15. エピローグ:孤独の終わり

 その日は、朝から雨が降っていた。ジェイクとメゾフォルテが出会ったときと同じ、大粒の雨だ。

「随分と長く降るな」

 ジェイクの私室。落ち着かなげにペンを回すトキシカズラがそう言うと、ジェイクは窓の外に目をやっていた自身の目線を室内へと戻す。

「なんでも明日までは降りっぱなしだそうだ。上層での事故って噂だけど」

「それは……笑えんな。どんな雨か分かったもんじゃない」

 会話が途切れる。またトキシカズラはきょろきょろと辺りを見回し、ペンを回し始めた。

「……ちょっと落ち着こうって」

「なに? じゃあリブレイン、お前は落ち着けるのか?」

「いや、そういうわけじゃないけども……」

 トキシカズラが落ち着かない理由は、今日が特別な日だからだ。ただし、成功すれば。

「なあ、ちょっと時間がかかりすぎじゃないか……? 様子を見に行った方が……」

「心配し過ぎだって、ちょっと待てよ」

「いや、だが──」

 がちゃり。音を立てて作業室の扉が開いたかと思うと、そこからメゾフォルテが姿を現した。

 出会ったときと変わらない赤い六つのカメラアイ、中途で三叉に分かれた尻尾──そして、爪がない足と手。

「やった……」

 トキシカズラが呟くなか、メゾフォルテとジェイクは向き合った。

「どう? あんまり おちつかない」

「似合ってるよ、うん」

 だいぶ無理をした。各種方面を駆けずり回り、様々な人に頭を下げ、ようやくここまで──メゾフォルテの単分子ブレードを取り外すところまで漕ぎつけたのだ。

「お嬢さん、手足の動作に違和感は?」

 最大の懸念は、やはり駆体。爪ありきで設計された彼女の駆体はディスタントに勝利した今でもブラックボックスな部分が多い。矯正局のディスタントもどうせ喋ろうとはしないだろうし、そもそも憶えていないのかもしれない。

「おもさも……かわらない うん だいじょうぶそう」

 軽く腕を何度か振り、メゾフォルテはそう答えた。


「さて、それじゃあ俺はもう行くよ」

「もう行くのか? トキシカズラ」

「ああ、もう十分見たいものは見れた。それにお嬢さんがさっきから怖い目でこっちを見るんだ。〝はやく二人きりにならせろー〟って」

 メゾフォルテのカメラアイが、不満を訴えるかのように軽く点滅する。

「そんなこと いっていない」

「思ってはいるみたいだ」

 それだけ言うと、トキシカズラは早々と部屋を出て行った。ジェイクと、言い逃げされたことが不満なメゾフォルテだけを部屋に残し、雨音は強くなる。

「さて……と」

「じぇ、じぇいく!」

 メゾフォルテが両手を広げた。ジェイクはちょっと苦笑すると自身の両手を広げ、言う。

「おいで、メゾフォルテ」

 メゾフォルテは、コンマ一秒でジェイクに飛びついた。

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The ALLpunk: シェイク・リブレイン 五芒星 @Gobousei_pentagram

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