第22話:戦士長

戦士長と撃ち合っている陽斗はるとを見て、フィンはただ感動していた。

戦士長はエルフの中では圧倒的な強者で、体つきも一般的なエルフの2回り以上の体躯たいくを持っている。

軽装を好み森の狩人として弓を扱うエルフの中では珍しく、よろいまとった両手剣の剣士だった。

これまで、エルフの里に踏み入ってきた盗賊や大型モンスターは、そのほとんどが戦士長にほうむられている。

フィンが知る世界の中では、戦士長以上の強者はいなかった。

その戦士長と、陽斗は撃ち合っている。


陽斗だけでなく、ヒカリもフィンの想像していた以上の動きをしていた。

事前に見ていた光線の力だけではなく、ヒカリは矢を避けて走り抜け、とうとう世界樹の目の前までたどり着いたのだ。

フィンが想像していた以上に、陽斗、ヒカリたちは素晴らしく、不思議な能力を持っているようだった。

やっぱり、外の世界、外の人たちは面白い。



ただ、感動しているフィンの内情とは裏腹に、陽斗は自身の不利を感じていた。


(押し負けてる……)


陽斗がこれまでの戦いでは味わったことのないプレッシャーだ。

戦士長の剣は、鋭いだけでなくその一撃が重く、受け止めるたびに体が浮かされるほどの衝撃があった。

受けに徹していればしばらく耐えられそうだが、それで解決するわけではない。

どこかで覚悟を決めて、勝負に出なければならない……そんな気がしていた。



ヒカリはその撃ち合い……というより、戦士長の背後を凝視していた。

戦士長の背後には、黒いもやがゆらめいている。


「シロちゃん、私の光線で靄を一時的にでもなくせれば、上手く行くんじゃないかな……?」


シロは一瞬ヒカリを見ると、陽斗と戦士長の戦いを見ながら言う。


「あの戦いのすきって、光線を当てるってこと?」


撃ち合いはより激しさを増しており、そのスピードは目で追うのがやっとだった。

シロの言いたいことはわかるが、ヒカリには自信がある。


「……予測を使ってみる。戦士長さんの動きを予測すれば、当てられそうかもなって」


「そ、そうか! 予測なら当てられる……かもしれない」と言い、シロは考え込みながらも陽斗に声をかける。


「陽斗! そのまま戦っててくれ! ヒカリが隙を見て戦士長の動きを止めるから!」


陽斗は一瞬サムズアップ……親指を上げるが、すぐに戦いに集中する。


ヒカリは、大きく息を吸い、続けてゆっくりと吐き出した。

息を吸い込むと同時に閉じていた目を見開き、戦士長の背後に集中する。

集中の深度に従い、徐々に残像が生み出されていった。

現実の数歩先、戦士長の少し先の動きが、残像となってヒカリの瞳に映し出される。


残像に向け、ヒカリは光線を放った。

きらめく光が、彼女の意志を宿して一直線に進んでいく。


「当たって!」


戦士長の体と残像が徐々に重なり、予測が現実となる……かと思われた直後、彼の体はヒカリの予測を追い越し、背後の靄を捉えるはずだった光線は彼の右肩、金属鎧を直撃した。


「えっ……なんで……?」


その疑問について考察している余裕はなく、鎧に当たった光線がそのままヒカリに向けて反射され、直撃せんと戻ってくる。


「え、あっ!」


ヒカリは思わず手を伸ばし、光線を避けようと動いた。

しかし、光線のスピードは速く、彼女の反応は間に合わない。

ヒカリが諦めかけたその瞬間、さっきまでは太一のすぐそばに控えていたフィンが、彼女の横に飛び込んできた。


「ヒカリ、危ない!」


フィンは叫びながら、ヒカリの体を手で押しける。

押し除けられたヒカリは倒れることで光線をかわしたが、彼女の代わりに射線に飛び込んだフィンは光線を避けることができなかった。


「フィンくん!」


ヒカリの叫び声が響く。


フィンは一瞬、痛みを覚悟して目を閉じた。

すぐに焼けるような痛みが……来ない。

来るはずの痛みはいくら待っても訪れず、むしろ心地よいエネルギーが全身を駆け巡り始めた。


「何だ、これは……?」


フィンは驚き、体のあちこちを触るが、光線を受けたような形跡は見つからない。

それどころかこの感覚は、普段から感じている世界樹の力と似ていた。

ヒカリが放った光はフィンは内側まで届いて影響を及ぼし、彼の全身をうっすらと輝かせ始める。

フィンは自分の体から、聖なる力が放出されているのを感じた。

ヒカリの光線がきっかけで、フィンの中にあった溜め込まれていた聖なる力が出ている……そんな気がしている。

気がしているとは言うが、フィンには確信的な感覚があった。


「フィンくん、無事!?」


明らかに変化の生じているフィンに対し、ヒカリが心配そうに声をかけるが、フィンは笑顔を浮かべていた。


「大丈夫。それよりヒカリ、もう一度、戦士長に光線をってみてくれない?」


「え……でも……」


「今度は、戦士長の体に当ててほしい。鎧じゃなくて」


戦士長の鎧は、胸部、肩、腕にかけて覆われており、腹部や下半身はおおわれていない部分が多くなっている。


「それなら行けそうかもだけど……でもどうして?」


「試したいことがあるんだ。お願いできる?」


「……わかった、やってみるよ」


ヒカリはフィンの意図をみ取りきれていないが、詳しく言及している時間もなかった。


再び深呼吸し、余計な思考を空気と一緒に吐き出す。

余計な雑念がなくなると同時、徐々に残像が生み出され始めた。

今度は戦士長の鎧以外、腹部に狙いを定める。


次第に目頭が熱くなるのを感じ、その熱が最大まで高まったタイミングで、熱を放出するような感覚で光線を放った。


先ほどと同様に、残像を追い越して動く戦士長。

ただ、動きを見越して少し先に放ったのと、靄と比べて有効範囲が広かったのもあって、今回は見事的中した。


それと同時、戦士長の体内に長年蓄積されていたと思われる聖なる力が、一気に解放される。


「よし!」


フィンの予想していた通り、戦士長の体は徐々に輝き始めた。

フィンの輝きと比べると劣るが、戦士長の体が光に包まれるにつれ、黒い靄はその圧力に押し出されるように薄くなり、ついには完全に消え去ってしまう。


「靄が、消えていく……!」


フィンとヒカリだけでなく、陽斗も手を止めて目の前の光景をに目を奪われている。


太一は……背後から迫る矢を防ぐのに精一杯だった。


「俺は……俺は何をしていたんだ?」


戦士長は正気を取り戻したのだろう、感情を無くしてにごり切っていた瞳には、明らかに光が宿っていた。



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毎日1投稿week(失敗)

してしまいました……。

言い訳はしません! 慣れないことをした結果、これです。

ですが、めげずに言います。

本日、もう一投稿予定と……。

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ゲームのスキルを現実で使える!? 盲目の私が「瞳術」を得た結果 ぜん @gazen

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