第20話:突撃

夕方、看守が夕食のために牢屋から離れたのを確認したフィンは、裏手から牢屋のある建物内に入った。

彼は静かに鍵を取り出し、ヒカリたちの牢を開ける。


ヒカリ、シロ、陽斗、太一たいち(陽斗の仲間1)、拓也たくや(陽斗の仲間2)の順に牢から脱出した。


陽斗は開放感を味わうために手を広げて深呼吸をし、気合を入れて「うしっ!」と声を出す。


フィンは思わず緊張し、周囲に警戒を強める。


「ちょっと、大きな声はまずいよ……」


その時、太一が陽斗の脇を抜けて前に出た。

建物のドアは、看守が出たままで開け放たれた状態だ。


「待って!」


太一がドアを横切る直前、フィンが声をかける。

だが時すでに遅く、太一はドアから顔を出してしまっていた。

ヒュッと鋭い風切り音がしたかと思うと、太一の首から上が弾け飛ぶ。


「ヒエッ」


真後ろにいた拓也が後退あとずさりして尻餅をついた。


フィンはすぐに頭を切り替え、右手を腰のバッグに突っ込み、左手で空中に放り出されていた頭を掴んだ。

バッグから取り出した小瓶の蓋を片手で開け、首の切断面に振り掛ける。


「全く、油断してるからだよ」


フィンは冷静にそう呟くと、左手でキャッチした頭を元通り胴体にくっつけ、すぐに手を離した。

ただ置かれただけの頭は、胴体から離れることなく、元あった場所に鎮座ちんざしている。

それは一瞬の出来事で、頭が飛んだのは幻だったんじゃないかと思うほど、スムーズな流れだった。


頭が戻った太一は、自ら動いて扉から離れる。

首がくっついただけでなく、確かにあったはずの傷口がなくなっていた。


周囲の空気が一変し、少しでも気を抜くと生死に直結することを、陽斗たちは実感する。

フィンが想像以上に動けたこと、異常な回復力を示すアイテムへの驚きに加え、今までの敵とは全く違うレベルの緊迫感が、周囲を包んでいた。


ヒカリは矢が飛んできた方向を見る。

牢屋内から透視はできなかったが、建物に結界はかけられていないらしい、ここからなら里の全体像が見渡せた。


「うそ……あんなに遠くから?」


ヒカリの視線の先、約400メートル先の世界樹の手前にいるエルフ3人が、こちらを向いて弓矢を構えている。


「フィンくん、3人が私たちに気付いてるみたい。みんな弓矢を構えてる……」


「あんなに大きい声出すからだよ……エルフは耳がいいんだ、全く油断しすぎ。森にいる戦士たちが戻る前に行くよ! ヒカリ! 陽斗! 太一! 出られそう?」


「もう大丈夫だ、ありがとうフィン。俺が先行するから、行くぞ」


太一がそう言って両腕を挙げる。

そのまま両てのひらを開いて前に突き出すと、太一の目の前に直径1メートル程の光の盾が展開された。


「すごいね、これが言っていたスキルか」


フィンが感心して言う。

魔法でも体質でもなく、スキルというのは誰もが持つものではないらしく、フィンも初めて見たようだった。


「みんなの力も頼りにしてるよ!」


フィンに視線を向けられ、全員がうなずく。


完全に盾が出来上がったことを確認した太一は、振り返ってみんなに目配せをすると、扉から外に飛び出した。

続いて陽斗、ヒカリ、フィンが太一に重なるようにして飛び出す。


だが、数歩も進まない内に、頭を一撃で吹き飛ばす威力の矢が降り注ぎ始めた。

ほぼ毎秒3発ずつ、正確に全てが盾に直撃している。

太一は足を踏ん張り、矢の威力に押し戻されそうになりながらもその場で耐え続けた。


「ダメだ、前に進めそうにない」


3人のエルフは豆粒ほどの大きさに見えるが、距離にそぐわない威力、正確性と物量だ。

ヒカリが見ると、エルフは恐ろしい速度で連射しているだけでなく、毎回3本ずつ弓に矢をつがえて発射していた。


「拓也! 頼む!」


陽斗が後ろを向いて叫ぶと、建物内に留まっていた拓也が矢を放つ。

拓也が放った矢は正確にエルフの1人に向かっていたようだが、直撃まで残り200メートルほどでエルフの放った矢と直撃した。

拓也は気にせず連射を始める。


拓也の援護を確認した陽斗は、盾から飛び出して自ら世界樹に向けて駆け出した。


「オラオラオラーー!!!」


背中に抱えていた斧を取り外して振り回し、矢を薙ぎ払っていく。


陽斗、拓也に矢が分散したことで太一も立ち上がり、盾に矢を受けながらも走り出した。

ヒカリとフィンは太一に守られながら、陽斗は自分で矢を打ち落としながら進んでいく。

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