第四話 決別 ①

そこはとても広い食堂

500...いやもっとか、1000人くらいがそれぞれ楽しく食事をしていた


「ん? おお!団長がきたぞ」

「ほんとだ、おーいガチムチさーん! こっちこっち!」

気づいた隊員達がそう呼びかける

「ガチムチ??」

「...一応俺のコードネームだ 」

どんな名前だよ

「笑ってもいいぞ 慣れている」

「....はい.....コードネーム、ですか」

「ここでは上層部に決められたコードネームで呼び合っている 本名はお互い知らない」

ガチムチ団長について行く。隊員達の近くを通るたび、物珍しいというか、誰だこいつみたいな目線が送られる。

「誰っスカ? その人」ドレッドヘアの男が尋ねる。

四人で食事をしているようだ


「新たに発見された16歳のHEIKIだ」

「...HEIKI?ああ例の! 君が新しい仲間か!」隣にいた別の男が立ち上がり、

「僕はベーネ、よろしく!」

グッと手を握り腕をブンブン振り続ける

「あはは、ええ、っと まだ入ると決めたわけ...」

「こりゃあ大型新人ですよ先輩! マシロさんより強いかも!!」

「んなわけねーだろ。俺は副団長だぞ」

ドレッドヘアの男はマシロというらしい。皆ガチムチほど酷い訳ではないのか、寧ろカッコいい

「待て待て、この少年はまだ隊員になると決めたわけではないぞ」団長が代わりに言ってくれた

「えーーーなんで?! 君みたいのがいたら相当心強いのに...」

「あくまで選択はこの子の自由だ。大人が強要してはならない」


「え、でも上層部は無理矢理でも入れるって言ってなかったけ?」

さっき団長を呼んでた人だ。若そうな金髪の女性

「ダメなのよ、スコーピーとは違ってまだ16歳なんだから」

また別の人はしっかりした感じで注意する

「私だって入ったの二年前で、今24ですよ? そこまで変わらないですよ〜」

「変わるものよ」そう言いながらグビッと飲み干す

「ベーネ君に後輩ができるって考えたらなんか変な感じー」

「僕だって立派な戦士ですよー!」

「その割にはNo.9の時は戦いに行かなかったらしいな」

「そりゃあ 、相手が相手ですから...怖いものは怖いんです!」

「バーカ、恐怖に立ち向かうのが戦士ってもんだ」

「ぐぬぬ...これでも僕は試験を三位で通ったんですよ...」

「え?そうなの?」

「らしいわね」 

「やるじゃねえか。 まっ俺は一位通過だけどな!ガハハハ!!!」

意外と愉快な人達だ


「まあ、なんだ... 血も涙もない集団とかではないってことを言いたかったんだが...」

「みたいですね..ちょっと安心できました」

「そうか」


「さっそろそろ訓練に行くぞ」

「え、もうそんな時間か」

隣の卓からそう聞こえた 何やらこれから訓練があるらしい

「はぁ、それにしても残念だなあ 入ってくれたら僕たちみんな大歓迎なんだけどなぁ」

「、はい.... その時はよろしくお願いします。

  あのー団長、彼女はどこにいるんでしょうか」

「そうだったな。スコーピー、例の宇宙人は?」

「ああ、マキちゃんなら3番目の個室で奈落先輩といるよ」

10mぐらい先に目をやると、個室がいくつか並んでいる

「あそこか。では行くとしよう」

「はい。失礼しました。」


「もし良ければまた会いに来てねー!」

「ありがとうございます」

確かにみんな良い人そうだ


「ベーネのやつ、さっきの話ほんとか?三位だって」「はい、しかもあいつ筆記は二位でしたよ」 

「ああ見えてマシロはお前のこと信頼してるんだぜ」「本当ですか?! 」「ああ。あいつは昔からツンデレで有名だ」 「今日の練習メニュー何かなー」「いつも通り鬼畜だろ」「そうだよなー」「ネオ先輩綺麗だけど訓練は鬼なんだよな」「彼氏にもそんな感じなのかな」「ばーか そんなこと言ったら殺されるぞ あの人アラサーでパートナーい...「オーラ喋ってねえで早く移動しろーお前ら」

