目が覚めたら
イシイ
第1話 目が覚めたら
目が覚めたら全裸だった。
「ここはどこだ?つか、なんで全裸なんだ?」
佑斗が目を覚ますと、そこは山の中のような木や草に囲まれた場所だった。少し肌寒い。そして、なぜか全裸だった。
優斗は、なぜこんなところに全裸でいるのか思いだそうとした。
「昨日は仕事だった。火曜だから当たりまえ。ギリギリまで寝てスーツに着替えてカバン持って、鍵かけて。7:27だ。」
これが佑斗のルーティン。朝ごはんは食べない。電車に間に合うギリギリまで寝るのだ。軽く走って駅まで行って、7:51の快速に乗る。3両目の先頭あたり。いつも佑斗の自宅のある最寄り駅で降りる爺さんがいる。だから、その席を狙うのだ。だが、昨日はその爺さんは降りなかった。結局、会社のある駅で一緒に降りたから、佑斗は座れなかった。
「で、会社に着いて、いつも通りのクソつまらない仕事だったな。午前も午後も特に問題なく、何をやったかよくわからねーけど、定時で帰ったんだよな。」
今年36歳になる佑斗の会社は飲料メーカーだ。そこの総務部で、いくつかに分かれてるグループのリーダーだ。とはいえ、同期の奴らはもっと出世して課長だ課長代理ってなポジションだ。
「そうだ、そうだ、そうだ、そうだ。思い出したぞ。帰り際に、憧れの派遣社員の愛菜ちゃんから声を掛けらたんだった!」
「リーダー、ちょっとお話があって。この後、駅前の喫茶店に来てもらえますか?私は先に行ってますので・・・」
って。
3カ月前から派遣で来ている愛菜ちゃんは、とにかくかわいい。仕事ができようが、できなかろうが、どうでもいいくらいカワイイ!まいったな、俺のリーダっぷりに惚れてしまったか。まぁ、そうなるよな。お付き合いして欲しいってか!
「で、喫茶店に行ったんだよな。そしたら、なぜか同じチームの佐田もいたんだよな。ガタイが良いからスーツも似合う爽やか陽キャの佐田、32歳。俺はこいつが大嫌い。部下のくせして、いっつも意見してきやがる。」
俺が席に着くなり、言ったんだ。
「リーダー、大変申し訳ないんすけど、俺、愛菜と付き合ってるんで、ちょっかい出すの止めてくれませんか。今ならここだけの話しておくんで。無理やり残業やらせて二人きりになったり、意味のない研修とかで会議室連れ込んで口説いたり、かっこ悪いっすよ。あと、全裸の件も・・・。」
佑斗はガタイのいい佐田にびびって
「わかりました。」
と、小声で返すのせいいっぱいだった。
「くそ、佐田の野郎。あのガタイは反則だ。俺に勝てるわけがねー。そういや、汚物でも見るような目だったな、愛菜ちゃん・・・まさかな・・・。そうだ、そうだ、それで俺は家にトボトボと帰ったんだったな。」
「いつもなら、帰りに1杯やれる居酒屋か、昔はかなりの美人だったと容易に想像ができるオバちゃんの定食屋で晩飯なんだけど、打ちひしがれた俺はまっすぐ家に帰ったんだ。」
「そう、家に帰って鍵を開けたら閉まったんだよ。あ、俺、朝、鍵閉め忘れてたのか!って。でも、違ったんだ。もう一度鍵を開けて玄関に入ったら宇宙人がいたんだよ。宇宙人ってあれだよ、全身銀色で大きな目だけ真っ黒でってやつ。二人も。」
「イッショニコイ。コナケレバ、イマスグ、チキュウヲホロボス。」
滅ぼすってアンタら・・・で、俺は宇宙人におとなしく攫われたわけ。UFOっての?昔の漫画とか怪しい写真で見た円盤ってやつよ、あれに乗せられてさ。
「その後は大変だったんですよ。どうやら地球から出た宇宙デブリのせいで、その宇宙人達は酷い目に合ってしまったらしい。だから地球を滅ぼすって言うんだ。だから、俺、せいいっぱい弁明してさ。もう、そのゴミ?宇宙デブリ?出さないよう各国の偉い人に言うからって。まぁ、約束しても俺がそんな偉い奴らと会える訳ないんだけどさ。今回だけは見逃してくれって。悪いようにはしない、ちゃんと言い聞かすからって。とにかく地球のため、全人類のために必死よ必死。」
「ワカッタ、コンカイダケハ、ミノガス。」
「チキュウニイッタ、ショウコノシナガナイト、ワレワレモデブラデカエレナイ。」「イマミニツケテルモノ、ゼンブオイテイケ。」
「と、まぁ、そういう訳で、山の中に全裸で放置されったって訳なんですよ。で、そこからが全裸の佑斗の大冒険。人に見つからなぬ様、自分の家まで帰らないといけない。あっち茂みに隠れ、こっちの看板裏に隠れ、猛ダッシュして、金網を乗り越え、塀を乗り越え・・・で、やっと辿り着いた地元の街。家まであと少しってところで・・・」
バンッ!
「いい加減にしろ。そんな言い訳が通用するわけないだろ。この露出狂が!」
警察から借りたジャージを着て取調室でうなだれる佑斗。いつもの居酒屋で1杯のつもりがすっかり飲んでしまって、ベロベロに酔っぱらって街中で全裸でいるところを警察官に見つかり捕まったのだ。
「お前、2回目だろ。前回は逮捕までいかなくて、会社の上司だかに迎えにきてもらって、最終的には起訴猶予で済んだけど、今回はダメだな。」
目が覚めたら イシイ @hirozo777
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