紅茶の美味しいオリエンタルレストラン
与方藤士朗
紅茶の美味しいオリエンタルレストラン
岡山市南区津島南にあるオリエンタルレストラン・チャイヤ。木造のいかにもインドにありそうな印洋折衷のレストラン。
ここに珈琲は一切ない。あるのは、紅茶とチャイの他、ラッシーとさらには外国産ビールなどのいくらかのアルコール飲料。
オリエンタルレストランだけあって、カレーの品ぞろえはしっかりしている。もっともこの店の基準では「カリー」ってことになっているのは、割にこの手の店ではよくある話ということでよろしかろう。無論、カレーばかりではない。パンもあればチキンビリアーニなどと称される焼き飯もある。
そして何より私がこの店にときどき無性に行きたくなるのは、その朝食。
朝9時から11時までの2時間限定で、ヨーグルトのかけられたキュウリとトマトとレタスのサラダ、それにケチャップを添えられたオムレツとバナナの切り身、そして二つに切られたトーストのワンプレートに、チャイまたはセイロンティーのポットががついてくる。
私はいつも、ここではセイロンティーを頼む。セイロンティーと言っても実はいろいろな銘柄があるのだが、朝食では基本的に指定はできない。一時指定できる時期があっていろいろ試したが、正直、セイロンティーの味利きは無理だ。
2024年8月13日。お盆休みの日。5月以来、久々にこの店にやってきた。
朝10時近くまで自宅にこもって仕事をしていたが、さすがに朝から飲まず食わずではかなわぬから、まずはブランチと行こうという次第。
到着して早速、トイレに行くついでに注文。ついでにメニューを持ってきておいてもらうよう若い男性店員に頼んだ。
トイレから戻ったが、水は置かれていたもののメニューがない。少しばかりいつもパソコンを入れて持ち歩くためのバッグに入れている取材ノートと岡山県民手帳を出して必要なメモを書き切っておく。手帳の方には、先2カ月の予定を確認。取材ノートには、近く執筆予定の津山線の列車の物語のプロットを作ることにした。
どうも気になるので、もう一度厨房に行ってメニューを持ってきてもらった。
しばらくして、紅茶がやってきた。紅茶のカップ一式と茶こし、それにポットと牛乳もといミルクの入ったポット。これはもちろん普通の牛乳である。茶こしの上にポットから紅い液体を注ぐ。茶葉が茶こしに幾分残る。その上に、茶色の砂糖を入れてさあスプーンでかき混ぜようと思った矢先、あることに気付いた。
スプーンが、ないではないか!
普段は砂糖を入れずに飲むことも多いが、ここでは入れることにしている。さすがにこれはと思い、厨房に声をかけた。しかし、先方の若い男性と女性の店員らはミニサラダをラップに包む作業に忙しく、聞こえていない模様。
しょうがない。もう少し近づいて声をかけた。やっぱり無理だ。気付かない。厨房前の長テーブルに並んで座る若い女性客2名、このおじさんそろそろ大きな声でも出すのではないかと思い始めたかな。でも、大きな声を出すことなく、さらに接近戦を敢行。この期に及んでようやくのことで、厨房前のカウンターでようやくおねえさんが気付いてくれて、程なくスプーンを提供してくれた。
スプーンで紅茶をかき混ぜ、紅茶をストレートで飲む。
ここでの紅茶の流儀は、最初の一杯はストレート、2杯目以降はミルクを入れて飲むのがおすすめ。今はメニューに書かれていないが、私が大学生だった35年程前のメニューにはそう書かれていた。
あの頃とまったく同じ朝食なのだが、私が大学に入った1988年は450円という値段だった。モーニングにしてはいささか高いかな。でも、ブランチとしてはものすごくコスパがいいなというのが当時の感想。それがやがて480円になり、その後570円になっていた。そして昨年あたりに久々に行ったら何と、700円になっていて、びっくり。でも、1988年当時の450円という値段から考えたら、今ならむしろ実質安くなっている気もしないではない。
ふと、厨房を見た。若い店員2人はミニサラダのラップ賭けに余念がない模様。どうもまだ、料理が出来上がる気配がない。
長椅子の女性2名はチャイを飲んでいるのだが、こちらもどうやら朝食の客。
