Ep.24 天才と呼ばれし小学生
伊万里や守野の学年には、とても目立つ奴がいた。というか、学年全体どころか全校生徒みんなが知っていたと思う。彼は天才と呼ばれ、やけに持て囃されていた。
彼は人に勉強を教えられるほどの頭の良さを持ち、体育でも毎回注目を浴びるほどの能力があった。様々なコンクールに出ては何かしらの賞を取ってきて、その上全くその功績を鼻にかけなかった。
彼の兄弟も文武両道で目立つと言われていたが、それに負けないくらい彼も一年生のときから周囲に注目されたのだ。
彼の周りにはいつも人が居た。守野も彼を囲んでいた人間の一人で、よく一緒に居た。
彼の行動は今の僕と全く違っていた。授業中には毎回挙手し、どんな問題でもハキハキと答え、学級委員に立候補し、人と交流を積極的に行い、教師や保護者にも丁寧に挨拶していた。
僕と同じ学年の親たちは口を揃えて言ったという。
「あの子とは絶対仲良くしなさい」
というのも、彼は習い事でも全国大会に出るほどの実力者で、将来を非常に期待された存在だったからだ。彼の保護者には大量の菓子折りが届いたらしい。
今では媚び過ぎだとも思うが、僕が親でも子供に同じことを言うと思う。
彼は彼を囲むクラスメートの話に逐一合わせていた。ゲームが好きだと言った守野の話に付き合っていたこともあるし、どんなに興味がなくてもクラスメートが話す内容は持ち前の記憶力で全て覚えていた。
そんな彼が僕は憎い。守野が思い出話をするとしたら、絶対に彼の話を出すだろう。
みんなが好きだった彼。そんなアイツが僕は一番嫌いだ。あんな奴の何がいい?あんな貼り付けたような笑顔で話す男の、どこに好感を持てる?
今思い出しても吐き気がする。伊万里も確か、彼に執着していたな。僕にとっては笑いにもならないが。
アイツのせいで小学校のアルバムすら僕は開けないんだぞ。
「あのときは凄かったな。だってピアノで全国だよ。校長先生が朝礼で表彰したじゃない」
「あったねそんなことも」
僕は思い出したくもない記憶を引きずり出され、イライラが止まらなかった。
「懐かしい……今、どうしてるの?」
守野が言った。僕はぶっきらぼうに答えた。
「知らない」
「……知らないって、そんなことないでしょ?」
「僕は何も知らない」
「継路、どうしたんだ?」
「あんな奴、僕は嫌だ」
「……今、誰の話してるんだよ?」
僕は答えた。
「僕の知らない男だよ」
「何言ってるの有栖川くん」
守野が心配そうに言った。それ以上は頼むから続けないでくれ。守野。
「私達の学校で、有栖川くんより目立つ子なんていなかったでしょ?」
ああ、これ以上見ないふりをするのは無理らしい。隠すのは、もう不可能だ。
僕が世界一憎くて嫌いで、顔も見たくない男。
その名は有栖川継路。
つまり、僕だ。
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