Ep.25 有栖川継路の今昔(1)
「継路が目立つ?へー、意外。何したの?」
「盗んだバイクで走り出したとか?」
やるわけないだろこの2馬鹿が。僕のことをなんだと思ってるんだ。
「そんなこと有栖川くんはしてないよ……え、今はしてるの?」
「絶対ない」
これだけは僕の名誉のためにも否定しないと。事実でないことを言いふらされるのは名誉毀損だからな。
「有栖川くんって、今も学級委員やってるの?……もしかして、生徒会長?」
「継路が生徒会長かぁ……うちの学校終わったな」
地味に失礼な事を言う。……まあ、僕自身ロクな学校になるとは思えないが。
「有栖川くんは学級委員上手かったよね。みんなの意見上手にまとめてさ」
「あれはクラスメートたちの協力あってだよ。僕のおかげじゃない」
「また謙遜する……」
そんな顔をするな守野。僕は本当に大した人間じゃないんだ。伊万里といい、守野といい、なんなんだ。
「今の僕を見ろ」
……声に出てたか。まあいい、続けよう。
「僕はこういう人間なんだ。小学校のときだって、本当は誰のことも友達だと思ってなかった。言われるままに振る舞ってたら勝手に人が寄ってきて、期待されて、その期待に応えるためにまた取り繕って。そうしたら更なる期待をかけてくる。僕はそんな悪循環に囚われてただけなんだ」
本当に、愚かしい。
あのときの僕は、有栖川継路は、馬鹿だ。救えない。救いようがない。
「今の僕はそこから解放されて自由になった。だから謙遜なんかじゃない。これが本当の僕だから」
伊万里にもそう言えたら良かったな。伊万里は……僕の本当の姿を見てもなお、信じないかもしれないが。
「……そんな」
守野は落胆したように呟いた。
「私たちは有栖川くんに無理を……させていた?」
「僕は、無理をしていた」
「……ごめん」
「謝られるようなことじゃない。そうすると決めたのは僕だ。守野が責任を感じることではないから」
「そっか」
守野は笑って、言った。
「私は今の有栖川くんもいいと思うよ」
「美知……」
「ありのままで、とてもいい」
嘘だ、そんなこと思ってないくせに。
昔の僕が良かっただろうに。
守野が好いていた僕と今の僕は正反対だから。
「へー……」
黒江が突然口を開いた。
「継路の昔がどんなだったかは知らんけど、俺は今の継路が大好きだ。親友だよ」
「なんだいきなり」
「私も。今のちょっとひねた継路くんが好き」
「ひねたは余計では?」
僕はそこまで言われるほどではないぞ。むしろ正直者だと思うんだが。
「……ふふっ」
「美知?」
「有栖川くん、楽しそうだね」
「……まあ」
あのときよりは楽しいと思う。それもまあ、この2人がいるからかもしれない。
「良かった、幸せみたいで」
守野は立ち上がって言った。
「私帰るね。用事できちゃったから」
「え、マジ?」
「それじゃ、また」
守野は鞄を持つと、そそくさとお金を置いて帰ってしまった。
「美知、これちょっと多いんだけど」
黒江が追おうとするが、守野があっという間に姿をくらませたため諦めてしまった。
「……私、なんとなく分かった」
「何が?」
「継路くんは知らなくていいこと」
嶺羽に何が分かったというのだろう。あの話から僕の過去を推測できるほど推理力があるならもう少し数学の問題が解けていいと思うが。
「……俺、気になるんだけどさ」
「黒江くん?」
「美知に継路の話したとき、何も言ってなかったなって。名前も出したのに」
つまり……僕のことを知らないふりしてたってことか。僕と同姓同名の別人なんてそういないだろうからな。
「でも継路たちに会いたいって言ったのは美知だし……」
「黒江くんって案外鈍いとこあるのね」
「……え?」
黒江に嶺羽が耳打ちする。一体何の話をしてるんだ。
「ああ!」
勝手に2人で納得しないでほしいんだが。
「なんだよ?」
「継路には関係ない」
「は?」
「世の中知らないほうがいいこともあるんだよ」
「知ってる」
……これ以上聞いても多分喋らないな。諦めよう。
「にしても、美知帰ったな……」
「私たちも場所変える?」
「次ボウリング行こうぜ!」
僕達はカフェの代金を払い、店を出た。
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不束者ですが。 茨 如恵留 @noel_0625
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