第19話:救援!?
エルフの里の牢屋には、1日に2回、1時間ずつ看守がいない時間がある。
牢屋外の様子を知る由もないヒカリとシロだったが、フィンのおかげでこの時間を把握することができた。
現在は、看守が昼休憩で監視から外れている時間だ。
フィンはこの時間を狙ってヒカリたちと作戦会議をしていた。
「それで、里の様子が変だったんだね。ヒカリ、やっぱり街で聞いていた情報と違っていたのは、原因があったみたいだ」
ヒカリは膝に乗るシロの言葉に頷き、フィンに向き直る。
「そうみたい……悪い人がいるんだね。フィンくん、その人は何者なのかわかるの?」
「わからない。僕も、気づいたら倒れてしまっていたから……オビーっていう名前は聞こえたけど、あの男の名前じゃないみたいだったし。大人たちなら何か知っている人がいるかもしれないけど、今は誰ともまともな会話ができないんだ」
シロがヒカリの膝から降りて問いかける。
「そこがわからない……フィン、どうして君だけが正気でいられるんだい?」
フィンは少し考え込んで答えた。
「おそらく僕の体質が影響しているんだと思う……僕は、エルフの中でも少し変わっていて、『
「「聖喰い?」」
2人同時の問いに対し、フィンが説明を続ける。
「そう、聖喰い。エルフでも稀にしか生まれないらしいんだけど、世界樹の生み出す力をより取り込む……って言われてる」
「言われてるだけなの?」
「今まで実感はなかったんだよ。それに、本当に
ヒカリはその衝撃的なカミングアウトに目を見開く。
「え!? それってまずいんじゃ……」
シロも同様の反応だ。
「そうだよヒカリ……。今って、世界樹から力が出ていない状態なんだよね? このままだとみんな死んじゃうんじゃ……」
「そうなるね、だからなんとかしなきゃってずっと考えていたところに、君たちが来たんだ。ヒカリの力で、僕たちを助けてほしい」
「助けたいのはもちろんだけど……黒い
「その根元まで、どうやって行くかだね?」
フィンはシロの言葉に頷き、改めて世界樹までの障害を説明する。
「そこが難しいんだよな……。さっき説明した通り、おそらく世界樹に辿り着くまでに5人は警備を振り切らないといけない。しかもそのうち1人は戦士長、とてもじゃないけど太刀打ちできないよ。また捕まってここに戻るならまだいいけど、その場で殺されてしまわないとも言い切れないから……」
「……でも、何もしなくても、私たち助からない……」
「ヒカリがたどり着けるよう、僕が全力でサポートするよ! けど、フィンの言う通り、人数差的にもすぐに行動するのは難しそうだね。フィン、確認だけど、僕とヒカリをここから出すことはできるんだよね?」
「そこは任せて! 生まれ育った里のことだ、隅から隅まで知ってるよ。牢屋の鍵だって、ほら」
そう言うと、フィンはポケットから取り出した鍵を見せる。
「フィン、まず僕だけ、ここから出してくれないか? 僕は運営と連絡することができるんだけど、牢屋の結界内だと通信障害か何かでできなかったんだ。牢屋から出られれば何か情報が得られるかもしれない」
「それはもちろんいいけど、運営と通信ってなんだい?」
「……運営っていうのは、仲間だよ。知りたい情報を教えてくれるかもしれないんだ」
「すごい! 遠くにいながら仲間と話せるの?」
フィンが少し興奮しながらそう言うと、鍵を差し込んで時計回りに半分ほど回した。
すると、カチャリと小さな音を立てて、牢屋の扉が開く。
「すぐに戻るから、ちょっと待っててね、ヒカリ」
「うん! お願いね、シロちゃん」
シロは牢から出ると、フィンの肩に乗り、丸くなって目を閉じる。
一見すると寝ているだけのように見えるけど、これが通信というものなのか?
