百九話 トリファとの再会
やがて、ザワザワが建物内へと移りだした……アウェイ感が半端ない。
そうだ、トリファはここへ来るのかな?
もしかして、部屋へ直行されたら……俺、ここで何してんの状態やないかい!
ちょっと部屋を出るか、このままだと知らない人達に囲まれてしまいそうだ。
ガチャッ
フッ……出遅れた。
仕方ない、何食わぬ顔で座っておくか。
ここは、
入ってきたのは、一人のお嬢様と三人の女性の取り巻き。
オホホとさえずる種類の生き物と見受けられる。
続いて、ぽっちゃり体型のお坊ちゃん……あの、試験で会ったメタボリック君に雰囲気は似ている。
次から次へと、商人の卵達が入ってくる……。
しかし、トリファは見当たらないな。
うーむ……こりゃ参った、この部屋ってもしかして待合室ではなく、団らん室じゃないのか?
部屋は広いし、もはや自分の周りしか見えん。
よーし、では、オーラ判別でどうだろうか?
トリファだけが青の可能性もあるし。
視覚強化!
ほぼ黄色だな。
…………。
……。
おっと、奥の方で青発見! んー、顔が見えん……。
……トリファだ! 女子三人で雑談中か。
まあ、いいか。
「トリファ、久しぶりだな」
「……? えっ! なんで、イロハがここにいんの?」
おー、雰囲気が大人になっている……コイツ、だんだん美人になっていってるな。
「そりゃあ、トリファに会いに来たに決まっているだろ?」
「はぁ? ここは、学園の宿舎内よ! どうやって入ったのよ!」
「トリファ〜、この子、誰ぇ?」
オカッパの友達が会話に入ってきた、おつむが弱そうな話し方だ。
「トリファ、あんたまさか……彼氏とか言わないよねぇ?」
おさげの女子が、俺のことを彼氏呼ばわりしてくる。
おマセさんだなー、トリファと同年なら小学六年生くらいだろ……まぁ、あり得るか。
「みんな、ちょっと黙って!」
ほぅ、そんなに取り乱すトリファも面白いな。
では、ここは誤解を招くような発言を……フフッ。
「えー、トリファとは、長い付き合いで……ずっと会えなかったから…………僕から来ちゃった……」
「あんたまでっ! ちょっと、変なこと言わないでよっ!」
ワー! キャ~!
「絶対に彼氏よ!」
「あの男嫌いのトリファが……信じられないわぁ」
いやー、学生って浮いた話が大好きだよね、特に女子は。
ええわー、トリファのオタオタした顔、あのいつも冷静で大人びた雰囲気とは違って新鮮。
「いい加減にしなさいよね! イロハ」
「はい、はい。僕は、トリファの
「なーんだ、ただの幼なじみかぁ」
「ふーん、そうは言っても、トリファもまんざらじゃなさそうじゃん」
このおさげ、意外とねちっこいな……。
「とりあえず、イロハ! 行くよ!」
ガバっと手を引っ張られた……地味に痛いんだけど。
「えっ? どこへ行くのさ?」
「ここじゃ、落ち着いて話をできないでしょ!」
だから、痛いんだって。
「分かった、分かったから、そんなに手をギュッとしないで……あー、トリファは積極的だなぁ!」
ニヤリ……。
「ちょ……あんたねぇ」
「やっぱりそうなんだわ〜、手を繋ぐなんて」
ナイスだ、おさげ女子。
「はぁ、はぁ。イロハ! あんた、冗談も程々にしなさいよね。ここじゃ、すぐに噂になって、後で根掘り葉掘り聞かれるんだから」
おこ、ですな。
「そりゃ、悪かった。トリファが取り乱すところなんてあんまり見たことが無かったもんで、つい」
「ついって……まあ、いいわ。それで、何しに来たの?」
「何って、王都に来たから会いに来た、それだけだよ?」
「はぁ? それなら、手紙とか出しなさいよ! なんでいきなり来るかなあ……」
「滞在先なんて知らないし、手紙が出せるわけないじゃないか」
「あんたねぇ……いーい? 私が商科学園にいることを知っているわよね? ここ宛に送れば届くってことくらい分からないの?」
相変わらず、この話し方……懐かしいな。
「分かるさ、今ならね。商科学園に宿舎があるなんてことは知らなかったんだよ。まあ、今後はそうするから、そうカリカリすんなって」
「カリカリって……誰のせいよ!」
「まあ、悪乗りしたのは悪かった。ごめん」
「むむ……なんか、素直ね。あんたらしくないわ」
「失礼なっ! 僕の事を何だと思って……まあいい、ちょっとポルタのことが気になってね、何か知っている?」
「ポルタね。知っているわ。今年、商科学園の試験を受けて…………落ちたわ」
やっぱりか……しかし、トリファにだけ言うってどうなの?
