第7話 あの日のことを語りましょう

 ここ、私たちの村は古代遺跡を利用して作られています。

 平和で美しい村でしょう。穏やかな陽光に、草原の匂いをぎゅっと固めたような風。私たち獣人は、ひっそりと穏やかに暮らしていました。

 そう、あの日が来るまでは。


 あなたたち人間が、山賊がやってきたのです。


 あなたたちはいつも卑劣です。

 力では敵わないからと道具に頼る。素手で抵抗する私たちに、未知の鉄の塊で暴力を振るうことを卑劣以外のなんというのでしょうか。

 あなたも卑劣です。非力で力なんてないと思わせて、私のことをベッドから落としたのですから。


 いえ、今はあの日の話でしたね。


 あの日、いつものように川でお洗濯をしていました。ええ、私のお仕事はお洗濯をすることなので。この辺りの皆の洗濯物を一手に引き受けているんです。私たち獣人の嗅覚は敏感なので、綺麗に洗うことはとっても大切なことなんですよ。

 双子の妹のシュリも同じ仕事をしていて、私たちは洗濯姉妹と呼ばれるほど仲が良かったんです。

 え? 私の名前? ……アンリです。


 そんなことはどうでもいいんです。


 私たちがいつものように川でお洗濯をしていると、突然、黒い影が現れたのです。それが山賊たちです。

 山賊たちは皆一様に奇妙な革ひもを体に巻き付け、鉄の塊をそれに吊るしていました。

 鉄の塊を彼らは「銃」と呼んでいました。

 そして銃を私たちに突き付けると言ったのです。


「この村から出ていけ。さもなくば皆殺しだ」

 と。


 私とシュリは手を取って震え上がりました。だって銃からは火薬のにおいがしていたんですもの。

 

「どうして村から出ていかなきゃいけないんですか……?」


 シュリは怯えながらもそう問いかけました。私がシュリを黙らせようとしてももう遅かったです。

 あっという間に、シュリは彼らの手元に引き寄せられてしまいました。そして銃をぐりぐりとこめかみに押し付けられていたのです。

 シュリの顔は恐怖に歪んでいました。


「この遺跡は、俺たちの神様がいるところだ。だから、お前らはここにいちゃいけないんだよ」

「でも……」

「これ以上何か言うと、こいつを撃つぞ」

「っ……」


 そう言われると、私はもう何も言えませんでした。

 そして私たち村人には二つの選択肢が与えられました。村を捨ててシュリを取り戻すか、シュリを見捨てて村に住み続けるか……。

 シュリの恐怖に震えた顔が今でも、脳裏からは離れません。


 今、長老は決断を下そうとしています。

 おそらくシュリは見捨てられるでしょう。この村は、それくらい私たちにとっても重要なものなのです。


 でも、山賊のあなたを交渉の材料にできれば、シュリを助けられるかもしれない……!


 だから私はあなたが山賊じゃないと困るのです。

 交渉材料がなければ、シュリを助けられないのです……。


 

 

 

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高校生探偵シン、異世界に転移する ならで @narade-22

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