不思議

 季節が夏から秋に変わりゆくと同時に母親の焦りが見えてきた。「どこの高校に行くのか決めたのか」と聞いても兄は生返事を返す。そんなもんだから私も気になり、両親がいない日に聞いてみることにした。夜ごはんの時間に聞こうと思ったが、ここ最近話していなかったからどう切り出せばいいか分からない。直球に聞くと母親と同じになってしまうのではと思うと何も聞けない。そんななか、兄が喋り始めた。

「私立の単願でいこうと思ってる」

そう淡々と話す兄に「そっか」としか言えなかった。きっと兄はそこでやりたいことが見つかったんだろう。けれど、両親はよかれと思わなかったらしく12月になるまで兄の説得は続いた。


 12月始めにやっと両親は兄の説得に応じた。兄は安堵したからか、勉強に身が入るようになったらしい。私も一安心した。私立の受験は1月らしくあっという間に受験になり、兄はずっとしかめっ面をしながら試験会場に向かっていった。私は学校が普段通りにあったので学校に行った。給食を食べた後は授業が無く早めに帰れた。帰ると兄が帰っておりリビングに転がっている。声をかけると今までの勉強アレルギーが来たとのこと。コンビニに行き兄が好きないちごチョコとコーヒー牛乳を買ってあげた。ありがとうと言い兄は部屋に籠った。ほんの少しだけでも私たち兄妹の間が埋まったきがした。でもきっとほんの数ミリでしかないんだろうと思った。


 3月になり、兄が中学校を卒業した。別に学校でなにか接点があったわけではないが、兄と同じ話題がなくなったのに意外性を感じる。春休みになり、兄が無事に高校生になることに安堵したのか両親はまた家に帰ってこなくなった。兄は新しい料理を試したいといい私は試食かかりをやらされた。基本的に美味しいから構わないけれど、たまに味がとても濃いのが出て血糖値が上がるような気がした。そんな春休みを過ごし兄は高校生、私は中学3年生になった。進路のことを考える時期になり、どこに行こうかと考えるようになった。正直、普通科よりは何かしらの専門的なものを学びたいから工業や商業にいこうと思っていた。第一候補は工業科の建築学部にしようと思っていた、けれど見学に行ったときに男子が多くて辞めてしまった。いつから男子女子を意識していたのだろう。いや、から男性やカップル、恋愛話に対して極度に怖がるようになってしまった。こんなことを考えてしまう自分に吐き気を覚える、私だって故意で考えている訳じゃないと脳内で言い訳を唱え浮かんできた泥を消す。そんな観点で考え見つけたのは商業高校だった。女子の人数の方が多く、専門科目も学べ、さらに就職に強いときた。だから私はここの学校にしようと思い親に話した。案外、兄のときよりはスムーズに話が進んだ。けれど最後の方でため息が出るようなことをいわれた。

「公立1本で行け。落ちたら体を売って家に金を入れろ」

 愛していないとしても、身内に、未成年に言うことなのだろうか?それでも広角を上げて「わかった」といった。これを飲まなければ高校の学費も、いや、受験すらできないのだから。兄は2階の踊り場で聞いていたのか2階に上がったときに声を掛けてきて「何かあったら俺が何とかするからな」と言ってきた。幸いに私は勉強は人並みには出来、高校の偏差値は越えていたのでこのまま勉強をすれば大丈夫だろうと思っていたのでありがとうとだけ言って部屋に籠った。部屋に入りやっと呼吸が出来るような気がして無意味に呼吸が浅くなった。

(大丈夫。なにかあったら警察がある。なにか非行をして少年院に入ればいいんだ)

そんな浅はかな考えをする私が1番頭が悪いと思う。こなが私の足の間を通り「にゃぁ」と鳴く、そんな様子のこなを見て私より賢いんだろうななんて思う。この子が日本語を喋れたら何を言うんだろうか?ご飯の質について?この家の環境について?…答えは出ないので何度か撫でてから布団に入った。

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