三十路物臭外道害獣、料理人の癖に独居八カ月目にしてやっと自室で料理に着手

バーチャル害獣“蠱毒成長中”

「ウソだろ蠱毒成長中! お前外道の癖にカレー作れんのかよ!?」って読者の声が聞こえない

※注意※

 本作は2023年8月に執筆された作品につき、

 細部は現状の作者を取り巻く状況等が当時からするとかなり変化しているため、

 その点は留意されたし。


〇CHAPTER 0 -目が滑るほど長い長い前置きの話-


 なろう時代から私を知るファンの方にとっては(私の創作一辺倒っぷりを知るが故に)あまり信じられないかもしれないし、

 クロビネガ時代を知るアンチの方にしてみれば(私を無職だと決めつけていたいであろうから)何が何でも絶対に信じたがらないであろうが……

 私の本業はこれでも一応"調理師"である(近ごろは清掃員も始めたが)。


 思い返せば早いもので"食に関する仕事"を始めてもうかなりの月日が経った。

 最初の仕事は老人ホームの皿洗いであった。

 皿洗いと言ってもその対象は食器のみならず、隣接する調理場で使われた様々な調理器具の洗浄、また作業場周辺の掃除も業務のうちに含まれていた。

 そのまま五年弱皿洗いとして勤め続けた後、老人ホームと私の勤める会社の契約が切れることとなり、

 会社側につく選択をした私に宛がわれたのが地元にある国営施設の厨房での調理業務であった。

 と言っても当初の肩書は調理補助であり、食器・調理器具の洗浄や現場近辺の清掃に加え、食材の下処理、デザート類の盛り付け、時に配食といった、あくまで補助的な作業を任されていた。

 その肩書が調理師に変わったのは、調理師免許を所得後、県外の別な現場へ飛ばされてからのことである。

 この現場で私は実際に調理師として様々な料理に挑戦することとなり、現場に甚大な被害を出し続けるわけであるが……それはまた別の話。

 その後、程なくして更にまた別の現場に飛ばされる運びとなり、今に至る。

 現在の現場での肩書は以前同様"調理師"であるが、行う作業は専ら補助的なものであり、更に元来料理にさほど興味がなく物臭な性格だったのもあって、少なくともここ二年近くの間"私生活での料理"をすることは殆どなくなってしまった。

 一応炊飯器でコメを炊いたり、インスタント麺や乾麺、ソーセージ等を茹でる程度のことはしていたが、曲がりなりにも厨房に立つ者としてはそれらは調理には相当し得ないと考えている。


 そんな私がつい先日、何を血迷ったか"私生活での料理"を試みたことがあった。

 結果としては久々にしては大成功だった。仲間や、親身にして下さっている読者の方から「その時の様子を是非エッセイで知りたい」との要望を頂いたため、この度こうして筆を執った次第である。



〇CHAPTER 1 -唐突な思い付きなんて大体ろくなものではない。特に私の場合は-


 ――そうだ、調理器具を買い足す序でに何か料理らしい料理をしてみよう。


 切っ掛けらしい切っ掛けなどなかった。ただ唐突に思いついただけだ。

 具体的な献立もしっかり決まっていなかった。ただ、実家へ帰省した日の夕食に食べた牛ステーキ(といっても大陸産の安物だが)を思い出したので、なら肉を焼こうか、或いは比較的簡単に作れるカレーもいいだろう、ぐらいの考えがあった程度である。


 近場のスーパーマーケットを見て回り、肉を焼くかカレーか、どちらにすべきかと熟考を重ね……私が導き出したのは何とも馬鹿げた結論だった。


「どちらも作って一皿に纏めればいいじゃないか」


 これである。全くもって安直極まりない。学歴と肩書だけのバカとは恐らくこういうヤツのことをいうのだろう(もっとも私は地方の四年制私大の出身かつ肩書らしい肩書も持ち合わせていないので厳密には"学歴や肩書すらないバカ"であるが)。

 とは言え実際どちらも食いたいと思ってしまったのだから仕方がないわけであり……私は財布と綿密な打ち合わせをしながら材料を買い集めた。

 結果、実家で食ったステーキは牛だったが今回は豚になり(どちらも好物なので特にグレードダウンしたといった感覚には陥らない)、具は王道の人参、馬鈴薯(ジャガイモ)、玉葱の三種に加えて肉枠としてクジラ筋を購入した。