西側の4人掛けの席には、私とほぼ同世代と思われる女性が着て何やら雑誌を読んでメモを取っている。時々来るとおられる方だが、声をかけたことはない。ひょっと小学校時代の同級生の誰かかなと思うこともあるが、さすがに、声をかける気にもなれずそのような機会もなく現在に至っている次第。
そのうち、持ち帰り客用の料理ができた模様。男性客が店内に入ってきた。そして代金を支払ってカレーと思しき商品を持ち帰っていった。
まだ来ないのか、やたら遅いな。
そんな思いのまま1杯目のストレート紅茶を飲み切って、しばらく県民手帳のメモにいそしんだ。これで当面の日程を確認。しかし、月曜休みの日が多いなぁ。
しかしなぜ、こんなに遅いのだろうか。ま、いろいろあるのでしょう。今日はどうせ急ぐわけでもないから、いいよ。今のうちに、やることやっておこう。
そう思い切った矢先。
ついに、厨房ののれんの向こうから朝食のプレートが出てきた。若い女性客2名と、それから私の分だ。私の方が少し早く入店したので、まずは私の方に眼鏡をかけた女性店員が料理を持ってきた。ここで同時に、小型のフォークとナイフ、それに卓上の塩とオリジナルナプキンがやってきた。
3か月前はもとより、30年以上前の学生時代と変わらぬ洋風朝食である。ここで私は改めて茶こしをカップにセットして紅茶の残りを入れ、砂糖を追加してかき混ぜ、それからミルクを注ぎ込んだ。
これで、今日のブランチがまかなえた!
そして、おもむろに生野菜から始め、バナナ、オムレツ、そしてパンの順番に食していく。フォークはともかく、ナイフはどこでいるのかと言えば、ひとえにこのオムレツを食べるためである。
ケチャップを均等に塗り、それから少しずつフォークを使ってナイフでつまんで食べる。これが何とも言えぬ乙な行為なのである。
こんなところで箸なんか使ったら、無粋以外の何物でもないぞ、ったく。
あとは残すところパンを少しというところで、紅茶のポットの残りを追加。それに加えてミルクポットの牛乳もカップに入れ込む。そして、残りのパンで残った皿上のヨーグルトとケチャップをふき取って口にする。これまた、乙なのよ。
あとは、残りの紅茶とグラスの水を交互に口にしつつ、ゆっくり。
紅茶をおおむね飲み終えたところで、プロットを書く小型ノートを出し、それに今度執筆予定のプロットを書く。登場人物はすべて作れた。あと、話の流れも何とか作ることができた。
さあ、帰ろう。時刻はそろそろ、11時。
私は厨房前のレジに行き、女性店員にぴったり700円を支払って店を出た。
かつて私のいた養護施設があった地の前を通り、岡北大橋の下をくぐって津山線の小さな踏切を渡り、最近よく行く味噌ラーメンの店・中山商店が営業していることを確認。普段は火曜日は低級だが、今日は盆期間ということで営業中。
本来休みの曜日だけあって、まだ客はいない。こういうときこそがゆっくり飲めるチャンスではあるが、さすがに今日はやめておこう。今の冷やし担々麺フェアーは明後日までやっているから、明日でいいや。それより何より、この店に入ったが最後、ビールを飲みだしてしまうからね。なんせここは大瓶500円。アサヒスーパードライだけど、今の時期はあのさっぱり飲める感じがいいのよね。この店にはラーメンを食べずにつまみだけで角打ち的に飲みに来ることもあるくらい。
さすがに紅茶の後は、ちょっと、ね。
というわけで、私はその斜め向かいのスーパーに入って、ポイント8倍の宣伝に押されて今日のこの後の食糧、もとい、酒のつまみと明日以降飲むペットボトルの珈琲を買いそろえ、自宅に戻った。
戻ってスマホを確認したら、12時を少し回っていた。何故か30分程前にメールが入っていた。洗濯を終えて洗濯物を干してから、今度は岡山駅前方面に出向いて用事を済ませた。
自宅に戻ったら13時30分。
シャワーを改めて浴び、着替えて改めて仕事を始めた。
思ったよりすいすいと進んでいる。
先日買置きしたヱビスビールのあては、さっき買ってきた酢豚と鳥めし。
もう2時間ほど仕事して、一杯飲むことにしよう。盆休みはあと2日ある。
明後日あたり、もう一度チャイヤに行って朝食を食べようかな。
紅茶の美味しいオリエンタルレストラン 与方藤士朗 @tohshiroy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます