〜終章-完〜『ユエ』
振り下ろされた剣をかわす。
すかさず繰り出される足払いを跳躍して回避。
今度は自分から踏み込み、顔面を狙い一撃。
しかし、流石に魔王を名乗るだけはあり、すんででかわされる。
だが、拳圧でライナーの顔に紅い線が迸る。
「っ、貴様……どんなドーピングを…」
「誰が教えるかよ、さっさとユエを解放しろ!」
ライナーの持ってる剣を壊せないかは試した。
しかし、素材が特殊なのか手では壊せ無い。
愁円はライナーの振るう剣をかわしながら、ライナーの懐に潜り込む隙をひたすらうかがう。
だが、やはりそう簡単に隙を見せる相手では無いらしく、時間が刻々と過ぎて行く。
(くそっ、時間が……!)
愁円が内心で舌打ちした時。
聞き慣れた三人の声が聞こえた。
「愁円魔王!ユエさんが!」
「ユエさんの花が大変なんですぅ!」
「このままだと萎れてしまう!」
「!?」
―――――
ナハト達の声に反応したのは、愁円だけでは無かった。
ライナーもまた、目を見開きナハト達を見ている。
先に気を取り直した愁円が、今が唯一のチャンスだとばかりにライナーの鳩尾に強烈な一撃を見舞った。
その拳はライナーの鳩尾に吸い込まれ、中を砕き抜いて反対側に。
愁円がライナーの鳩尾に風穴を開けたのだ。
声もなく床に倒れ伏すライナーを尻目に愁円は急いでナハト達の方に向かって走る。
成る程、ケースの中の白い花は、着々と萎れていっているように見えた。
「鍵をライナーが持ってる可能性が」
「手伝ってくれ!」
『承知!』
一旦ケースを床に置き、倒れたままのライナーの服を剥いでは鍵を探す。
だが、鍵は中々見つからない。
「くそ、時間が…っ」
「あっ!」
「?」
突然ナハトが発した声に他の皆の視線が集まる。
ナハトはライナーが首にかけているネックレスを手にして何かを千切り取った。
「これ、鍵なんじゃね?」
確かに、見た目は鍵に見えなくも無い。
愁円は藁に縋る思いでそれをケースの鍵穴にさしこむ。
――カチリ――
小さな音がして、ケースが開く。
花を手にして、愁円が呼びかける。
「ユエ、ユエ!」
しかし、花は花のまま、少しづつ萎れていくばかりで。
―――――
「ユエ……ごめんなぁ…護れなくて…ごめん、ごめんなぁ…」
謝りながら涙を流す愁円の背中を、ナハト達は何も言えずに眺めるしか無く。
そんな中で――
――ぽた…――
愁円の流す涙が一滴、白い花の萎れた花弁に落ちた。
すると――――
――美しい銀髪
――色白で瑞々しい肌
――薄っすら開いていく、澄み渡るグレーの綺麗な瞳
「愁円、さん…?」
「…ユエ?」
愁円の涙が一滴花弁に落ちた瞬間、辺りは眩い光りに包まれ、それが収まると、花があった場所には花ではなく、美しい姿のままのユエが居た。
ユエはまだ少しぽやんとしながら愁円を見つめる。
愁円は思わずぎゅっとユエを抱き締める。
「いたっ、ちょ、愁円さん、痛いです…っ!」
「っ済まん!つい…」
慌てて愁円がユエを離すと、彼女は少し落ち着きを取り戻してから愁円達に視線を向ける。
「…助けてくださったんですね…本当にありがとうございます」
「当たり前だ、約束したんだから」
嬉しそうに笑う愁円に、不意にユエが抱きつく形で身を任せた。
「なっ、ユエ…っ?」
「…ありがとう…ありがとう愁円さん」
甘えるように繰り返すユエに、愁円は真っ赤になってアタフタし始める。
それを眺めるナハト達はどうしたものかわからない、という風に互いに視線を交わしてから、小さく溜息を吐いて肩を竦めた。
―――――
あれから、幾年過ぎたか。
今日は朝から愁円の為に、美しい妻と可愛い子供達が頑張っている。
愁円は今日だけは仕事すらもさせて貰えず、ひたすら子供達が呼びに来るのを待っている。
すると、息子の愁夜(しゅうや)がテクテク歩いて来て、愁円の腕をちょいちょいと引っ張って来る。
「どうした、愁夜」
「時間だよ、父さん。母さん達ももう皆待ってるよ」
「そうか、わかった、直ぐに行くよ」
愁夜に引っ張っていかれるままに愁円が食卓に現れると、ワァッと歓声が上がる。
『誕生日、おめでとう!』
一斉に子供達が笑いながら祝ってくれる。
そんな様子を嬉しそうに眺めていると、ちょんちょんと肩を指で突かれた。
そちらを見れば、美しい妻がニコニコ微笑みながら愁円の頰に軽く口付けて言う。
「誕生日おめでとうございます、愁円」
「ああ、今年も祝ってくれてありがとうな、ユエ」
―――END
戦場に咲く一輪の花 闇無 @kuranashi2009
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