『はーい』

時間が迫っているのか、皆慌ただしく食堂を出てゆく 

だがまだここに残る人達もいるみたいだ

「あの人達全員戦うんですか?」


「ああ、だがこの軍は戦闘員だけじゃないぞ 主に三つの団に分かれている。

一つ目は武烈団  反チキュウ組合に武力で対抗するために編成された。俺が団長をしている。さっきの奴らもスコーピー以外は武烈団員だ。

二つ目は後方支援団  主に負傷した兵士や一般市民などを救助する。

三つ目は廻見団  武器の開発やHEIKIの研究を行っている。それ以外にも反チキュウ組合の調査を秘密裏に行っている者達だ

残りの人々は雑務か上層部だな」

「なるほど、みんなで戦ってるんですね」

「そうだ。でないと勝てない」

 勝てない....か

説明を受けている間に個室の前についた。


宇宙人か....冷静に考えてやばいよな....どんな顔だったけ なんかドキドキしてきた 話したいことってなんだろ

まあ俺も聞きたいこといっぱいあるし...

それとほぼ同時にドアが勝手に開く

「.....あっ 団長!それに、学生HEIKIじゃん!」

「おう」


「あ...」

待て待て心の準備が!

 すると彼女は俺に気づいた

その途端立ち上がり、頭を深く下げ始めた

「ご、ごめんなさい! 私が...!私がいけないんです!」

「.......」

そうだ。あの時も必死に謝ってた。俺に言いたかったのは謝罪の言葉だったのか。

「あ、、ああええっととりあえず頭を上げてください」

 自分を責め続けているのだろう。彼女の態度から嫌というほどその感情が伝わってくる。声にも元気がない。

当たり前か....不慮の事故とはいえ一人の人生を変えてしまったんだ。

「...いやいや....その全然良いですよ

なんて言うかほら...この体結構便利だし、なんの変哲もない俺に取り柄ができたって感じで気に入ってます」

半分本当で半分嘘

「君のことが気がかりで夜も眠れんかったみたいよ。食事もまともにしてないし...」

そうだったのか....そこまで一人で抱えなくて良いんだが...


「気にしないでください あなたは俺を生き返らせてくれたんですから」

彼女は顔をゆっくりと上げ俯いた。顔をひどくやつれていた。

「でもあなたの命を奪ってしまったのは.....他でもない、私です。」

「....まあそれはそうですけど、本当に大丈夫なんで!」

「誰でも間違える事はあるよマキちゃん。それに乗ってきた宇宙船の故障なんでしょ?」

「過ちを認められるのは素晴らしいことだ。」

(実際彼女がしたことは、簡単に忘れ去られることではない。一般人を巻き込むなど、あってはならないのだ。だが過去は変えられない)

「そうですかね....」

「俺の力で人を救えるかもしれないって考えたら、それも悪くないですよ」

「本人がこう言ってることだし、良いんじゃない?充分反省してるし、そこまで追い込みすぎたらもっと辛くなっちゃうよ?」

精一杯助言する

だがまだ暗いまま。

「...あの、少しの間、二人にしていただけますか?」

ここでは言いにくいこともあるんじゃないかと思った。

「ああ、構わない。お互い積もる事があるだろう。俺は訓練指導に行ってくるぞ」

団長は俺の提案に乗ってくれた

「じゃあ私も。仲良くしてあげてね、バイバ〜い」

後を追うように一緒にいた女性も去る

--バタっ と引き戸を閉める


「....あの、本当に、本当に俺は気にしてないです。もちろん最初は受け入れられなかったけど、正直HEIKIになれて良かったとか思ってます。不思議に思うかもしれないけど、マジで」

