お菓子を買いたい飯田さん

次の日、僕らは家庭科室で杉崎さんに昨日のレストランで食べた物について話をしていた。


「野菜をサラダにしたり、料理の添え物にするのではなくメインの料理の中に入れるというのは、野菜が食べやすくて良いですね」


僕と飯田さんの話を聞いた杉崎さんは感心したように頷いてからそう言った。


飯田さんは昨日食べたハンバーグの味を思い出しているのか、目を閉じてしみじみと口を開いた。


「ハンバーグと野菜のコラボ。美味しかったな〜」


飯田さんは目を開くと僕の方を見て、再び口を開いた。


「ねぇ、倉橋君、私野菜が入ったハンバーグを深雪に作ってあげたい!」


飯田さんの言葉に僕は頷いた。


「飯田さんの作ってあげたいという気持ちが大事だから、深雪さんにはハンバーグを振る舞おう」


笑顔で頷く飯田さんの隣で、杉崎さんが口を開いた。


「そうしたら、何度か練習をした方が良いと思いますので、家庭科室を使って下さい」


「杉崎さん、僕達が家庭科室を使って大丈夫なの?」


「はい、部員の私が居て、放課後であれば問題ないです」


「葵、ありがとう! 私、頑張るね!」


「そうしたら、次は材料の準備か」


僕の言葉に杉崎さんが反応する。


「冷蔵庫も使って大丈夫ですよ」


「葵、明日って家庭科室使っても大丈夫?」


「はい、勿論ですよ」


「倉橋君、そうしたら、今日材料を買って、明日料理しない? 早い方が良いと思うから」


飯田さんのやる気に満ちた目を見て、僕は頷いた。


「分かった。早速、買いに行こうか」


「気を付けて行って来てください」と、杉崎さんに見送られながら、僕達は学校近くのスーパーに向かう事にした。


スーパーに入ると、まずお肉のコーナーに向かった。


「まずはひき肉をカゴに入れようか」


飯田さんは頷くと、大容量パックの豚ひき肉、五パックをカゴに入れようとした。

僕は慌てて、飯田さんを止めた。


「飯田さん、一体何個ハンバーグを作るの?」


僕の言葉を聞いて飯田さんはキョトンとした表情を浮かべる。


「えっ、何回か練習すると思ってたから、この量なら五回は練習が出来るかなと思ったんだけど」


どうやら、飯田さんは一回の料理で大容量の豚ひき肉一パック分のハンバーグを作るつもりのようだ。

それでは、お金と食欲がいくらあっても足りないだろう。


「取り敢えず、二パックで良いんじゃないかな。足りなかったらまた買いに来れば良いと思うよ?」


僕がやんわりと伝えると、飯田さんは渋々といった感じで、三パックの豚ひき肉を売り場に戻した。


僕はその様子を見て、沢山ハンバーグを食べたいのだな、と思ったが、そんな予算は当然ない。


豚ひき肉をカゴに入れると、僕と飯田さんは次に野菜のコーナーに向かった。


「昨日、食べたハンバーグには人参、じゃがいもと玉葱が入っていたよ」


「じゃあ、それらを一袋ずつカゴに入れようか?」


野菜をカゴに入れた後は、つなぎで使う卵もカゴに入れた。

片栗粉や調味料は家庭科室にあったはずなので、明日、杉崎さんにお願いをして貸して貰おう、と僕は思った。

そうしたら、後はレジに向かって会計を済ませるだけだ。


僕と飯田さんはレジに足を向けた。

レジに向かってカートを押しながら僕は、制服を着ているが、これだと新婚のカップルみたいだな、と思い、急に恥ずかしくなった。

しかし、これは飯田さんと深雪さんの為だ、と考えて気を引き締めた。


そんな事を考えていた時、ふと、飯田さんの気配が無い事に気が付いた。

立ち止まって隣を見ると飯田さんの姿が無かった。

何処に行ったのだろうか、と思い、後ろを振り返るとこちらに向かってくる飯田さんが視界に入った。

僕は飯田さんが両腕で抱えている物に気が付き、思わず頭を抱えそうになった。

飯田さんはその両腕に大量のお菓子を抱えていたのだ。

僕と目が合うと、飯田さんははにかんだ笑みを見せてから、口を開いた。


「……お腹が空いちゃって」


「……せめて一袋にしておいで」


僕が言うと、飯田さんは頷いて、しばらく考えると、お菓子を一袋カゴに入れた。

僕は、大量のお菓子を売り場に戻しに行った飯田さんの後ろ姿を見ながら、これでは、新婚カップルではなく、親子の様だな、と思うのだった。



☆☆☆


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「女の子を助けたら、クラスの女子に子育てのアドバイスをする事になった」


https://kakuyomu.jp/works/16818093083662016741/episodes/16818093083662332103

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