「そっか。頑張っていたのにな。じゃあ、総合学園を受けているのか?」
「そうみたい。手紙で、勉強を教えてもらったのにゴメンっていうのが、今のところ十通ほど来ているわ」
怖っ!
ポルタよ、君はストーカー気質なのかい?
「十通……すごいな。ポルタ、トリファにぞっこんじゃないか」
「やめてよ……まあ、ポルタの気持ちは分かるんだけど、私は今それどころじゃないの」
おろろ……ポルタの初恋、第一章完。
「それどころじゃない……? なんか、大変なのか、トリファ」
「んー、やめとく。ちょっと込み入った事情があってね。あんたは、妙に鋭いから……今は、ね」
何かありそうだけど、本人が言うまでは聞かないでおくことが、粋ってもんよ。
「そっか、困ったら言ってくれてもいいぞ。僕にも何かできるかもしれないし」
「昔から、あんたには不思議な安心感があったわね。そう言うと思ったわよ。本当に困ったら、イロハに助けてもらうわ」
「なんだよ、それ。しかし、トリファ、本当にキレイになっていくんだな。それって、お母さん似なのか? ルブラインさんって感じじゃないし……」
「ちょ……なに恥ずかしい事を飄々と言ってんの? 口説いてんの? バカなの?」
すごい言われようだ……。
「なんだよ、思ったこと言って何が悪い。口説かないし、バカでもない。なあ、ルブラインさんって、豪腕の名で呼ばれてるのは、なんでなの?」
「はぁ? 次から次へと……お父さんは、昔ね王都でとある商会長の右腕をしていたの。前のお母さんの商会ね。その時のお父さんは、今よりずっと怖い人だったそうよ。その時に豪腕って呼ばれていたんだって」
優しいお父さんって雰囲気だけど、人は見かけによらないな。
「へぇー、その商会ってハーニックという名前?」
「なんで知ってんのよ! 今はもう無い……はずなのに」
「ああ、これは、たまたま知り合った商会の人から昔話を聞いたものでね。詳しくは知らないから」
「そう……。あまり外では話題にしてほしくないの。兄さんが悲しむから」
あー、これは悪かった。
思わず地雷を踏んでしまったか。
「ああ、そうだね。それは気が付かなかった。もう言わないから安心して」
「それで、イロハはスレイニアス学園だっけ? 合格したのよね?」
「なんで、合格前提なんだよ!」
「あんたさ、私たちみんなに隠していたでしょう?」
ギクッ!
隠し事が多すぎて、何がバレているのかわからぬよ……。
「な、なにをさ……」
「勉強ができる事。そして運動も」
ああ、そっちね。
「そうかな? よくわかんないなあ」
「よく言うわ、まったく。知っているんだからね、あんたの学力が高いのは」
なんかあったっけ、どこでバレたんだ?
