新たな出会いとともに

 帝都剣魔学院──────

 数々の英雄あるいはエリートを輩出してきた、帝国最大の人材育成機関である。

 帝都の中心に聳え立つ皇帝の城に隣接するように建てられた巨大な校舎は、毎年入学してくる約千人もの生徒たちを余裕を持って受け入れることができるらしい。

 唯一の特徴は、序列制度があることだろう。

 生徒の成績、活躍度を参照してつけられる順位は、自分が今どのレベルにいるのかを一目で把握でき、上を目指そうとする生徒たちの活動をより活発にすることができる。

 順位が低いから虐げられる──────ということはなく、そもそもここに入学するためには相当な実力がないといけないため、皆優秀かつ優等生である。なので、低ければ余計に上を目指したがり、周りはそれを応援するという環境になっている。


 送られてきた学院の紹介書の言葉を思い出しつつ、私は馬車に揺られながら外を眺める。

 遠くに聳え立つ城に近づくにつれ、人が多くなり、街は賑わい始めた。

 帝都の中心地となれば人も店も多いは当然だが、ここらには初めて来たため、まるで別世界のように感じられた。


「お嬢ちゃん。ちょっと混雑してるから進めなさそうだ。悪いが、あとは歩いてくれねぇか? そっちの方が早く着きそうだ」


 確かに、馬車が通れそうな隙間は無い。

 学院へはそこまで遠くない。おじいさんの言う通り、歩いていこう。


「そうさせていただきます。ここまでありがとうございました」


「おうよ」


 銀貨を払ってから降り、去っていく馬車を手を振りながら見送った。

 懐中時計で時間を確認する。


「普通に歩いても問題無さそうですね」


 そうして徒歩で学院を目指し始めた。

 道中、迷子の子供を助けたり、野良猫と遊んだりもした。

 まだまだ歩いていると、途中で周りの人の進行方向が全て同じことに気付く。

 彼らは整った身なりをしており、男性と一部の女性は剣を携えていた。

 その顔は自信に満ち溢れており、不安など一切ないように思える。


 私も絶対に入るんだ。不安なんて──────


 不安。十年も努力をし続けていたせいか、長らくそんなものは感じていなかった。

 心臓の鼓動がいつもより胸に響く。

 なんでだろう。涙が出そうになる。

 一瞬、頭がくらっとした。まずい、倒れる。


「君、大丈夫か?」


 気が付けば目の前に男がいた。

 黄金の髪が眩しく、鋭くも温かみのある真紅の瞳。

 印象的なのは、片耳に小さな剣の形をしたピアスをつけていることだろう。

 けど、そんなことは二の次で、一番気になったのは私がお姫様抱っこされていることだ。


「...ぇ......え?」


「危うく地面に顔面をぶつけるところだったぞ。気を付けろ」


「............ぁ......はい。ありがとうございます.........」


「元気が無いな。緊張でもしているのか?」


 生真面目な表情で問うてきた。


「その前に、降ろしていただけますか?」


「あぁすまない」


 男は即座に、しかし丁寧に私を地面に降ろした。

 彼は懐中時計を確認すると、焦ったような仕草をする。


「時間が無い。また会えることを願おう」


 そう言うと、学院の方向へ走り去っていった。


「なんだったんでしょうか──────?」


 助けてくれたのは有難かったが、よく分からない男だった。

 気を取り直して、再び歩き始める。

 そして──────


「お、大きい......」


 そこには二十メートルはあろうかという巨大な門があった。

 まだ開いていない。

 その間に、深呼吸で心を整えることにした。


「そろそろ開門の時刻ですが、先立ちまして試験の内容を説明致します」


 試験官が門の前に現れた。さっきまでこの場に居なかったので、転移の魔法を使ったのだろう。


「試験は大きく分けて五つ」


 試験官は一から順に指を折っていく。


「その一、身体検査。こちらは身体能力や五感、器の大きさを測定します。その二、魔力測定。単純に魔力量を測らせていただきます。その三、存在値の測定。これは追って説明させていただきます。その四、基礎学力検査。どの程度の知識があるかを調べる筆記試験ですね。そして最後は実技試験。ランダムに選ばれた五名一ブロックで、総当りの一体一の模擬戦を行ってもらいます。実技試験は二日に分けて行います。分からないことがあれば、私かお近くの試験官にお尋ね下さい」


 試験官は皆を鼓舞するように拳を握った。


「それでは、頑張って下さい!」


 試験官の激励で緊張が和らいだのは、どうやら私だけではないようだ。

 試験官が門に魔力を送ると開き始めた。

 瞬間、約千人もの人が我先にと門を通ろうとする。

 その中には先程の金髪の男もいた。

 怒涛の如き人の流れに押されて身動きが取れないでいると、数分後、いつの間にか人の波が消えていた。


「............」


 一人呆気に取られていると、同じく取り残された女性が話しかけてきた。


「千人もの受験者が居れば、それだけ時間が長くなる。いち早く終わらせて帰るために、皆急いでるのでしょうね。それにしても、危うく押し潰されるとこだったわね。大丈夫?」


「はい......大丈夫でした」


 漆黒の瞳が美しく、クールな印象の女性だ。ただ、瞳と同じく黒のポニーテールが可愛らしさを感じさせる。


「一緒に行きましょ? 一人じゃつまらないもの」


「そうですね。私はフェリシアと申します。あなたは?」


 そう言いながら、右手を差し出し握手を求める。

 彼女はそれに応じようと私の親指側を握り、ガッツポーズに近い形の握手をされた。


 思ってたのと違う......


「可愛い名前ね。あたしはストレリチア。好きなように呼んで」

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落第勇者 ベール/Veil @Veil1212

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