 クジラ筋というと馴染みがない方も多いかもしれないし、読者の中には居ないと思いたいが、日本の調査捕鯨を難癖付けて頭ごなしに全否定したくて仕方がない黄禍論拗らせ系ヒト擬きの皆様方としては「クジラを食う」の字面を目にした途端問答無用で本作をプラットフォーム運営者に虚偽の理由をつけて通報したり、或いは私の現住地を特定しその半径百数十キロ圏内に無人機での絨毯爆撃でもしてきそうなものであるが……

 そもそも反捕鯨派閥のヒト擬き風情など今日日ほぼ幻獣と言って差し支えないほどに減少していようし、来て精々「お前の職場を爆破してやる」という虚仮脅しが来るか来ないかといった所であろう。


 さて食材としてのクジラ筋について幾らか述べさせて頂くと、紛れもなく極上でこそあれ癖の強い食材であり、それこそカレー等煮込み料理との相性こそ抜群である。然し、一見美味そうな見た目に反して味付けらしい味付けはなく、単に加熱したものへ安易にかぶりつこうものなら後悔するだろう。パッケージには「温めて醤油やポン酢をつけても美味い」といった謳い文句もあるが実際は……。


 ステーキにする豚肉は二枚入りのカツ・ソテー用を購入。固形カレールウの具体的な銘柄は無用な争いを避けるべく伏せさせて頂く。

 序でに調理器具としてそれまで自室に無かったフライパンを購入。面積が広めのものを選ぼうとすると殆どがIHクッキングヒーター不対応。「我が家の加熱料理機器ってコンロではないけどIHにも見えないよな」などと、安易に考えそこそこのサイズを420円で購入した。



〇CHAPTER 2 -学歴も肩書も実力も知能もないバカは案の定愚行を繰り返す。それも比較的洒落にならないような愚行を-


 一通りの買い物を終え、社員寮として会社が借りてくれている集合住宅の最上階へ戻る私。

 これより早速調理開始……なワケであるが、何分バカであるが故かここであることを思いつく。


「この様子、SNSで実況したらウケるのでは?」


 一丁前に創作活動をやっていて、しかも約十数年続けている割には人気に恵まれない(異世界ブーム全盛期に書いたファンタジーものが一時的にブックマーク二千件を突破したのが最高記録な時点でお察しである)底辺である私は、SNSの投稿や著作物、果ては動画投稿プラットフォームに残したコメントなど"自分が独自に作ったもの"に他人がどう反応するのか……それが楽しみで楽しみで仕方ない。何なら生きがいの一つですらある。

 要するに"自分のやったことに逐一反応してくれる親切な他人"に依存してしか生きられない、毛ジラミかニキビダニのようなクズである。

 しかも間の悪いことに、この時期は自作『デッドリヴェンジ!』の閲覧数が急落しスランプに陥っていた時期でもあり、総じて他人からの反応……言うなれば私にとっての"餌"が明らかに不足気味であり、更には連勤が重なっていたのも手伝って精神的に極めて不安定、いつ発狂・暴走してもおかしくない状況であった。

 よって、料理の写真をSNSに投稿して幾らか反応を貰おうなどと浅ましい考えに至るのも必然であり……私は早速行動を起こした。


 使う食材を並べ、写真を撮影……それを仰々しく芝居がかったクサい駄文と共にSNSへ投稿する。


 "ヴィーガンならぬヴィー癌と反捕鯨派閥のクズどもを敵に回しかねない、

  冒涜的かつ背徳的なまさにバーチャル害獣たる私に相応しいメニュー

  その名も『豚テキ鯨筋カレーライス速攻型』"


 我ながら欠片ほどのセンスもない低俗な文言である。案の定投稿はウケなかったがそれも必然であろう。

 ただ、あくまで私の主目的はSNSで注目を集めることではなく料理の成功なため、気にせず作業に没頭する。


 米を炊き、具材を切って煮込み、カレーのルウが完成(私が独自に速攻型と名付けたこのカレールウは、具材を炒める段階を省き最小限の水量で煮込む特徴がある)……さあ次は豚を焼くぞとフライパンを用意。

 カレー鍋を一旦退避させ、予め買っていたサラダ油を敷いたフライパンを火にかけた……


 までは、良かったのだが、程なくどうにも何かがおかしいと私は気付く。




「フライパンが……熱くない、だとっ!?」




 そう、本来ならすぐさま温まり触れるのも躊躇われるほどの熱気を放つハズのフライパンが、何故か常温のままなのである。

 よく見れば調理機器のランプが点滅している……付属の説明書きによればこれは異常事態の合図である。

 もしや故障か? そう考え一旦離していたカレー鍋を置いてみると……しっかり加熱されている。

 ……そう、私は愚かにも自室の調理機器がIHクッキングヒーターである事実を失念、事前確認を怠り大丈夫だろうと安易に考え、事もあろうにIHクッキングヒーター非対応のフライパンを購入してしまっていたのである。