咄嗟に励まそうと自分でも本意か分からない言葉が出た。

「私...どうすれば罪を償えるんでしょうか...」そう嘆いた彼女の目には涙が溜まっていた


「マキちゃんのことどう思ってます?団長」

「...良い子だと思っている。やってしまったことは一概に良し悪しが言えない。だが彼女は命の尊さを理解していた HEIKIと人間の違いも。 九十九少年も優しいやつだ 他人のために嘘がつける」

「本当に偉いですよねあの子。私なら泣きじゃくってますよ」

「自分を失った上で大人たちに闘いの道具として利用される....俺は上層部の判断が正しいとは考えていない」

団長と話している女性の名は奈落ならく 後方支援団の副団長をしている

奈落はマキが救出されて以来、ずっと彼女に寄り添っていた。誰よりも彼女の真面目さを知っていたのだ。

「早く終わらせよう この戦いを」

「そうですね」



「 オーメド 起動 」呪文のように呟いた


「?..何か言っ 」


その途端俺の脳内に誰かの声が響いた

[ 聴こえるかしら ]

「っ!  なんだこr」

素早く俺の口を押さえる

さっきとは態度も顔も全く違う 冷徹な目、力強い手

「どうぞ、座ってください」[静かに。悪いようにはしないわ]

同時に聞こえる彼女の声 テレパシーみたいだ

必死に首を縦に振る。なんだよこれ?!

何事もなかったかのように座り、話し出す。

「目をお覚ましになったんですね 安心しました」[その体についてどこまで知ってるの]

「ええっと...」   [そ、そこまで...知らないです]

心の中でそう言った 俺も腰を下ろす

「この度は誠にすいませんでした。深くお詫びします」[あっそ...]

良かった、これであってるみたい...じゃなくて こいつ豹変しすぎだろ!さっきまでいかにもか弱な女子って感じだったのに! ...今までのは演技?! 


「...先ほどは私を庇ってくださいましたが、本心の方は..どうなのでしょうか?」[言っとくけど、私は悪いと思っていないわ。機械のミスだから。あそこに居たあなたの運が悪い]


「俺は...思った事そのまま言ったつもりですよ ハハ.... 」  [  演技だったのか...?...あの謝罪も...]

「本当ですか?」[当然でしょ 低俗なチキュウ人に謝る必要などないわ]

こいつさっきから器用だ..ほぼ同時に音声が聞こえる


「あ、あの、自己紹介がまだでしたね。俺は九十九千です、よろしくお願いします」 [.....なぜ俺の名前を知っている]

「ええっと...私はマキと申します。惑星セルカという星からここに来ました」[あなたをHEKIにした時、脳内にあった今までの記憶、体験諸々を見させてもらったわ]

「へ、へーそうなんだ なんか凄いね...」

「私も他惑星に来るのは初めてでして...」[随分退屈な人生をお過ごしで]

生意気な野郎だ...ムカつく

「あの時はどうなるかと思いましたよ...」[お前、襲われるとこだったんだぞ?]

「ありがとうございました。全く、どうやってお礼すればいいのやら...」[かというあなたも死ぬ寸前だったでしょ? HEIKIでなければ今度こそは確実に死んでた。貸し借りはなしよ。」


「場所を変えません?」[ この話し方疲れる...]

「ええ、構いませんが。」[外なら]


俺たちは個室を出た100人くらいがまだ疎らに座っている。

[助けを呼んだらどうなるか、その頭で考えられるかしら?]

[...どうなる]

[私が所持している緊急自爆スイッチをオンにするわ 範囲はその時のエネルギー残量によるけど、最低でもこの人工島は軽々吹き飛ばせるわ。]

[お前も巻き添えになるのか?]

