パッチワークマジックワールド

@smilemaker

第1話

一介の大学生、山神羊人は横断歩道から朝日が差込む小屋の軋むベットの上にいた。

右腕に激しい痛みはあるものの、体を起こすことはできる。荷物は見えない。

ここは何処だと考える。「良かった。起きれたのですね」と声をかけてくる人がいた。そいつの手の温もりを感じて眉をひそめる。

色々と聞きたいことがあったが、そうする前に無理矢理小屋を連れ出された。

腕がちぎれそうな痛みに喚いてもこいつは止めなかった。肩を担いで歩かされると森近くの教会に着いた。

中に入るとステンドグラスの灯りで少女が聖書を読んでいた。顔を上げると凄まじい形相で本を置いてこちらに走ってくる。「何やってんのよあんたぁ!」と隣の奴に蹴りを入れてくれた。彼が可哀想だと私は思った。

良いぞもっとやれという言葉を俺の悲鳴が塗り潰す。支えを無くした俺は床に倒れたところ、彼女が何かやろうとしている。多少安心し「…ここはどこ…」と絞り出すと男の方が「教会です」とふざけたことを言う。大人しく聞くと私は

あちらで死んだが、神が使命を与えてこの世界に連れてきたという。彗星に乗ってだ。

冗談扱いしたかったが、何故か楽しそうに話すのを見てむしろ恐怖を感じた。

更に俺の使命は目の前にいる少女を助けてやることらしい。

「貴方が昨日ここに来たのも、彼女がここを訪ねたのも全てはかの神の定めなのです」

新手の新興宗教か?誘拐とは荒手だな。眉はひそめ続けて疲れた。そして気づいた。

腕が軽い。試しに動かすと痛みはどこかへ飛んでいったようだ。「それも神の奇跡ですよ」

と男も少女も笑顔だ。貴方達の魔法ではないのですか?

もう理解も否定もしようがなく、俺は男が預かっていた自分の荷物を受け取り、ついでに水筒ももらった。教会を少女と共に出る。

少女は王都に用があるらしいが、そのためには周囲の山を超えなければならない。

山を越える為、森を歩いていると後悔が蛆のように湧いてきた。

なぜ断らなかったのだろう。色々聞いても良かったじゃないか。家に帰れるのか?ここはどこだ?私は死んだと?考え、悔いて、諦める。もうはいと言ってしまったのだ。どうしようもない。それにくだらない。

ある程度歩いていると人の姿が見えた。ジジババ二人組と話すとどうやら彼らが明日案内してくれるから一旦泊まれとの話だ。ありがたいことだ。

村は森を切り開いて築かれていた。ぱっと見ではここまで森が広いとは思わなかった。村では家事をしているおばさんや、畑仕事をするおじさんたちが、こちらを物珍しく見ていた。村の一番でかい建物には、1人の若者が迎えてくれた。村長らしい。

「久しぶりの客人だ、どうかくつろいでくれ」

そうして村の離れに泊まらせてくれることになった。村人達も笑顔で迎えてくれた。小屋のテーブルには質素な料理がたくさん並べられており、ビールもあった。うまかった。が、次の日彼等は忙しいと案内するのをごねてしまった。ズルズルと泊まる予定が伸びていく。二日ほど経つと自力で出ようとしたが、

理由をつけて引き留めてくるし、彼女は人の気持ちを踏みにじるようなことは出来ない善人だし、食事はやたら多く出してくるしで、俺たちはお手伝い兼恩返しをして気を紛らわすことにした。

私は何とかなるさと考えていたので、皆の笑顔のためにも楽しく荷運びを手伝っていた。

三日目、偶然早く家畜の餌にもなる害虫とりを終え、家事をしている彼女を助けようか昼飯を取ろうかとふらふら帰ると、森に動く姿を見た。獣かと思い早足で急ごうとしたその時だった。

「動くな」殺気はない。が背中に何かが当たっている。「お前流れて者だろ」静かに頷く。

「ならついて来い」緑のマントが見えた。その後ろ姿についていく。

かなり歩く。蛇行するように薮を突き進んでいくと、奇妙な所に出た。

押し倒された木々の上に丸く、金属製に見える何かがあった。ガラス窓はあるが、中は見えない。

「ここまで来りゃ良いだろ」とフードを外すと、その者の顔は異形だった。

タコのようではあるが、単眼でこちらを見ている。が手元の小型斧はこちらに向けたままだ。「手荒ですまない」そういうと事情を説明し出した。

彼は乗っていた宇宙船が事故を起こしてしまい、非常脱出ポットでこの星へ逃げてきた宇宙人らしい。

なんでぶっ飛んだ奇跡ならまだしも宇宙人までいるの?

以前あの村に行ったら神扱いされ、願いを叶えさせようとしたため、逃げ出したとのこと。

森を出ようにもやたらと迷うわレーションも尽きるわ、盗みに行こうとしたら知っていたようにバレた為もうどうしようもなかったとのこと。だから俺たちが来たのは嬉しかったらしい。別にそのまま神でいたらよかったのに…と言ったら顔色が変わったので相当やばい願いだったのだろう。暇だったので持っていくことにした。

その日の晩どう食料を持って行こうか考えていたところ、少女が不満をぶちまけてきた。

「ねえ、どうしよう?ここの人たち何にも話を聞いてくれないの。どう頼んでも『せめて祭りまでは』とか言うし、おまけにそれまであと一ヶ月とかいうのよ。何よもう!ねえ、何とかしてよ、大人でしょ!」

お前さんは大人を便利な物だと思っているのかい?と口から出る前に世話をしろとあの野郎が言っていたのを思い出す。そんな顔をしないでください。

「なんとかする」と昨日口にしたのは良いものの何も考えていないので思いついたものを片っ端から試すことにした。そうしましょう。

①村長に頼み込む

A 「私も元は旅人で道は知らない」

②村人に日本文化の土下座を披露する

A 「そんな事されても、せめてあと四日は…。」+洗濯を終えた少女に見られて困惑された。恥ずかしい。

③宇宙人さんに頼み込む

A 「出来たらとっくに抜け出してんだよ。あと食料は?」

もうどうしようもないと家で悩んでいた時、案内してくれたおじいさんが餌運びを頼んできた。「もう慣れたか?」餌入りの箱を持ち上げながら言う。「いや、まあ…はい」

「本当はあの日に案内したかったのだが、皆に止められてね。あと三日で祭りの準備が終わるんだ。休みが来る。そうなれば出来る」

ああ良かった。これで誰かが困る顔が消える。そう私は思った。

「良かったら餌やりも手伝うかい?」という言葉に頷く。鶏小屋にて、餌になった瀕死の虫たちを手掴みで与える。俺は流石に手袋をつけて手伝った。虫との触れ合いは好きだが、ここまであると気味が悪い。鶏達は狂ったように虫に喰らい付いている。しばらくすると何匹かは満腹になったようで、小屋の中をうろつき出したが、おじいさんはそいつらに手渡しで餌を無理矢理食べさせている。無駄に苦しめると彼を咎めると

「こうしないと肥えてくれないのさ」と構わず続けた。息が詰まって苦しむ鶏を掴んで、餌を詰め込む様子は、恐ろしかった。





















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