 これは拙(マズ)い! 危機を覚え、救いようのない己の愚かさを悔いた私は慌てて集合住宅の階段を下り車を走らせた。目的地は先ほどフライパンを購入した店……買うものを間違えてしまったのは仕方ないとして、改めてIHクッキングヒーターに対応するフライパンを購入しなければと考えたのである。

 然し現実は非情……買い物と調理に時間をかけすぎたのもあり、到着した時点で店は既に閉店時刻を過ぎていた。他に購入可能と思しき店も無いではないが、距離が離れている関係上移動中に閉店している可能性も考えられた。

 私はフライパンの再購入を諦めた。



 ともすれば豚を焼くのも諦めるのだろう……多くの読者諸氏はそう思われるかもしれない。

 然し私は曲がりなりにも害獣を名乗る者……害獣をはじめ、邪悪・害悪たるものは得てして往生際が悪くしぶといのが常であり、それは私とて一応例外ではない。

 フライパンを使わずしてどうにか豚を実食可能なレベルまで加熱する方法はないものか……迷った末私が辿り着いた答えは、電子レンジであった。


 電子レンジ……マイクロ波によって食品中の水分子を振動させ、内部から煮立たせ加熱するこの調理家電は、広く冷凍食品の解凍や冷めてしまった料理の加熱に用いられる。だが内部から煮立たせ加熱するならば、即ち生肉を長時間加熱すればフライパンで焼くのに近い状態にすることも可能なハズ……バカなりの浅知恵でそう考えた私は、肉汁が染み出るリスクを加味して二枚重ねにした紙皿の上に肉を置き、加熱を試みた。

 言わずと知れた周知の事実であるが、豚肉はサルモネラ属菌、カンピロバクターなどの細菌類やE型肝炎ウイルス、原虫トキソプラズマ、凶悪なサナダムシ類の有鉤条虫などへの感染リスクが高いため加熱はしっかり行わねばならない。それは電子レンジも例外ではなく、私は二枚の豚肉を入れたレンジを長時間動かし続けた。


 そうして出来上がったカレーのルウと加熱を終えた豚肉の写真を一応SNSに投稿……写真写りは決して良くなかったが、少なくともルウに関しては幾らか美味そうだと褒めて頂けた。



〇FINAL CHAPTER -完成したものを、実食(くら)う。或いは、完食(くら)えばこそ完成する-



 米は炊き上がり、ルウも完成し、豚の加熱も完了……あとはこれらを組み合わせて食らうだけである。


 まずは器の底に二枚の豚肉を敷く。

 そしてその上に米、続けてルウといった順番で盛り付ければ……目出度く『豚テキ鯨筋カレーライス速攻型』の完成となる。

 米と肉の順番が逆ではないかと思われる方も居られようが、然し米の上に比較的平坦な豚肉を載せてしまうと上に盛り付けたルウが器の外に流れ出てしまう恐れがあるし、なによりカレーライスでありながら"ルウと米を併せて食う"動作が極めて困難になってしまう。よってこの場合、豚肉は米の下が正解なのである。

 この方法は実家暮らしをしていた学生時代に思いついたもので、米を悔い終えればその次はカレールウをタレにした、少々豪華な(?)ステーキを楽しむことができるため結構な頻度で行っていた記憶がある。写真映えを気にするならば或いは肉を上に持ってくるのもアリかもしれないが……そこは個々人にお任せしよう(というか、ここで書いた所で影響されてこの方法を試す大食漢が果たしてこの世に何人いることか……)。


 三種を盛り付けた器の写真をSNSに投稿したところ、これもまた少しばかりだが反響があり概ね公表であった。


 さて続いては、いよいよお待ちかねの実食である。

 実家暮らし時代から愛用している鉄製のレンゲで掬い取ったルウと米を、口いっぱいに頬張る……



 美味い。

 とても美味い。

 間違いなく美味い。

 どうあがいても美味い。


 若干細かめに切った野菜と鯨筋の出汁、そして何より通常より多めに投入した固形カレールウの濃厚な味わいは私の味覚に満足感の爆撃をもたらした。

 具材もいい味を出している。火の通りにくい人参は細切れにしいの一番に徹底的に煮込んだのもあり適度な柔らかさと独特の甘みをもたらし、馬鈴薯にしても態々熱で崩れにくい"煮込み料理向き"の品種を選んだだけに触感は完璧、玉葱は飴色になるまで炒めずともその触感と(他の食材の出汁を吸ってよりアップグレードされた)旨味も相まって至高……そして何より此度この鍋の花形役者たるクジラ筋……これが何より極上であった。天にも昇る心地の味わいとはまさにこのこと。