「……」
「私、見たのよ。ステラさんに届け物があった時、誰もいないものだから中へ入ったら、偶然イロハの部屋へたどり着いたわけ。高度な計算の跡や内容が難しい本、何を書いているのかよく理解できない記録? など……悪気はなかったのよ」
偶々のように言っているが、やっていることは、ただの空き巣じゃないか……多感なお子様だ。
言いふらさなかったところは褒めてあげたい。
あの頃は、部屋に誰も来なかったから無防備だったもんな。
しかし、アレを見ていたのか。
いくらトリファでも、よく分からなかっただろうね。
「ふーん。まあ、正確に言えば隠していたんじゃなくて、言わなかっただけ」
「やっぱり。いい性格しているわね、商人に向いているかもよ? フフフ」
「あ! そうそう、僕さ、自分の家を借りたんだよ、借家ね。それを伝えに来たんだ、忘れるところだった。場所はね、西地区のここらへん」
王都中央地区を四角に見立てて、曖昧に場所を伝える。
「へえ、よくそんなお金があったわね。あのへんだと十数万はするんじゃないの?」
「まあ、そんなところ。いつか遊びにおいで、歓迎するよ」
「歓迎? 料理も作れないのに、良く言うわね」
それが、できるんだな。
自炊歴は、意外と長いんだぞ?
「おいおい、見くびっちゃいけない。手料理もできまっせ、美味しい紅茶も出せまっせ」
「あんた、料理できるの? 私もできないのに……」
おっと、弱点発見。
「トリファ、料理できないのか……ププッ。いくら美人でも、それでは良いお嫁さんにはなれないなぁ」
スパーン!
痛っ!
「その口を閉じなさい! すぐにできるようになるわ、料理くらい。今までは時間が無かっただけ、イロハには負けないから」
料理を舐めちゃいけない。
さしすせそ、目分量、焼く、煮る、炊く、揚げる、蒸す……お店でなければ、経験がモノを言う世界だぞ、甘いなトリファよ。
「暴力反対! 頭殴っちゃいけないんだぞ? バカになっちゃう」
「ちょっとバカになった方がいいわ、あんたは。さあ、そろそろ私は戻るけど、いい?」
「うん。気を遣わずに話せる相手って、楽でいいね。久々に楽しかったよ。気が向いたらまた遊びに来る、そん時は手紙を送るから」
「はいはい、期待せずに待っているわ。じゃあね」
「ああ、またなー!」
ふぅ、トリファは相変わらずだった。
以前より少し、話すようになった感じかな?
もう、日も暮れ始めている。
あー、ここから家まで遠いなぁ、確実に真っ暗になるぞ。
◇◆◇◆翌日◇◆◇◆
昨日は、帰ってきてすぐに寝たんだった。
ふぁ〜。
まだ、外は薄暗い。
しかし、目が覚めてしまったな……そういや、時計が無いとどうも時間が気になってしょうがない。
二千万ソラスか……まだ、分不相応ってわけね。
今、何時なんだろう……。
よし、せっかくだしランニングでもやるか。
今日は、訓練をやって久々にコアプレートでも確認してみよう。
◇◇
ふぅ……。
確実に、基礎体力は上がっている。
体も成長している。
俺のスキルの場合、基礎が上がるほど強くなる……。
少し前に、手加減を覚えようと思ったが、これが意外と簡単なことだと気付いた。
要するに、倍率を下げればいいと言う話。
何倍という概念は無いけど、コアの成分? を少なくすれば自然と弱めることができる。
これが、最近の訓練の成果だ。
さて、コアプレートに変化はあるのかな……残念、光らずか。
コア:強化
■■■□□□
スキル:真強化
身体強化(真)●
部位強化(真)○
無生物強化(真)
スキル:真活性
細胞活性(真)
スキル:真付与
無生物付与(真)○
生物付与(真)
無生物強化は、身体強化の次くらいに使っているつもりだが、一向に変化が無い……何かあるのかも。
恐らく、俺のスキルは特殊だ。
だから、一般的な表示ではないと予想している。
いわゆる、
コアプレートは、自分にだけしか分からない不思議な物、希少な魔道具以外で人のスキルを見る方法が無いのは、残念だ。
……本当に無いのかな?
…………。
……普通は見えないものを見る。
……コアは物理的に存在している。
…………。
特性、スキル……これらは、コアがもたらすものだ。
俺は、視覚の性能を強化することで、
訓練次第では、人のコアの
もし、できてしまったなら、俺は相当ヤバい存在となってしまうだろうな。
強化転生 ~異世界の強化スキルは単純なほど万能で最強説!?~【第二章 完結】 遊三昧 @pan_demo
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