中年武術家と美少女拳士の魔討デート

一陽吉

娘のような妻もありか

 魔を討って生計を立て、武術家として研鑽を重ねて五十年。


 女っ気などないまま生きてきた。


 同期のやつらが結婚し、子どもや孫ができても今までなんとも思わなかった。


 だが、この歳になってやはり伴侶が必要かもと思い始めた。


 ならばいっそ、娘のような若い妻を迎え入れ、孫のような娘ができたら面白いかもな、などと考えていたら、まずはその第一段階のようにこいつが現れた。


「来るわよ、陽玄ヨウゲン


 俺のそばで構え、注意をうながす十七歳の少女、雷寿ライジュ


 小柄な体型で茶髪をうさぎ結びにした髪型が似合う雷寿だが、拳士としての腕前は天才的で、十年程度の練度では相手にならず初級の魔物も簡単にたおしてしまう。


 しかも顔だちは美しく、道服の上からも分かる小さすぎない胸が女らしさを主張しているうえに家事全般をこなし、料理が趣味というのだから、まわりの男どもから注目されるのも納得の容姿と技量を持っている。


 そんな雷寿なんだが、他の若くて有能な男子には目もくれず俺の相棒になっている。


 まあ、その答えは出会ったときからはっきりしていた。


 お互い一目惚れだったからな。


 て。


 おっと。


 見とれてる場合じゃない。


 いまは仕事に専念しないとな。


 ──十五歩ほど先の床から煙のように立ちのぼる黒い瘴気。


 廃棄されたといえ病院の二階に存在するはずのない気体系魔物の登場だ。


 名も無きこの魔物こそが今回の標的なんだが、如何せん、気体だからな。


 銃や刃物などで斃すことはできない。


「思ったより大したことないわね。私だけでは十分だわ」


 言い終えるより早く跳びこむと、雷寿は一回転して右の裏拳を放ち、そのまま左足で下段蹴りを繰り出した。


 上下ほぼ同時に気をまとった攻撃を受け、魔物は跡形もなく消し飛んだ。


「楽勝ね」


 振り向き笑顔をみせる雷寿。


 全身を使い、素早くて無駄のない効果的な攻撃ができるのが雷寿を天才と言わしめるところだな。


 ──だが。


「!?」


 床から現れるもう一体の魔物。


 同じ気体系の魔物だが、雷寿の真下だ。


 人間工学的に、真下からの接近は即時対応が難しく、いいところ手で防ぐくらいだ。


 しかも気体系の魔物は直接接触すると侵蝕や欠損の恐れがある。


 だから──。


「砲覇」


 その前に俺が気功波系の技で消し飛ばしてしまえばいい。


「大丈夫か?」


「うん、ありがとう」


 一瞬の危機に少しだけ動揺してるようだ。


「気体系の魔物は見えている部分が全てとは限らんからな。一度、攻撃したら離れて様子をみた方がいい」


「そうね、今度からそうする」


 俺の言葉を素直に聞き入れる雷寿。


 こういうところも俺が惚れたんだよな。


「だが、臆することはない。おまえはおまえらしく立ち振る舞えばいいんだ。将来の妻を、俺が絶対に守るから」


「!?」


 思わぬ宣言に、雷寿の顔は真っ赤になった。


「つ、つつつつつつつつつつつつつ妻?」


「ああ」


 話しながら歩いていた俺は雷寿をそっと抱きしめた。


「だから安心しな。いつでも俺がそばにいる」


 耳元でささやくように言うと、雷寿の身体はびくんと反応し、その顔はさらに赤くなったようだ。


 二人とも不器用で、街中ではできずにこういうところでしか恋愛らしいことができんが、それが俺たちらしさってもんだな。

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