フィンは気になりつつも、そろそろ看守が戻ってくる時間になる。
次の夕食時の休憩に戻ることをヒカリに告げ、シロを肩に乗せたまま建物を出た。
すれ違うエルフにシロを見られても、特に反応はない。
森に住むエルフは動物と共生しており、鳥や様々な動物を肩に乗せていることは珍しくなかった。
夜までに何かしら作戦を考えようと、牢屋から世界樹の道を行ったり来たりする。
距離にして約500メートル。
朝から晩まで、どのタイミングでも、世界樹前の待機所には戦士長がいることは確認済みだ。
3往復ほどしたが、何も考えが浮かばない。
シロは丸まったままで、話しかけても何も返答がなかった。
仕方なく自宅に戻ろうとした時、肩で丸くなっていたシロが体をほどき、飛び降りて地面に着地。
すぐに里の入り口に向かって走り出した。
「どうしたの!?」
フィンがシロの背中に叫ぶ。
「説明している時間がなさそうなんだ――着いてきて!」
(なんだよもう)
フィンは軽く悪態をつきながらも、シロに置いていかれないようにダッシュ、里の入り口を抜けて森に入るところで異変に気づいた。
(誰かが……戦ってる!?)
戦闘音が一瞬だけ聞こえ、数人がドサリと倒れる音がする。
エルフ数人で取り押さえたのだろう、バタバタと抵抗する音が聞こえるが、侵入者は捕まったようだった。
シロはフィンの肩に飛び乗り、様子を伺っている。
「捕まったのは人間だよ。緊急事態だから運営に確認してもらい、エルフの里を目指す人間が3人、里に到着する直前だという情報をもらったんだけど、ギリギリ間に合わなかった。捕まってしまったみたいだ……ヒカリと同じで牢屋に入れてもらえればいいんだけど」
しばらく待っていると、エルフ数人に連れられて3名の男性が現れた。
シロは見覚えのある顔だったが、3人はシロのことを覚えていなかったらしく、そのまま素通りし、牢屋の方に向かって連行されていった。
「よかった、牢屋に連れて行かれるみたいだ。フィン、あの3人に協力してもらえれば、世界樹の前まで辿り着けるんじゃない?」
「え……まあ確かに、人数的にはいいかもしれないけど、あの人たちって、強いの? うちの戦士長、すごい強いよ?」
「うーん、強いはず? だけど……」
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「なんなんだよ、霧で何も見えない中でいきなり捕まえるとか卑怯だぞ!」
「「そうだ、離してくれー!!」」
エルフたちは叫ぶ3人を無視して、牢屋に連行する。
看守と
看守が牢屋の鍵を開け、その中に放り込まれる。
「いてぇ、くそっ」
ガチャンと扉が閉じられ、外が一切見えなくなる。
木の柵でできてる牢屋のはずが、間から何も見えないのはどういうことだろう?
不思議に思いつつも、それどころではない。
その後何度呼びかけても返信がなかったのが不安だったが、ヒカリが街を出る直前に会った時、エルフの森に行くと言っていたのもあり、ヒカリの身に何かあったんだと急行することにしたのだ。
ただ、霧の森が想像以上に厄介で3人で何日も
ミイラ取りがミイラ……。
恥ずかしくて悔しくて、扉を思い切り叩くがびくともしない。
ただの木であれば粉々にできるはずが、特殊な牢屋らしい。
「ふぅ……ダメみたいだ……お前ら、これからどうす……」
そう言って後ろを振り返った陽斗は、牢屋の奥に縮こまって震えている小動物……いや、ヒカリを見つけた。
「ヒカリ! 無事か!」
陽斗は駆け寄り、ヒカリの肩を掴む。
「へっ!? は、はい!?」
明らかに困惑している。この反応はもしかして……。
「お前、もしかして、俺たちのこと覚えてないことないよな?」
「……う、え、ええ……っと」
「「「ふざけんなーーーー!!」」」
「え、ええええええ!? す……すみません!!!」
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