#031 これが1番良いヤツだ
「これが1番良いヤツだ。どうだ、全然違うだろ??」
「たしかに、違和感が無いですね」
あれから俺は、エルダーの討伐報酬の半分、50万を貰ってニブールで装備を整えていた。
「それで! このあとはどうします!? 少し早いですけど食事にしますか!? それとも…………あっ! 宿は! 宿はとっていますか? 必要なら早めにとっておかないと!!」
早口でまくし立てるコロン。やはりエルダーの単独討伐はそれなりに凄いことだったようで、それ以降、尊敬や憧れの眼差しを向けられるようになってしまった。悪い気はしないし、ニブールの地元民なので何かと助かっているが…………出来れば俺の能力は秘密にしておきたいし、何より変に注目を集めたくない。
「あぁ、宿は…………しまった。連れと、話をつけていなかった」
展開が大渋滞で目が回る。エルダーの討伐報酬は、高額なのと事後の確認もあって残り半分は後日となった。いつになるか分からないが、日をおいてまたニブールに来なければならないのだ。
それはさて置き、報酬で真っ先に買ったのは翻訳の魔道具や、冒険者が携帯している便利アイテムたち。あとは包丁や日用品も買っておきたい。
「あぁ、それじゃあいったんテーアイの商会事務所に戻りますか?」
「そうだな、っと! その前に、テーアイって、実際どうなんだ?」
「どうとは??」
テーアイ商会は、言ってしまえば悪徳商会だ。ニブール周辺の副道に飼いならしたウルフを放ち他者を襲わせ、独占体制もきずいている。日本の法律や倫理観的にいえば完全アウトだが…………この世界の基準的にどうなのか?
「悪い噂とか、評判的な? いちおう、ニブールでは1番(の商会)って話だけど」
ようするに郷に入っては郷に従えだ。この世界の法律的に(かなりグレーだろうが)問題無いなら、かっこつけて俺がテーアイを断罪したところで罪にはとえないし、なんなら俺の方が罰せられる可能性もある。もちろん普通に迷惑なので、(法で裁けないにしても)何らかの形で懲らしめてやりたい気持ちはあるが、その場合も行動は慎重におこすべきだ。
「あぁ、たしかに悪い噂は聞きますけど、そんなのどこも同じですし、別に? というか、いちおう地元
なんとも微妙な表情だ。たしかに日本でも、幅を利かせている地元の企業や政治家ってのは居るものだが、悪い噂を聞いても案外地元民も無関心というか、よほどバチバチにやり合っていなければこんなもの。被害者も基本的に余所者の商人であり、それがなくても街の外に出れば魔物に襲われるのは当たり前。
命の重みや倫理観・法整備は、日本には全く追いついていない。しかし現代の地球でも、軽犯罪をいちいち裁いていられない地域や、戸籍すら管理していない地域は沢山ある。この世界に身を置く以上(従うかは別にして)『この世界の常識』は知っておかなければならない。
「あぁ、それならいいんだ。いちおう知り合いが世話になるだろうし、俺だって今後も何か頼まれるかもだからな。何かあったらと思っただけだ」
懲らしめるにしても、悪が潰れて迷惑するのは悪のみならず。魔物もそうだが、それがある前提で経済が回っている以上、むやみに排除すれば大きなひずみが生まれる。今回なら関連業者や近隣の農民が稼ぎを失い、身売りや自殺者が出るところまでいくだろう。それが想像できないほど、俺は世間知らずのお子様ではないつもりだ。
「そうですか。その、必要なら本格的に調べますけど……」
「そこまでは!!」
「!!!?」
「いや、なんでもない。とにかく、テーアイのことは一旦忘れてくれ」
「はぁ……」
さすがに『翌日、コロンが遺体で……』みたいな展開になったら、寝覚めが悪いどころの話ではない。
「そうだ、コロンはいいのか? その、冒険者として働いているんだろ??」
「あぁ…………まぁ、いちおう。新人の仕事なんて、知れていますけど」
「そうか。まぁ、そうだよな」
ゲームでいったら、周辺の草原で薬草やクエストアイテムを集めている段階。俺との一件は、ボーナスイベントみたいなものだ。
「その! それで、よければですけど…………今後も……」
「あぁ、そうだな。まだ今後の予定は決まっていないが、とりあえずニブールにいる間は案内を頼む。もちろん、日給もだすから」
「やったっ!! 本当に、ほんとぉ~~~に、だす”がりま”す”ぅ……」
新人冒険者の生活は、本当に大変なようだ。
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ゼロからはじまる異世界冒険記。 行記(yuki) @ashe2083
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