第5話 見えない地平線まで
じいちゃんの初盆。
私は高校生になってた。
夜になってこっそり海岸に出掛けた。
花火をしようと思ったんだ。
真っ暗な海から聞き覚えのあるギーコギーコと
音がした。
「あれ、じーちゃんの漕ぐ船の音?
まさか、、、。」
海を見つめてたら、一艘の船がすーっと
私に向かって真っ直ぐにやって来た。
「風華?久しぶりやの。
なんちゅう、顔だ。ふぉふぉふぉ。」
「じいちゃんだ!!でもどうして、じいちゃん死んだんだよ。まさか、気づいてないの。」
「んにゃ、わかっとる。
あのな、風華に会いたいちゅうでの連れてきたんじゃわ。」
「誰?ばあちゃんは生きてるし、、。」
「ふうちゃん。懐かしいね。」
「その声、なっちゃん?
本当なの、なっちゃん!!
なっちゃんのバカ、バカ。私、、、。」
私は泣いた、わんわん大声で泣いた。
「ごめん。ふうちゃん。」
なっちゃん、抱きしめてくれた。
「なっちゃん、今ならわかるんだよ。
でもね、あの頃の私はまだ子供でね。
だから、なっちゃんが悩んでるのがわかんなくて、、。だから、すごく後悔したんだよ。」
「ふうちゃん、やっぱり優しいね。
あの時ね、お父さん浮気しててね。
お盆も浮気相手と海外に行ってたんだよね。
お母さんも知っててね。なのに、喧嘩もしなくてただイラついてたの。
お父さんが家に時々しか帰らなくなって、お母さんの私への期待がどんどん膨らんでね。
私はそれを受け止めるのが苦しくなっちゃって。じいちゃんが、土用の海には行っちゃならん。海の泡になるって言うじゃない?
海の泡って素敵じゃない?
そう思ったら止められなくなってね。」
「なっちゃん、、、。
あのね、あれからおばちゃんとおじさんね
やり直してるよ。
施設から養子をね引き取って育ててるよ。
女の子でね、、。
とーても、お転婆なの。」
「知ってる。良かったなぁ。
お父さんとお母さんが仲良くしてくれてるのをね、時々、見にいくの。
女の子と笑い声がしてるとね。私もあんな風に
笑いたかったなぁってね。
でも、いいの。じいちゃんが来てくれてね。
楽しいんだよ。」
「そうなの。
私はさみしいよ、なっちゃん。ずっとなっちゃんはお姉さんみたいで一緒にいてくれると信じてたから。」
「もーう、泣かないの!
あ、花火。やろうよ、ふうちゃん。」
じいちゃんは船の縁に腰掛けてタバコをふかしてる。
私となっちゃんは花火をした。
最後の線香花火に火をつけた。
「なっちゃん、来年もその次も会える?」
「ふうちゃん、これはね、一回だけなの。
じいちゃんがね、船を出せるのが一回だけなの。
ふうちゃん、あの日の事は忘れてしまいなさい。
そしてね、これから沢山いろんな事を経験してね。私、見てるから。応援してるから。」
その時、線香花火の火玉が落ちた。
火薬の匂いだけを残して、なっちゃんも
じいちゃんもいなくなった。
「なーーーちゃぁぁーーーん、大好きだよ。
じいちゃん、なっちゃんの事をお願いだよー!」
夜の海の遠く遠く見えない地平線まで
届けと叫んだ。
了
土用波 菜の花のおしたし @kumi4920
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