意識し過ぎも恥ずかしい

次の日の放課後、僕と飯田さんは昨日調べたお店に向かっていた。

最寄りの駅から数駅離れた駅に降り立つと、僕は辺りを見回した。


「ここら辺に昨日見たお店があるとは知らなかったな」


僕の言葉に飯田さんは頷いた。


「最近オープンしたお店みたいだね。倉橋君の料理が美味しくて、そればかり食べていたから新規店のチェックが疎かになっていたよ」


飯田さんの言葉に僕は呆れながら口を開いた。


「褒められているのは嬉しいけど、僕のせいではないと思うよ?」


「深雪に食べてもらう料理の参考になるかもしれないから、反省して今後はしっかりチェックするね!」


そんな飯田さんの宣言を聞きながら、僕と飯田さんは足を進めるのだった。




「お〜、お洒落な店内だね」


店に入りテーブルに着くと、飯田さんは辺りを見回しながら口を開いた。

店内は白を基調にしていて観葉植物が置かれており、非常に落ち着いた雰囲気だった。


「そういえば、深雪さんって嫌いな食べ物ってあるの?」


もし、嫌いな食べ物があったら、それは避けた方が良いだろう、と思い、僕は飯田さんに尋ねた。


「深雪はね、好き嫌いは無かったよ。素敵な笑顔で毎回食べるんだ。だから、深雪とご飯を食べる時はいつも楽しいよ!」


笑みを浮かべながら話す飯田さんを見て、僕は微笑ましい気持ちになった。


その後、あーでもない、こーでもない、と言いながら、飯田さんは和風ハンバーグ、僕はトマトチキンカレーをそれぞれ注文した。


しばらくして注文した物が届くと、僕と飯田さんは手を合わせ、「いただきます」と、言うと食事を始めた。


僕が頼んだトマトチキンカレーは様々な種類の野菜が大きめにカットされてチキンと共にトッピングされていた。

一口食べると、野菜のシャキシャキ感に程良い辛さのスパイスが効いており、とても美味しかった。

これなら様々な種類の野菜を入れてもカレーと一緒に食べる事が出来るだろう、と僕は思った。


「倉橋君、ハンバーグ、美味しいよ! 玉葱と人参、それにじゃが芋が入ってる!」


飯田さんはとても美味しいそうに食べながら、ハンバーグの中に入っている物の説明をしてくれた。


「ハンバーグの中に野菜を入れるって発想がなかったな」


野菜を入れる事で使う挽肉の量が減らす事が出来る。

満足しつつ、野菜も食べれる、とても良いのではないか、僕は思った。


しばらく、僕が考えていると、飯田さんがハンバーグを箸でつまんで、僕に差し出して来た。


「飯田さん、どうしたの?」


「倉橋君、ずっとハンバーグを見ていたから食べたいのかなと思って。はい、あーん」


これでは間接キスになる、と僕は慌てたが、飯田さんは気にしていないみたいだし、断るのも失礼だと思い直した。

とても恥ずかしくなりながら、口を開き、ハンバーグを食べた。


「……うん、美味しい」


正直、恥ずかし過ぎて味は何も分からなかった。

何も感想が無いのも、おかしいと思い、なんとか捻り出した言葉に飯田さんは笑顔を見せた。


「そうだよね、工夫次第で色んな味とか食感が出せるから料理って凄いよね」


僕はこんなに動揺しているのに、気にしない様子で言葉を返す飯田さんを見て、勝負なんてしていないのに、なんだか負けた気持ちになるのだった。

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