幕間

 彼女の目の前には選択肢があった。

 『育ててくれた村』か、

 『愛した男』か。


   □□□


 隣で寝息を立てる彼を起こさないよう、彼女は静かにベッドから抜け出した。

 両腕で身体を抱くと、大きく身震いをする。

 暖炉の火はほとんど消えており、灰の間からかすかに覗く色は、炉で熱した鋼を思わせた。


 彼女は床に散らばった服から細長い箱を取り上げた。数刻前、彼から手渡された物だ。

 その箱を耳元で小さく揺らすと、中でカランと音が鳴る。


 彼女は中身に思いを巡らせるように目を閉じて、長く、白い息を吐いた。

 箱を胸に、ベッドに一歩近づく。

 差し込む月明かりが、無防備に眠る彼の姿を照らしている。

 片目に巻いた布は、彼が鍛冶師である証。

 彼女はベッドに片膝を乗せると、彼の顔に手を伸ばした。

 白く長い指が、彼の片目を隠す布から、頬へと流れていく。

 彼女の指はそのまま首を通り、鎖骨を撫で、規則正しく上下する胸へと向かう。

 そこで、彼女は手のひらを彼の胸へとあてた。


 彼の鼓動を確かめるように。

 彼の心のありかを確かめるように。

 彼がそこに存在するのを確かめるように。

 彼の命が、まだそこにあるのを確かめるように。


 そして、彼女は決意したように口を結ぶと、彼の胸から手を放し、ずっと胸に抱えていた鉄飾りの箱最期の贈り物に手を伸ばした。


   □□□ 

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