに向かうつもりなのだろうと、慣れていない不気味な森の中をひたすら進む。


 森の中はともかく、街道沿いは特に強いモンスターがでないらしく、D級モンスターが生息しているのがせめてもの救いだ。

 

 街を出てすぐに森の中から1m前後の、大型のサソリが現れた。


「あれぐらいなら一人で倒せるじゃろ、よしじゃあ自己紹介代わりに交代で一人一人戦ってみるかの、まず生い先短い爺から行こう」


 そう言ってショーンさんは大楯を持って、大型のサソリのハードスコーピオンに向かって言った。

 ショーンさんは熟練というのがぴったりな、優秀なタンク役だった。

 声と剣で盾を叩く音でサソリの注意を引きつける挑発のスキルを使い、寄ってきたサソリの尾の攻撃を大楯で受け切った後、力にまかせて上から剣を振り落としてサソリの頭を真っ二つにしていた。

 単純だが、堅実かつ豪快で実に頼りになる。

 

「次はオレだな」


 新たに現れたノーマと同じぐらいの大きさのカマキリ、アサシンマンチスにノーマが突っ込んだ。

 ノーマの槍は鉤爪がついた変わった形をしていて、その槍と長身を生かした圧倒的リーチから達を一方的に攻撃している。

 体格から似合わぬスピードと柔軟さで、相手の攻撃をぬるりとカマキリの攻撃を避けながら、カウンター気味鋭い攻撃を加えている。


 我流だと言っていたが多彩で非常に頼もしい。

 槍で突いて攻撃するだけでなく、槍についた鉤爪で引っ掛けて引っ張り、体勢を崩したり、時には強引に相手を投げ飛ばしたりもしていた。

 ただ多彩で次に何をしでかすのかわからないのは、敵だけでなく我々も同じで、特に人間にはない尻尾を使う攻撃や、尻尾を使ったジャンプや方向転換には巻き込まれないようにしないといけない。


「じゃあ次はボクの番」


 そう言って今度はレベッカが、剣と刀の二刀流で子犬サイズのバッタ、ポイズンホッパーの群れに突っ込む。


「レベッカは二刀流でアタッカーがメインですが、盾を装備してタンク役もできます。

 また刀を使った居合い斬りで斬撃を飛ばせるので、遠距離攻撃もできます。

 近距離、中距離アタッカー、タンク役どれでもできます」


 無数のバッタ達に囲まれているが、安定した戦いをしているレベッカの代わりに、皆へ説明する。


 自分で説明して思ったが、レベッカは本当に万能だ。

 生きていた頃はこれに加えて回復魔法もできたらしいが、残念ながら死んでから回復魔法は使えなくなってしまった。


「よし、まぁこんなもんでしょ」


 あっという間にバッタ達を倒したレベッカが戻ってくる。


「お前、剣と刀の二刀流か、見た事ない変な戦い方だな」


「奇天烈な戦い方をするトカゲに言われたくない」


「元気があって良いの、では次はクライフ君お願いしますね」


 ショーンさんが二人の喧嘩を笑いながら新たに現れた大蜘蛛を、ショーンさんが促す。


 足を引っ張るわけにはいかない。

 事前にシショーやレベッカ、そしてジュゼットさんとも話をしていたが、精霊使いで有る事をオープンにするつもりだ。


 刀を抜き、水の精霊滴にお願いしキープを唱える。

 青白く光る刀を見て、ノーマがレベッカと戯れ合うのを止める。


 細長い八本の足を持つ自分と同じぐらいの大きな大蜘蛛、サイレントスパイダーにツカツカと近づく。


 気味が悪い蜘蛛もこちらに気づき、名前の由来通りに音も立てずにこちらに近づいてくる。

 相手の間合いに入り、大蜘蛛が糸を飛ばしてくる。


 粘着質のある糸は、絡まれば身動きできなくなるのは想像できるが、スピードが遅くシークレットブーツを短めに出して余裕を持って躱す。


 躱しながら大蜘蛛の右上上空へ移動し、刀を振り下ろして八本の内二本の足を切り落とせた。


 思っていたより簡単に切る事ができた。

 足を切られた大蜘蛛は慌てて後ろに下がるが、軽くステップを踏み、逃げ込んだ方へ回り込み、隙だらけの頭を切り落とした。


 蜘蛛が完全に停止したのを確認し、刀をしまった。


「おい死人、お前の主人が一番変だな」


「はい、ボクの自慢のマスターです」



 遠くでノーマとレベッカが褒めているのか、けなしているかわからない事を言っているのが聞こえた。


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