お盆のラジオ

鈴ノ木 鈴ノ子

おぼんのらじお

 今年もまたこの季節がやってきた。

 お盆。

 毎年の夏の行事だ。

 我が家でも盆提灯を毎年寝かせている押し入れから取り出した。

 子供の頃は走馬灯の色が好きだった。

 カラフルな色が夜闇に走っては影絵のようになって鮮やかだった。

 大人になると少しだけ手間がかかるようになった。

 箱から出して提灯を組み上げてゆく。

 今年は全部出してみようかと、過去から現在までの保管されているすべてを取り出してみる。

 仏間で先祖の写真に囲まれながらの組み上げはどことなく怖かった。

 すべての視線が一挙手一投足を見つめているような気がして、作法は無いはずなのに畳の上で正座して、箱を開いては一つ一つを取り出してゆく。

 これはお爺ちゃんと作ったことがある。

 これはお婆ちゃんと買いに行った。

 これはお父さんに遊んで怒られた。

 これはお母さんが出すのを躊躇った。

 これは…、これは…。

 懐かしい記憶が蘇ってきて、ふっと心の涙腺を揺らす。

 急に寂しいと感じて不安になった。

 家には一人だ。

 自宅なのにほつんと取り残されたような気がした。

 遺影の視線は熱心なのに生者の視線は私だけ。

 それに耐えきれなくなって、ふと祖父や祖母が盆提灯を出すときにラジオを聞いていたことを思い出した。

 ポケットラジオなんてものはすでになく、そう言えばとスマホに防災用に入れていたラジオアプリの存在を思いついて、それをつけた。

 夏のラジオだった。

 高校野球の実況中継、毎年の夏、祖父と祖母が畑仕事の合間に、家事の合間に、そして、この盆提灯を出す合間に聞いていた。

 騒がしいけれど安堵できるアナウンサーの声と実況を聞きながら、盆提灯を組み上げてゆく。

 すべてを組み上げて、そして、終えた頃、高校野球は第二試合が始まっていた。

 綺麗に並んだ盆提灯に満足しながら、私はスマホを手に取ろうとしてふと立ち止まった。

 部屋の視線がスマホラジオを見つめていた。

 傍に座って私もその放送に耳を傾ける。

 今年のお盆はラジオから始まった。

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お盆のラジオ 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

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