[馬鹿ね 一緒に死ぬ訳ないでしょ]

「外に行きません?私について来てください」

さっき乗ってきたエレベーターに乗る。防犯カメラが左上にある。監視がないところへ行きたいのだろう

「九十九さんはお優しい方なのですね...」

「ハハッ 初めて言われました」


身長は俺より少し小さいくらい。体型も普通の女子って感じだ。俺らチキュウ人と何ら変わりはない。ただ一つ、耳が不自然に長い事を除いて.....あと性格が悪い


「いい天気ですね 」

外に出た。基地と言っていたが外見は都会の街みたいな感じだ。高いビルから自然まであらゆるものが揃っている。

「ですね、散歩でもしましょうか」

涼しい顔で歩き出した。人も普通に何人かいる。

[茶番は置いといて、あの男から何か聞いた?]

[色々と...頭が追いつかないけど]

[HEIKIは私と私の博士が作った人工生命体よ]

[そうなのか...!ってことはお前らが反チキュウ組合とかいう...]

[一緒にしないで。博士が8年前に一度チキュウを訪れて技術提供をして以来、蛮族であるあなた達に悪いように利用されているのよ。 元々は戦争を終わらせる革命的な発明だったのに...]

[それが真実なら..酷い話だが、こんな体が戦争を終わらせる? むしろ加速させるだろ...]

[知ったような口を聞かないで。あんた達は博士を殺した。私たちの星に戦争などなかった。使い方次第では平和に導く夢のようなもの、それを間違ったのはあんた達でしょ]

[博士が殺されたってのは本当か?]

[ええ。ずっと帰ってこない。だから私が仇を取りに来た]

[大事な人だったのか...?]

[あなたと昔話をするつもりはない。仲間になれって言われたでしょう?]

何だこいつ 

[ああ 大歓迎だと。]

[ 入りなさい ]

[は? 先から思ってたんだが、自己中すぎだろ。こっちは被害者だぞ!それに、入るつもりは....今んとこねえよ]

マキは眉をひそめた

[なぜ? そんなに強力な力を手に入れられたのに。望んで得られるものではないわよ]

[俺はHEIKIであろうが人間を殺せない 何より怖い。次こそは本当に死ぬだろ]

[チキュウ人は自身が追い詰められたら必死に生きようとする生物でしょ。そのためなら何だってするはず]

[お前らは違うのか?]

[セルカ人は穏やかな性格。だから私はチキュウ人が大嫌い]

どうすればいい。俺に残された道はそれしかないのか。。。

[もし入らなかったらどうなる。]

[そんな可能性はない。 私としてもあなたに戦ってもらいたい理由がある。あなた個人の意見なんて誰も聴いちゃいないわ]

.........


[私が聞いた情報によると、軍はHEIKIの九十九千を強制的に味方に引き入れ、以前のあなたは死んだことにし、年中無休で敵と戦わされるらしいわね]

[やっぱりそうなのか....]

[つまり家族や友人にはもう会えないってこと 。一生]

嫌だ、そんなの

[今になって後悔したかしら? 最後の別れは突然訪れるもの。]

「...ふざけるな 勝手に俺の運命を決めやがって」

[抵抗しない。これが現実 黙って頷きなさい」

「なんで、俺が....」」」」

[ラッキーとか思ってるんでしょ。嫌いな勉強はしなくていいし、将来の不安なんて消し飛ぶわ。不幸な自分でも演じてるつもり?たまたまあなたが選ばれただけ。自分が特別だなんて思わないで頂戴ね]


「   ...どうしたの?  睨んだりなんかして」

俺は立ち止まっていた

ふと視線を下げた。



「...わかった。軍に入隊する。」


「そう、それで良いのよ」


「...ありがとうございます! 元気になれました!!」先程とは違う口調で、笑顔を浮かべながらそう言った




ここからが本当の試練だった。








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HEIKI 〜異世界転生するかと思ったら普通に死んだ〜 @kanngaeruno0813menndo

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