守野美知と輝く少年

Ep.23 元七股男のゲーム友達

「継路、今レベルいくつ?」

「僕は81」

「結構やってんじゃん。いかついな」

「そういう黒江くんは?」

「俺は54」

「なんだ、すぐに追いつけそうでよかった」


 僕たちは今、喫茶店にてゲーム談義をしている。

 この前僕と黒江が同じスマホゲームをやっていることが判明したのだが、それに触発された嶺羽まで始め、僕たちのグループLINEも最近はゲームの話で持ち切りである。


 そして、今は黒江の元カノでゲーム友達らしい女も交えてゲームをしよう、という話になっている。


「本当に今はその子、ただの友達なの?」

「そうだよ。信じてくれよ……」

「いや、どうか分からないな。いちゃいちゃしたら僕は帰る」

「私のこと置いて行かないでくれる?」


 黒江は生粋の女好きである。嶺羽のことだってどう思ってるか分からない。

 大体、今も交流を持っている相手な時点で未練があると考えるのが自然だろう。


「……まあ、今どうこう言っても仕方ない。もうすぐ来るんだよな?」

「そうそう。今駅についたって」


 ということは5分程度で来るな。もう一戦くらいしておくか。




「ふう……」


 久しぶりに真剣戦闘をした僕は、ため息をついた。


「おーい、こっちこっち」


 黒江が言う。彼女がどうやら来たようだ。

 ……今は元カノなんだっけか?


「ごめん、待たせちゃって」

「いやいや。全然待ってないから」


 聞き覚えがある声。でも、クラスの連中じゃない。


 顔を上げて、その女の顔を確認した。


「……有栖川くん?」


 黒髪のポニーテール。はっきりとした目に高い鼻。

 あまりに変わらないその姿に、僕はすぐに彼女が何者か分かった。


「守野……」


 小学校が同じ、守野美知みちるだ。


「え、知り合い?」

「有栖川くんは同じ小学校なんだ。黒江が有栖川くんと知り合いなんて、びっくりした。だって有栖川くんは……ね」


 僕と同じ小学校。つまり、伊万里と同じく僕の過去を知る人物の一人であった。

 ただ守野は、私立の中学に進学したため伊万里よりはマシだが。


「継路って昔からこうなの?」

「うーん……落ち着いた子ではあったと思う。でも、雰囲気変わったよね」

「……そんなことはない」

「そうかなあ」


 何が言いたい、守野。

 僕は昔からこんな性格だったし、何かを大きく変えた記憶はない。


「まあ、ゲームしようよ」


 守野のレベルは98らしい。僕よりも数段格上のプレイヤーということもあって、戦っても手も足も出なかった。

 昔からゲームが好きなのは知っていたが、ここまでとは。


「みっちゃん強え……」

「黒江がやらなすぎなだけ。有栖川くんのほうが強いってどういうこと?」


 リリース当初にウザいくらい広告が出てたので始めたこのゲームで結構な実力者になってたらしいというのは、イマイチ腑に落ちない。


「有栖川くん昔ゲームそんなに好きじゃなかったよね?」

「……そうだっけ」

「好きになってくれて私は嬉しい」


 ……いや、別に好きなわけじゃないんだけど。でもそこそこ、このゲームは続いていると思っている。


「嶺羽はどう?」

「私はまだ……」

「でもいい装備持ってるし、このクエストなら挑戦できるんじゃない?」

「やってみる」


 僕たちは守野のアドバイス通り装備の編成を見直したり、クエストに挑んだ。


 嶺羽と守野が頼んだパフェが届き、僕たちはコーヒーを飲みながら話していた。


「有栖川くんとこうやって、ゲームの話をする日がくるなんてね」

「僕も想像してなかったよ」


 守野とはいつも当たり障りない会話しかしてこなかった。そもそも、僕のことなんて、よく覚えていたものだ。


「守野はなんで僕だって一目で分かったんだ?」


 守野は笑った。その姿は、昔と同じだった。


「分かるよ」

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