第21話:矢の雨
前に進むにつれて、緊張が一層高まっていった。
エルフたち3人は横一列に並び、無表情で前を見つめている。
顔には覇気や気力は見られず、素早く矢をつがえ、凄まじい威力で次々と放つ様子は、まるで
ヒカリは
エルフたちが背負っている
まるで魔法のように、彼らの矢は尽きることなく、無限に生み出されているかのようだった。
ヒカリがさらに視野を広げると、背後から人影が近づいているのが見えた。
エルフの増援だ。
「森にいたエルフたちが来たみたい! 後ろから近づいてきてる!」
その瞬間、前方だけでなく、後方からも矢が発射され始めた。
太一は膝をつき、前方のみに上げていた両手を片手ずつ、前後に広げる。
すると、前方だけだった盾が前後両方に展開された。
ただ、今までの盾と比べて一回りサイズが小さいように感じる。
「これはきつい……みんな、動くなよ!」
太一、ヒカリ、フィンが全員膝立ちでギリギリ隠れられる状態になり、完全に足が止まってしまう。
牢屋にいた拓也は、すぐそばにエルフたちが現れたため中に避難していた。
援護射撃もストップだ。
それに伴い、陽斗の歩みも止まってしまった。
凄まじいスピードで振るわれる斧は、陽斗に迫る矢を打ち落とし続けているが、前後の物量増加と援護射撃の
「どうする、どうするんだ!」
陽斗は焦りを感じ、周囲を見渡した。
前方のエルフたちは変わらず矢を放ち続け、大量に放たれる矢は、まるで迫り来る壁を思わせる圧迫感だ。
ヒカリは周囲の観察と同時に、太一に守られながら矢の動きを常に視線で追っていた。
矢の一本一本が放たれてから盾に当たるまで、その軌道を見続けることで異常に集中力が高まっているのを感じる。
彼女は立ち上がると、正確に
周囲の緊迫した空気を感じつつも、彼女の心には確信がある。
矢の軌道がどう進むのか、どう避ければいいのかがわかる。
矢を避けながら進める。
彼女はその思いを胸に、動き始めた。
「ヒカリ、危ない!」
フィンが叫ぶが、彼女はすでに、1射、2射と避けて走り始めていた。
避けながら動くヒカリは、無駄がなく、陽斗をも追い越していく。
その姿はまるで舞を踊っているかのようで、周囲の緊張感を一瞬忘れさせる。
走り始めてから10秒もしない内に、彼女は3人のエルフの前に
各エルフの背後には黒い
「行け!」と心の中で叫びながら、光線が靄に当たる瞬間、周囲が眩い光に包まれた。
エルフたちは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
靄が光に飲み込まれ、徐々に消えていった。
「やった、効いてる!」
ヒカリは心の中で喜びを感じながら、さらに力を込める。
彼女の光がエルフたちを照らし、次第に彼らの表情が変わっていくのを感じた。
黒い靄が消え去り、エルフたちの目に再び生気が宿り始める。
無表情だった彼らは、驚きと困惑の表情を浮かべてヒカリたちを見つめた。
「一体……俺はどうしたんだ?」と一人のエルフが呟く。
だが、正気を取り戻したのも
ヒカリは、再び黒い靄に向けて光線を放つ。
「ヒカリ! 危ない!!」
3人から放たれる矢がなくなったおかげで、追いついてきた陽斗が声をあげる。
それと同時に、彼はヒカリの背後に向けて斧を振り下ろした。
重量のある鉄同士が衝突し、鈍く甲高い音が鳴り響く。
ヒカリが振り返ると、
「大丈夫か、ヒカリ!」
「う、うん、大丈夫! ありがとう!」
「離れてくれ、こいつ、すごい力だ」
陽斗は剣を弾いて斧を振り下ろし、両手剣のエルフと距離を取った。
太一とフィンも、陽斗に遅れて辿り着く。
「陽斗、気をつけて! その人が戦士長だよ!」
陽斗に向かい合うエルフが距離を詰め、手に持つ両手剣を下から上に振り上げた。
陽斗は
剣はなんとか止まったが、陽斗の体が少し浮いた。
「やっべえ」
下を向いていた陽斗の目の前にすでに剣はなく、陽斗は直感で斧を振り上げると、ちょうど振り下ろされていた剣が斧とぶつかる。
太一から見た2人の戦いは、異次元の動きだった。
どちらの動きも目で追うのがやっとで、重量のある武器を異常なスピードで振り回し続けている。
これまで陽斗が戦う様子は何度も見てきた。
陽斗が振るう斧を避けるどころか、受け止められるモンスターは今までいなかった。
どんな敵も即座に倒してきたのを見てきたが、今回はそうはいかないようだ。
時間がかかりそう……いや、むしろ陽斗の方が押されているように見える。
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