聞きたくなかった話
今年は偶々家にいることが多い両親。毎年長期休みになると父親は彼女の場所、母親ひ彼氏の場所に行って夏休みが終わるまで帰ってこないことがデフォルトだった。祖母はそんな母親を叱責するけれど効果がなく、祖母は私たちに対して「ごめんね」と謝り頭を撫でる。そんな祖母に私は心を痛めた。家事の殆どは私が担い、兄は3食作ってくれた。元々作業が好きだから家事に関しては何も戸惑いも苦しさもなかった。まぁ、昔からやってたら当たり前だろうが。そして2人で食事をしても何も話すことが出来なかった。携帯でYouTubeを見ながら食べる兄を眺めながら食べたご飯の味は覚えていない。お腹に溜まる空気を食べてる様な思いだったのは密かに覚えてる。兄が好きなものは兄が小学生の頃の物しか分からない、いちごが好きでよくいちご味のドーナツを食べていた、電車が好きで写真を撮りたいと言い祖父と私を連れて線路が見える公園から撮っていた…それしか知らない。私は小学4年辺りから口数が少なくなり感情の起伏もあまり無くなっただろうから兄の記憶ももしかしたら私が小学3年の時から変わっていないかもしれない。お互いの認識が止まったままなのだから、何を話せばいいか分からないのはある意味正解かもしれない。
最近、兄の部屋から喋り声がよく聞こえる。夏休みに入り私が夜更かしをするようになってから知ったが、ネットの人たちと一緒にゲームをやっているらしい。随分と楽しそうに喋っているのに安堵した、うるさいのがちょっと癪にさわるが元気に「
ある夜、頭痛が酷く薬を飲もうと思い起きた。深夜2時、兄も寝ているのかいつもより静かで不気味だと感じながら階段を降りる。軋む音を気にせずに降り、玄関に降りたところで両親の靴があり帰ってきているのを知った。両親の部屋は私の部屋の斜め前にあり扉が開いていたのできっとリビングに居るのだろうと、リビングに目を向ける。廊下とリビングの間はカーテンで仕切られており、そこから淡い光が漏れており野球の中継らしき声が聞こえる。何故電気を付けないのだろうと気になり少し覗いた。
その選択は明らかに間違っていた。
音を立てないようにゆっくり後ずさりをして階段が軋まないようにゆっくり上る。動悸が酷く、頭痛で目の前が揺らぎながら自分の部屋に入る。小学5年生になってから飼い始めた白猫の「こな」が丸めていた体を伸ばしてこちらを見ている、遠目から見て白い幽霊の様だ。そんなこなを私は力の籠った手のひらでうんと優しく撫でた。ゴロゴロと喉を鳴らすのを見て布団の中に入る。きっと夢であったと思うようにしよう、この頭痛も何かの夢だと。
あれから数日後、まともに親の顔を見ていない。親曰く今年と来年は私たちの高校受験だから家に居るらしい。それに兄はいい顔をしていないのが雰囲気的に感じ取れた。私も快く思ってはいなかったが荒波を立てないように広角を上げた。けれど、親がいても対して変わらなかった。強いて言うなら夜ご飯の担当が母親になっただけで、それ以外の家事は全て私。朝ご飯と昼ご飯は兄、そして休みの日は両親は朝からお酒を飲んでいた。私はそれが恐ろしくてずっと部屋に引き籠っていた。向き合う勇気も反抗する勇気も私にはなかった。そんな中金曜日、父親は夜勤で仕事に行った後泥酔した母親が帰ってきた。とても上機嫌な母親は笑顔で彼氏のことを話した。給料がいい、顔がいい、プレゼントを貰った、デートにいった…回らない呂律で恋バナをするJKのように話す。そして、「お前らが居なきゃ私は彼氏と居れるのに」とハッキリとした口調で言った。聞きたくなかった。
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