○○○られっ子だった私の住処は王宮です

第4話 美しき王妃との対面

お世話係として働き始めて数週間が経った。謙信は最初の戸惑いを乗り越え、千遥と千南からの厳しい指導にも慣れ、少しずつ業務をこなせるようになっていた。二人の態度は相変わらず冷たかったが、謙信はその状況にも順応し、平穏な日々を送っていた。

そんなある日、高輝様から謙信に声がかかった。「君に会わせたい人がいるんだ。」その言葉に謙信は少し驚いた。高輝様に会わせたい人とは、一体誰だろうか。胸の中に不安が募る。

「今日は王妃、美樹子（みきこ）に君を紹介するよ。」高輝様は優しく微笑んだが、その一言で謙信は一瞬、言葉を失った。王妃…つまり、高輝様の妻。謙信にとって、その存在はあまりにも遠く、そして畏怖の対象だった。

案内されるままに、謙信は美樹子様がいる部屋へと向かった。部屋に入ると、そこには美しい女性が待っていた。彼女の名は、美樹子（みきこ）。柔らかな微笑みと気品あふれる姿は、まさに王妃の風格を備えていた。

「初めまして、謙信さん。高輝からあなたのことを聞いていますよ。」美樹子様は穏やかな声で話しかけた。その笑顔はまるで春の日差しのように温かかった。

「は、はい…。お初にお目にかかります。奧野謙信と申します。」謙信は緊張しながらも、深く頭を下げた。

美樹子様は優雅に頷き、「この王宮での生活は大変でしょう。でも、あなたの努力は皆が見ていますよ。どうか、無理をしすぎないように。」と、まるで母親のように諭した。その言葉に、謙信は少し心が軽くなったように感じた。

しかし、どこかで違和感も覚えた。美樹子様の優しさは確かに感じられたが、その一方で、謙信は何かしらの警戒心を持ってしまっていた。自分でも理由は分からなかったが、その場の空気にわずかな緊張が走るのを感じたのだ。

謙信はその後も礼儀正しく受け答えを続けたが、心の奥底ではどうしても距離感を覚えてしまっていた。美樹子様の温かい言葉に感謝しつつも、完全には心を開けない自分に、少し自己嫌悪を感じた。

「これからも、高輝のことをよろしくお願いしますね。」美樹子様は最後にそう告げて、謙信を見送った。

部屋を出た後、謙信は少し考え込んだ。美樹子様は確かに優しかった。しかし、なぜか心に残る微妙な違和感。それが何なのかは分からなかったが、謙信は自分の感じたものを無視することができなかった。

「私が感じたものは…ただの思い違いなのかもしれない。」そう自分に言い聞かせ、謙信は再び日常の業務へと戻っていった。

この対面が、謙信の心にどのような影響を与えるのか。まだ誰も知らないが、彼女の王宮での生活は、これからさらに複雑なものへと変わっていく予感がしていた。