幕間
彼女の目の前には選択肢があった。
『育ててくれた村』か、
『愛した男』か。
□□□
隣で寝息を立てる彼を起こさないよう、彼女は静かにベッドから抜け出した。
両腕で身体を抱くと、大きく身震いをする。
暖炉の火はほとんど消えており、灰の間からかすかに覗く色は、炉で熱した鋼を思わせた。
彼女は床に散らばった服から細長い箱を取り上げた。数刻前、彼から手渡された物だ。
その箱を耳元で小さく揺らすと、中でカランと音が鳴る。
彼女は中身に思いを巡らせるように目を閉じて、長く、白い息を吐いた。
箱を胸に、ベッドに一歩近づく。
差し込む月明かりが、無防備に眠る彼の姿を照らしている。
片目に巻いた布は、彼が鍛冶師である証。
彼女はベッドに片膝を乗せると、彼の顔に手を伸ばした。
白く長い指が、彼の片目を隠す布から、頬へと流れていく。
彼女の指はそのまま首を通り、鎖骨を撫で、規則正しく上下する胸へと向かう。
そこで、彼女は手のひらを彼の胸へとあてた。
彼の鼓動を確かめるように。
彼の心のありかを確かめるように。
彼がそこに存在するのを確かめるように。
彼の命が、まだそこにあるのを確かめるように。
そして、彼女は決意したように口を結ぶと、彼の胸から手を放し、ずっと胸に抱えていた
□□□
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます