第19話:救援!?

エルフの里の牢屋には、1日に2回、1時間ずつ看守がいない時間がある。


牢屋外の様子を知る由もないヒカリとシロだったが、フィンのおかげでこの時間を把握することができた。

現在は、看守が昼休憩で監視から外れている時間だ。

フィンはこの時間を狙ってヒカリたちと作戦会議をしていた。


「それで、里の様子が変だったんだね。ヒカリ、やっぱり街で聞いていた情報と違っていたのは、原因があったみたいだ」


ヒカリは膝に乗るシロの言葉に頷き、フィンに向き直る。


「そうみたい……悪い人がいるんだね。フィンくん、その人は何者なのかわかるの?」


「わからない。僕も、気づいたら倒れてしまっていたから……オビーっていう名前は聞こえたけど、あの男の名前じゃないみたいだったし。大人たちなら何か知っている人がいるかもしれないけど、今は誰ともまともな会話ができないんだ」


シロがヒカリの膝から降りて問いかける。


「そこがわからない……フィン、どうして君だけが正気でいられるんだい?」


フィンは少し考え込んで答えた。


「おそらく僕の体質が影響しているんだと思う……僕は、エルフの中でも少し変わっていて、『聖喰せいぐい』って呼ばれてるんだ」


「「聖喰い?」」


2人同時の問いに対し、フィンが説明を続ける。


「そう、聖喰い。エルフでも稀にしか生まれないらしいんだけど、世界樹の生み出す力をより取り込む……って言われてる」


「言われてるだけなの?」


「今まで実感はなかったんだよ。それに、本当にまれなんだ、数百年に1度らしくて……そもそも、エルフならみんな、少なからず世界樹の力を取り込んでいる。力を取り込み続けないと、半年も経たずに死んでしまうって言われてる」


ヒカリはそのなカミングアウトに目を見開く。


「え!? それってまずいんじゃ……」


シロも同様の反応だ。


「そうだよヒカリ……。今って、世界樹から力が出ていない状態なんだよね? このままだとみんな死んじゃうんじゃ……」


「そうなるね、だからなんとかしなきゃってずっと考えていたところに、君たちが来たんだ。ヒカリの力で、僕たちを助けてほしい」


「助けたいのはもちろんだけど……黒いもやの塊が世界樹の根元にあるんだよね? ルミナリウムの時と同じなら、1番大きい靄を晴らせば全部なくなるとは思うんだけど……」


「その根元まで、どうやって行くかだね?」


フィンはシロの言葉に頷き、改めて世界樹までの障害を説明する。


「そこが難しいんだよな……。さっき説明した通り、おそらく世界樹に辿り着くまでに5人は警備を振り切らないといけない。しかもそのうち1人は戦士長、とてもじゃないけど太刀打ちできないよ。また捕まってここに戻るならまだいいけど、その場で殺されてしまわないとも言い切れないから……」


「……でも、何もしなくても、私たち助からない……」


「ヒカリがたどり着けるよう、僕が全力でサポートするよ! けど、フィンの言う通り、人数差的にもすぐに行動するのは難しそうだね。フィン、確認だけど、僕とヒカリをここから出すことはできるんだよね?」


「そこは任せて! 生まれ育った里のことだ、隅から隅まで知ってるよ。牢屋の鍵だって、ほら」


そう言うと、フィンはポケットから取り出した鍵を見せる。


「フィン、まず僕だけ、ここから出してくれないか? 僕は運営と連絡することができるんだけど、牢屋の結界内だと通信障害か何かでできなかったんだ。牢屋から出られれば何か情報が得られるかもしれない」


「それはもちろんいいけど、運営と通信ってなんだい?」


「……運営っていうのは、仲間だよ。知りたい情報を教えてくれるかもしれないんだ」


「すごい! 遠くにいながら仲間と話せるの?」


フィンが少し興奮しながらそう言うと、鍵を差し込んで時計回りに半分ほど回した。


すると、カチャリと小さな音を立てて、牢屋の扉が開く。


「すぐに戻るから、ちょっと待っててね、ヒカリ」


「うん! お願いね、シロちゃん」


シロは牢から出ると、フィンの肩に乗り、丸くなって目を閉じる。


一見すると寝ているだけのように見えるけど、これが通信というものなのか?


フィンは気になりつつも、そろそろ看守が戻ってくる時間になる。


次の夕食時の休憩に戻ることをヒカリに告げ、シロを肩に乗せたまま建物を出た。


すれ違うエルフにシロを見られても、特に反応はない。


森に住むエルフは動物と共生しており、鳥や様々な動物を肩に乗せていることは珍しくなかった。


夜までに何かしら作戦を考えようと、牢屋から世界樹の道を行ったり来たりする。


距離にして約500メートル。


朝から晩まで、どのタイミングでも、世界樹前の待機所には戦士長がいることは確認済みだ。


3往復ほどしたが、何も考えが浮かばない。


シロは丸まったままで、話しかけても何も返答がなかった。


仕方なく自宅に戻ろうとした時、肩で丸くなっていたシロが体をほどき、飛び降りて地面に着地。


すぐに里の入り口に向かって走り出した。


「どうしたの!?」


フィンがシロの背中に叫ぶ。


「説明している時間がなさそうなんだ――着いてきて!」


(なんだよもう)


フィンは軽く悪態をつきながらも、シロに置いていかれないようにダッシュ、里の入り口を抜けて森に入るところで異変に気づいた。


(誰かが……戦ってる!?)


戦闘音が一瞬だけ聞こえ、数人がドサリと倒れる音がする。


エルフ数人で取り押さえたのだろう、バタバタと抵抗する音が聞こえるが、侵入者は捕まったようだった。


シロはフィンの肩に飛び乗り、様子を伺っている。


「捕まったのは人間だよ。緊急事態だから運営に確認してもらい、エルフの里を目指す人間が3人、里に到着する直前だという情報をもらったんだけど、ギリギリ間に合わなかった。捕まってしまったみたいだ……ヒカリと同じで牢屋に入れてもらえればいいんだけど」


しばらく待っていると、エルフ数人に連れられて3名の男性が現れた。


シロは見覚えのある顔だったが、3人はシロのことを覚えていなかったらしく、そのまま素通りし、牢屋の方に向かって連行されていった。


「よかった、牢屋に連れて行かれるみたいだ。フィン、あの3人に協力してもらえれば、世界樹の前まで辿り着けるんじゃない?」


「え……まあ確かに、人数的にはいいかもしれないけど、あの人たちって、強いの? うちの戦士長、すごい強いよ?」


「うーん、強いはず? だけど……」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「なんなんだよ、霧で何も見えない中でいきなり捕まえるとか卑怯だぞ!」


「「そうだ、離してくれー!!」」


エルフたちは叫ぶ3人を無視して、牢屋に連行する。


看守と二言三言ふたことみことやり取りをし、3人を引き渡すとまた森に戻っていった。


看守が牢屋の鍵を開け、その中に放り込まれる。


「いてぇ、くそっ」


ガチャンと扉が閉じられ、外が一切見えなくなる。


木の柵でできてる牢屋のはずが、間から何も見えないのはどういうことだろう?


不思議に思いつつも、それどころではない。


Anotherアナザー Earthアース の掲示板でエルフの里で捕まっているという書き込みを見た時、牢屋に入れられてしまった少年、陽斗は直感でヒカリからのものだと気付いた。


その後何度呼びかけても返信がなかったのが不安だったが、ヒカリが街を出る直前に会った時、エルフの森に行くと言っていたのもあり、ヒカリの身に何かあったんだと急行することにしたのだ。


ただ、霧の森が想像以上に厄介で3人で何日も彷徨さまよった挙句あげく、最終的に何もできずに捕まってしまったのが現状だった。


ミイラ取りがミイラ……。


恥ずかしくて悔しくて、扉を思い切り叩くがびくともしない。


ただの木であれば粉々にできるはずが、特殊な牢屋らしい。


「ふぅ……ダメみたいだ……お前ら、これからどうす……」


そう言って後ろを振り返った陽斗は、牢屋の奥に縮こまって震えている小動物……いや、ヒカリを見つけた。


「ヒカリ! 無事か!」


陽斗は駆け寄り、ヒカリの肩を掴む。


「へっ!? は、はい!?」


明らかに困惑している。この反応はもしかして……。


「お前、もしかして、俺たちのこと覚えてないことないよな?」


「……う、え、ええ……っと」


「「「ふざけんなーーーー!!」」」


「え、ええええええ!? す……すみません!!!」

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