「知能が高いから」などというわけのわからぬ理由でクジラ風情に人権を与えるなどと世迷言をぬかし、過剰な保護で甘やかしかえって海洋生態系崩壊の片棒を担ぐ反捕鯨派閥黄禍論者ヒト擬きのなんと愚かしく哀れで無様なことか……。


 勿論米も忘れてはならない。金属製のザルを用い丹念にヌカを落とした上で水量にも拘り炊いた甲斐があったというものだろう、濃厚なカレールウによく合うのだ。


 因みにこれは私が最初に努めた厨房を仕切っておられた"ある種の現人神にも近しいほどに偉大なとある現場監督"の教えなのだが、カレーライスや丼などの為に米を炊く場合、水量を若干減らし硬めに炊くのがよい……と、される。

 勿論硬すぎてはいけないので調整は慎重に行うべきであり、また個々の嗜好・体質・健康状態といった諸事情にも配慮しなければならない以上絶対とは言い切れないワケではあるが……それはそれとしてかの現場監督は百戦錬磨の敏腕調理師であるのみならず、優れた経営者にして凄腕の武道家でもあり、まさに天が二物を与え錫たが如き傑物である事実をここに記させて頂く。




 ――なに?

 「然るべき信用に値するデータを取った上で"カレーの米は水を少なくして硬めに炊くべき"との言説が"時間的関連性"・"量的相関性"・"質的相関性"・"原因と結果の関連性"からなる"疫学四原則"を全て満たす事実を、優位水準一万分の一以下で帰無仮説を棄却し統計学的に証明できれば"カレーの米は硬めに炊くのが絶対に正しい"と科学的に断言できる」?

 ……確かにそれは勿論そうだろう。

 だがだとして私のようなバカがそんなことできると思ってるのか?

 できるわけないだろ!

 というかやんわ! やってたまるか!

 ふざけるな、この野郎!




 さて、話が逸れたが……最後はお待ちかね、器の底に敷き詰めた豚肉であるが……これがまた絶品であった。

 レンジでの加熱時間が丁度良かったのであろう。フライパンで焼かなかったこともあり肉汁が幾らか損なわれていたようであるが、だからこそソース代わりのカレールウがその隙間によくしみ込んだのであろう、ともかく食感と味わいが極上なのである。

 ああ、あそこで豚肉を購入しておいて本当に良かった……心からそう思わせてくれる、感動的な美味さがそこにはあったと言っていいだろう。

 次は改めてIHクッキングヒーター対応のフライパンを購入し、焼いた豚もしくは他の肉を敷く形式を試してみようか、とも思った。

 或いは本作の執筆に至った切っ掛けは先に述べた通りネット上で親身にして頂いている知人の提案で執筆に至った作品であるが、その内一人からは(仲間を介して間接的にではあるが)「君(バーチャル害獣)は創作活動への情熱と意欲こそあるが、聊か恐ろし気で近寄りがたい雰囲気があるのもまた事実。よって調理エッセイを執筆し、親しみやすく温かみのある人間らしい一面をアピールしてみてはどうか」とご提案頂いた。


 然し果たしてそもそも、異世界転生・転生もの追放もの、悪役令嬢主役のラブストーリー、果ては「ライブ配信を切り忘れたために配信者の秘密が漏洩する話」なる得体の知れないジャンルまでもが幅を利かせる極東八大地獄或いは西洋九層地獄じみたこのネット小説環境にあって、

 たかが頭の悪いアマチュア変人底辺風情の調理エッセイ()がどれほどの人気を獲得できるのか、そもそも読者に認知されるのか、数多の懸念事項が故にどうしても二の足を踏んでしまうのである。



 とは言え「好きなように独自の飯を作る」のは実家暮らしをしていた学生時代の一時、ごく短期間ながらもマイブームであったことがなくもないので、今後もそういった活動を続けていければ、とは考えていなくもない。



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三十路物臭外道害獣、料理人の癖に独居八カ月目にしてやっと自室で料理に着手 バーチャル害獣“蠱毒成長中” @KDK5109

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