第1話

 夜だった。

 視線の先には金色に輝く満月と、夜空に散りばめられた星々の輝きがあった。

 視界に映る植物や虫。肌に伝わる地面の感触と爽やかな微風。遠くに聞こえる獣の遠吠え。

 全身で感じる情報がこれが夢ではないと証明していた。


「ここが異世界か……」


 冷静に現実を受け入れられたのは、意識が戻った直後に、この世界の情報と知識が頭に流れこんできたからに他ならない。

 

「よいしょっと。こういうのは街からスタートすると思ってたんだけどなぁ」


 仰向けの状態から立ち上がり、周囲を観察する。どこからどう見ても森の中だった。どこを見てもファンタジーな要素はない。ただの人の気配のない真夜中の森だ。

 別に神様もどこに転移させるとか言っていなかったので、別に文句を言うつもりはない。むしろいきなり人と接するのは心の準備がいるから人目がない方がいいまである。こちとら長年隔離されてきた半引きこもりなのだ。


「さて、サクッと移動しよっと」


 しかし、ここはすでに異世界。魔獣と呼ばれる化け物や盗賊なんかも勿論いるらしい。油断してると死ぬくらいには、異世界には危険が溢れているのである。


 なので、まずは安全の確保をしよう。


 警戒しつつ移動を開始する。現在地がどこなのかは与えて貰った情報として知っているため、一番近場の村に行く予定だ。幸いにも初期装備として貰った通貨もあるようだし、そこで必要なものを買い揃えたい。

 ちなみにだが、この世界における貨幣は金貨、銀貨、銅貨らしい。いかにもファンタジー世界って感じだ。

 情報をまとめつつ、森を駆けていく中でふと違和感を感じだ。


(なんか身体が軽いような?)


 元々は病人だった身だ。ろくに運動もしていなかった為、走ったりしようものならすぐに息が切れるはずだ。

 しかし、多少走っても息が切れないどころか、本気を出せば色々と出来そうなくらいに身体から力が溢れてくる。それに真夜中なのに視界が昼間くらいには見渡せる。


「あ、そーだ。この世界にはステータスっていうのがあるんだっけ」

 

 鏡花は右手の人差し指を横に振る。すると空中に半透明なウインドウが展開された。



【ステータス】

〈名前〉

堺乃鏡花さかいのきょうか

〈能力〉

・『再生』

・『再構築リコンストラクション

・『超感覚』

・『全耐性』

・『成長率UP』

・『成長限界突破』

・『鑑定』

〈能力値〉

・HP 10000

・MP 10000

・力 Ⅰ

・耐久 I

・器用 I

・敏捷 I

・運 Ⅰ


 この世界においては自身の能力を可視化させることができる。それを【ステイタス】と呼称している。

 能力値は自身が得た経験を元に成長する仕様で、それぞれの項目毎にI〜Ⅹまでの数値で表示される。ちなみに、この世界において最強と呼ばれる者でⅥ程度の数値らしい。他にもスキルなどもあるとのことだ。

 

「このステイタスのおかげで身体が軽いわけか」


 特典とかで全ての数値が最強になっていると思っていたが、神様から与えられたのは七つの能力と異世界の知識だけのようだ。

 残念ではあるが、その代わりに強そうな能力をもらっているので、数値の方は自分で上げればいい。

 正直、魔神なんていう規格外と闘うのだから最強の状態で転移させてほしいと思った。しかし、どうやら人間の脆弱な魂では神からの力の供給に耐えられるらしいのだ。結論を言うと、力を与えられすぎた魂はボンッ!と爆発し、永久に輪廻に還ることができなくなるのだそうだ。なにそれ怖い。


 なので目下の目的としては、第一に自身の能力を確認すること。

 魔神の情報を収集しつつ、ステイタスをあげたりして準備をすることだ。


 「ん?あれは光か?」


 今後の行動指針を決めて、順調に深夜の森を進んでいると前方に光を確認した。

 目を凝らすと前方には緑色の肌をした醜悪な化け物がいた。

 

「ゴブリンってやつか」


 初期のモンスター代表の雑魚というイメージだが、情報によればゴブリンには人間の子ども程度の知能があるらしい。その証拠に彼らの手には松明が握られている。

 どこかで人間が作ったものを観察して真似をしたに違いない。だが暗視と嗅覚に優れているらしいのに何故たいまつなんて使っているのだろうか。

 と鏡花が疑問に思っていると、微かに小さな物音が聞こえたような気がした。


(……あぁ、なるほど。あれは囮か)


 与えられた能力一つ目『超感覚』。

 自身の感覚の全てが人知を超えるほど強化されるという能力である。研ぎ澄まされた五感。

 松明をもつゴブリンの頭上の木々、それと周囲の暗闇の中に複数が身を隠しているのを確認した。

 

 かなり距離があるからか、鏡花は落ち着いていた。勝てるという自信があったからだ。やるなら速攻、迷うだけ危険は増すのみだ。

 

「『再構築リコンストラクション』」


 能力二つ目『再構築リコンストラクション』。

 エネルギーを対価に触れたモノを再構築し、構成や形状などを創り変える能力らしい。説明ではどんな物質も相応のエネルギーを対価にすれば変幻自在に変化できるとのことだ。与えて貰った能力の中では鏡花の主な攻撃手段になる能力だ。

 ここでいうエネルギーとはMPのことらしいが、MP消費で何でも作れるTHEチート能力である。


 今回作ってみたのは弓と矢だ。足で触れている土を基に作った。

 もちろん鏡花は一度も使ったことがないし、獲物を打つのも初めてだ。

 しかし、それは問題にならない。再構築の説明ではエネルギーを対価にすることでどんな物質も変幻自在に作れるとのことだった。

 だから、鏡花が作った弓には『自動照準』『自動攻撃』『自動追尾』の三つの性質を付与してみた。なので放つという意思を示せば、


「ぐぎゃっ!!」


 あとは自動で敵を殲滅してくれるというわけだ。

 放たれた矢は全てゴブリンの頭を貫通し、確認していたゴブリンは一瞬で全滅した。自分でやっておいてなんだけどチートすぎるような気がする。


 一応、鑑定でゴブリンが死んだのを確認して近づく。

 初めて命を摘んだが、気持ち悪くなったりも、罪悪感も抱くことはなかった。


「ここは女の子らしく、キャーとか言う場面だったかもしれない。どこにいっちまったんだ私の女子力は……」


 唯一の親友である真藤なら可愛い悲鳴をあげるのだろうが、こちとら死ぬ覚悟ガンギマリだった女だぞ。今さら血や死体くらいで泣き叫ぶか。女は以外と強かなのだ。


 さて、この世界では魔物の素材は一応は金になるらしいが、初級の雑魚モンスターであるゴブリンの素材は二束三文にもなるまい。なので死体は放置することにした。


「最低限の能力確認も済んだし、異世界生活がんばるぞー」


 そう言いながら片手を夜空にあげ、鏡花は再び夜の森の移動を開始したのだった。

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最強キヨちゃん異世界成り上がり伝説 神楽ゆう @OvTen

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