とある少女のパパが色々すごいらしい。

卯野ましろ

とある少女のパパが色々すごいらしい。

 昔、とある少女が「こっくりさんをやろう」と考えた。その動機は、学校で行われたテストの結果が知りたかったからである。少女は友人を誘って、学校でこっくりさんをやりたかった。しかし少女は、こっくりさんが恐ろしいものだということを薄々だが知っていた。それでは友人に迷惑をかける可能性がある、と思った少女。結局、少女は自宅で、一人でこっくりさんをすることにした。

 そして少女は、ある日の夕方にこっくりさんをすることにした。こっくりさんをするには色々と用意しなければならないので、少女は「めんどくさいなぁ」と思いながら準備をした。全ての準備が完了し、硬貨に指を伸ばす少女。


 これで、この前のテストの点数が分かるのね。

 ……よし!


「おーい、おやつあるぞー」

「っ!」


 いよいよ、一人こっくりさんが始まろうとしたそのとき……。


「入るぞ」


 コンコン、と部屋をノックする音が少女の動きを止めた。


 パパ……!


 予想外の展開に驚いた少女は、体も口も動かせなかった。そんな娘の様子も知らず、少女の父はドアを開けた。


「……ん?」


 部屋に入るなり、父は娘の様子がおかしいことに気付いた。そして顔が真っ青の娘に、すぐに父は質問した。


「今、何をしようとしたんだ?」

「……こ、こっくりさん……」


 嘘を言うわけにもいかず、少女は震えながらも父に本当のことを話した。すると少女の父は、


「うわ絶対やめろ! 狐が取り憑くぞ! それ、早く片付けるんだ!」

「は、はいっ!」


 もちろん娘を止めた。そして少女は素直に父の指示に従い、こっくりさんのために用意したものを全て片付けた。


「……どうして、こっくりさんなんてやろうとしたんだ?」


 おやつを食べながら、また父は娘に質問した。こっくりさんを止めるときは、すごい剣幕だった父。しかし娘が素直に言うことを聞いたため、もう落ち着いていた。


「テストの結果が知りたかったの」

「あんなことしたらダメだよ。取り返しのつかないことになる」

「ごめんなさい」

「うん。もうやらないって約束しよう」


 父に注意をされ、少女は反省した。あれだけ友人に迷惑をかけたくなかったのに、家族のことを全く考えていなかった自分が恥ずかしくなったのである。あのとき少女の父が娘を止めなければ、その家族は大変なことになっていただろう。




 こっくりさんを断念してから数年後、少女は絵を描いていた。そのとき少女が描いていたのは、イラストコンクールに応募するための作品である。


「ふう……描けた」

「おい、何を描いたんだ?」

「えっ!」

「見せて、ほら早く」


 少女が絵を描き終えると、すぐ側でテレビを見ていた父が、その絵に興味を示した。少女は「何か、あのときみたい……」と、こっくりさんを止められたときを思い出した。そして父に絵を見せると……。


「そんな絵、提出するのやめろ」

「……はい……」


 その絵はボツとなり、渋々だが少女は作品を描き直すことになった。父に不評だったのは、おかっぱ頭の女の子と多数の包丁が描かれ、ほぼ赤と黒で塗られた絵だった。絵の内容と色使いから、父は娘を心配したのだろう。

 それにしても娘が絵を描いているときは興味がなさそうだったのに、完成させた直後に父のチェックが入るとは。ただの偶然かもしれないが、そのタイミングに少女は驚いたようだ。まるで父が、娘を愛するが故に勘の鋭さを発揮したと感じられる。

 少女の父親は器用な人間であり、娘のことに限らず、これまでに様々なことを上手に乗り越えているらしい。おまけに人たらしで顔も良く、どこへ行っても大体は人気者となるようだ。一体、人生何周目なのだろうか。これは彼に限らず、そういう人間を知る度に私が思うことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

とある少女のパパが色々すごいらしい。 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